010


 ひとしきり狩り終わった後、モンスターが襲ってこない安全地帯へと移動した。


 そう言えばここの湿地帯って超低確率でが出るんだっけ。……出現しても面倒だし、そろそろ街に帰った方がいいのかも。


「ねえアルト、見て見て! 今朝まで1Lvだったのにもう65Lvよ、わたしってもしかして才能あるのかも!」


 コトハはうなぎ登りに上がったLvを見ていつもの調子を取り戻していた。


 さっきまで泣き喚いて俺にべったりだったのと、意外とデリケートなことが分かったので今後はもうちょっと優しく接してあげようと思う。


「まあ……そうだといいな。あとそろそろステータスは体力に振っておいてくれ。Lvが高くなるにつれてモンスターの攻撃が痛くなってくるから」


「心配しないでもう全部振り終わったから」


「……体力にか?」


「何を言ってるのアルト。筋力に決まってるじゃない」


「……」


 コトハのプロフィールからステータスを確認する。


 体力1、筋力66、魔力1、知力1、幸運1。


 なかなかに面白いステータスだ……たぶんモンスターに一、二回殴られただけでダウンするな。これはいったいどうしたものだろう。


 やっぱり彼女は全行動がマイナスになるようなデバフを受けているんだろう。前世はたぶんフランダースの犬のネロだな。うーん、それなら仕方ない。しっかりと面倒を見てやらないと。


「ほら、パーティーは役割分担が大事なのよ。わたしがすべての敵を倒していけば、体力なんて振る必要が無いって気づいちゃったの。どう賢いでしょ」


 コトハは自信満々に慎ましい胸を張っている。


 ポイントを体力に一切振らない行為は、地雷を通り越してもはやトロールだ。とは言えステータスポイントの割り振りは、初心者が陥りやすい罠だからなあ……。


 実際にひどい目にあって理解するしかないのかもしれない。俺も昔はそうだったし。

 

「ところでアルトはどうしてそんなステータスにしてるの? 魔力に20も振ってるけど……ファイターに魔力はいらないんじゃない?」


 コトハにしてはまっとうな指摘が飛んできた。


 俺のステータスは、体力20、筋力20、魔力20、知力9、幸運1、というあんばいになっている。


 一見するとバランス的なステ振りに思えて、俺の職業はファイター。物理職に魔力はまったくといっていいほど必要ない。――隠し職業ジョブを開放しないならばの話だが。


「それは転職してからのお楽しみだ」


「いま教えてくれないの?」


「楽しみはあとにとっておいた方がいいだろ」


「む、むむむむ……」


 コトハが悔しそうにうなっている。そんな声を出されても俺は知らんよ。


「――ねえ、あのさ」


 帰路を辿っている途中、コトハがふと視線を合わせながら言ってきた。


「なんだ?」


「べつに大したことじゃないんだけど……その、お礼を言いたくて。ありがとうね、こんなわたしに付き合ってくれて。おかげですごくLvがあがったし、パーティー組んでくれたのもアルトだけだったから、その……感謝してるの。ほんとに」


 もじもじとしながら、コトハは顔を赤くする。


「いやまあ……見捨ててはおけないだろ。初心者だからって差別するようなことは俺はしない。それだけで特には」


 まさか彼女の口からお礼が出るとは思っていなかった手前、やや返事にあぐねいてしまった。好き勝手やる割には、意外と素直なのかもしれない。


「……」


 やけに生暖かい左手を見る。どうしたことかコトハが俺の手を取っていた。やや汗ばんでいるような気もするが、何かあったのだろうか。顔も赤いし……風邪? いやADRICAに風邪なんて状態異常はあったっけな――


「おいちょっと待て。あんたらさっきまでここで狩りをしてた冒険者だな」


 予期せぬ声が背後から鳴る。


 振り返った先、見知らぬ三人の男たちが剣吞な目つきで俺たちを睨んでいた。

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