第30話 古代の捕食者
「ストーム・リームの効果! 俺のライフが相手より少ない間、相手モンスターの
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エンシェンテラー・オパビニア
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「ふぅん、ただでさえステータスが低めのエンシェンテラーの能力がさらに下がると」
言っちゃ悪いけど、確かにクロンと比べて強力な能力だ。
俺と相手のライフの差に応じて切り替わる効果。どちらも純粋にメリットを享受できる能力で、しかも強力。一発逆転と防御に役立つ構成で隙がない。これでアイツに大ダメージを与えられる!
「よし、バトルフェイズだ! ストーム・リームでオパビニアを攻撃!」
『崩壊のストリーム・スパイラル!』
細腕でも力強く羽ばたき、ストーム・リームは飛翔する。
そしてドリルの如き速度できりもみ回転しながら急速降下してオパビニアへ突進し、粉々にその硬質な甲羅の体を打ち砕いた。
砕け散った破片の一部がマシアスを襲う。
だけど衝撃は軽微なものなのだろう。飛んできた破片を腕で払うと、硬質な質量弾であるはずの破片はそのまま地面にぽとりと落ちてしまった。
ホント相手にだけ衝撃を増幅させることができる装置ってズルいよな……。相手にも痛みを与えたいわけじゃないけど、不公平に感じる。
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マシアス
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「……クフ、フフッ。オパビニアが戦闘によって破壊された時、伏せていたスキル、
「あれはっ!」
「なぁんだ、知ってるの? まぁいいや。自分のモンスターが戦闘によって破壊された時、お互いにデッキを上から5枚墓地に送り、僕はライフを1回復する」
本格的にまずいな。ここからさらに5枚デッキを墓地に送ると、俺のデッキはもう10枚を切ってしまう。それだけもう俺には戦略が残されていないことになる。
墓地を活用するからといって、ここまでカードが使えなくなると逆に戦術に支障が出るな。
マシアス
「ライフが変動したことでストーム・リームの効果が切り替わる。俺のライフがアンタのライフ以上の場合、ストーム・リームは戦闘で破壊されなくなる!」
リームの体が空中に現れた薄い色素のサファイアに浸かり、覆われる。形はブリリアントカットという奴だったっけか。
宝石の中に隠れる竜というのは幻想的で、ゲームやおとぎ話に出てくる封印されたヒロインみたいだ。
宝石のバリアは絶対に、中にいる彼女へ危害が及ぶ衝撃を通さないのだろう。
「ふぅーん。劣勢時の弱体化効果から、優位に立った瞬間に防御効果へ切り替わるんだ。中々いいね、属性も水のようだし……直前の姿も墓地を利用する効果だし、カードに吸い込まないで僕のカードとしても使っていいかな」
「そんなことをリームにしてみろ! 私はペナルティを受けてでもあなたの喉に食らいついてやります!」
ダメージを受けてもなおひょうひょうとした態度でいるマシアスの言葉にクロンが吠えた。
当然俺もそんなことは絶対させない。何が何でもアイツだけは倒して、クロンとリームを守って、吸い込まれた人たちをどうにかする。
「俺はバトルフェイズからメインフェイズ2へ! ……カードを2枚セットしてターンエンド!」
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朝陽 手札2枚
●モンスター
●スキル伏せ2枚
マシアス 手札1枚
●モンスター
なし
●スキル
なし
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相手の手札はたったの1枚、モンスターもスキルもなし。次にストーム・リームの攻撃が直撃すればこちらの勝ち。確実に追い詰めているはずだ。
あとは相手が形勢逆転のカードを引かないことを祈るのみ。リームを処理できるカードを引くなよ、こっちだって今はリームの能力しか防御手段がないんだ……!
「僕のターン、ドロー。ふっ、僕はドローした後のスタンバイフェイズに、墓地に存在するエンシェンテラー・ピカイアの効果発動」
「メインフェイズじゃなくてスタンバイフェイズに……? もう一つ効果があるのかっ」
「エンシェンテラーはみんな弱体化の共通効果を含めて2つ以上の効果を持っていてね。僕はこのカードを手札に戻し、このターン中はエンシェンテラーと名のつくモンスターしか場に出せなくなる」
召喚制約付きのコスト補充効果か。召喚するためのコストを1枚分確保できるのだから、何らかの行動に対して規制をかけないと後に暴れるからな。
異世界でも好き勝手にカードを作るとか、バランスを崩すようなことは行われていないみたいだ。
だけどそんな分析を行っている場合じゃない。ピカイアを回収したということは、何か大きなモンスターが来る予感がする。
「僕は手札2枚をコストとして、現れろ! 旧海を支配せし獰猛なる捕食者! エンシェンテラー・アノマロカリス!」
『ギュウア゛アアア゛ア!』
身の毛のよだつ咆哮に耳を塞いでしまいそうになる。盛り上がった地面を跳ねのけて姿を現したのは、オパビニアと似たような茶色で小判型の体形を持つ奇妙な生物だった。
口元に2本の巨大な垂れ下がった爪を持ち、カタツムリのように左右へと飛び出した目。目の先はデメキンみたいに膨れ上がり、しかも……昆虫を思わせる網のような複眼。
うっ、くらっとする……あまりに気持ち悪くて。
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エンシェンテラー・アノマロカリス
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「く、うっ! 気持ち悪い!」
「失礼だなぁ、見なよこの現代のモンスターには見られない
「俺は全然感じないけどね……!」
バージェス動物群と言われた生物の中でも、最大級の大きさを持つと言われるアノマロカリス。かつての海を支配していたとも言われるバージェスのボスキャラだ。
オパビニアが無効化効果だったのだ、絶対に厄介極まりない能力を持っているに決まっている!
でも、アノマロカリス以上のバージェス動物群はいなかったような気がする。
決めつけは良くないけど、アイツのデッキにいるモンスターがエンシェンテラーのみなら、アノマロカリスを倒せばそれ以上のモンスターは出てこないはず!
「そして攻撃の前に、コストとして墓地に送られたエンシェンテラー・ネクトカリスの効果を発動だ。お互いにデッキの一番上のカードを墓地に送るよ」
「また墓地送り……!」
墓地に落ちたのはダメージを0にできる
「クヒッ、クフフ、フフフ! さぁて、狩りの時間だ。僕はアノマロカリスの効果をストーム・リームに向けて発動するよ!」
アノマロカリスの複眼にいくつもストーム・リームの姿が映し出されたように見えた。いったいどんな能力を持っているっていうんだ!?
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