第29話 彼女たちの理由
「俺はセットしていたスキル、
オパビニアの無効化は1ターンに1度だけと宣言していた。この咆哮警報は問題なく発動できるはず!
マシアスは目を細めるだけで何の動作も宣言もしない。よし、これで逆転までの道ができる。
呼び出すモンスターはいくらでも墓地に溜まっている。
一度俺は
「俺はこの効果で、墓地から
淡い青色の粒子が粒子が、らせん階段のようにくるりと捻じれた角や弓のような形をしたハープを構築していく。
長い水色の髪を揺らし、竜のお姫様と称された乙女が戦場となるフィールドに立つ。
彼女とマシアスとの間に何があったのかはわからない。だけど、リームは彼を宿敵として見ているのだろう。
お淑やかな、という雰囲気は微塵もなく、ただ怒りと執念が混ざり合ったような怒気を全身にまとわりつかせている。
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「……
リームが左手に持つハープを鳴らすと、俺の周りに日が差した水面のようにキラキラと光るシャボン玉がいくつか発生する。
彼女が得意だと言っていた癒しの魔法。それがカードの能力として具現化されたものなんだろう。
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朝陽
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「さすがリームです! ご主人様のライフをギリギリから回復しちゃいました! これでご主人様はまだ戦えます!」
後ろにいたクロンが、俺も実によくできた能力だと思っているリームの能力を褒める。けど、リームはそれに振り向くこともせずにマシアスを視線から外さないようだ。
「リーム……」
「あぁ、せっかく傷を与えたのに回復されてしまったよ。まだ攻撃が必要かな? それに、怖い怖いだよその瞳」
「くっ……!」
リームの怒りをあしらうような態度に、さらに彼女の怒りが増した。つい最近知り合ったばかりだけど、彼女らしいとはとても思えない。
仲間が竜の里を滅ぼした、とマシアスは先程言っていた。リームとクロンはその生き残りで、マシアスはその犯人を知っている。
それだったらあの怒りを出すほどだというのもわかるし、絶対に首根っこを掴んで情報を吐き出させたいだろう。
俺だって家族や友人を皆殺しにされたようなものなら怒り狂う。
「カードに人を閉じ込めるあの魔術。あの魔術で、竜の里にいる人達はみんな消えてしまったわ……隠れていた私と、偶然里から離れていたクロンだけを残して!」
「このユズガルディ王国と、西のブギントネス王国の国境にそびえるナルタ山脈に存在する、竜の隠れ里の話でしょ? ウィンノルンから聞いたよ。1か月前に楽しくお片付けしてきたってね」
「お前ぇ! 何のためにそんなことをしたんですか!」
クロンが叫ぶ。リームは何も言わなかったが、まるで散らばったおもちゃを処理するような言い方に、拳がぎゅっと握りしめられる。
今まで出てこなかった、ウィンノルンという犯人の名前。今ここにいる誰もがその名を聞き逃さなかった。
「そう、実行者であるあの女はウィンノルンというのね。あの壊れた楽器のような笑い声……絶対に忘れない」
「おっとつい彼女の名を言ってしまった。ま、彼女ならこの方が喜ぶだろうね。何のためかは……残念ながら言えないなぁ。知りたければ力づくで聞いてみなよ」
「言われなくてもそうさせてもらうわ! バトルは終了したでしょう、早くターンを終了して」
「そうだねぇ。もう僕にはできることがない。っと、忘れずにカードを1枚セットしてターンエンドだ」
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朝陽 手札3枚
●モンスター
●スキル
なし
マシアス 手札1枚
●モンスター
エンシェンテラー・オパビニア
●スキル
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……壮絶な話が繰り広げられていた。俺は目の前のマシアスに加えて、他の奴も倒さなきゃならないということか。
でも、まずは今この場の勝負だ。
オパビニアの
問題はやはり防御手段であるだろう伏せカードと、何度でも墓地で発動するパワーを下げる効果!
後者は対策できるカードがデッキにないためどうしようもない。この俺のターンで一撃で勝負をつけるか、いい防御カードを引くしかない。
「俺のターン、ドロー!」
……いいカードじゃない。だったら次の相手のドローが良くないことに神頼みするしかない。
それでも、厄介なオパビニアは倒す!
「俺は
俺とマシアスの間、リームの足元にある空間が水面にぽたりと雫が落ちたように波打つ。
そこから間欠泉のように水が噴き出し、束ねられたまま曲がってリームへと降り注ぐ。
大量の水を通して見えるリームの影。どっという音に隠れてメキメキと骨や身が軋んで、徐々にその姿が一体のワイバーンへと変化していく。
水が降り注ぎ切った後には一人、いや、一体の美しき竜が翼を広げて吠えていた。
イルカやサメのような尾ヒレを持ち、水晶のように蒼く
後ろから見ても、その美しさは後で思い出しても惚れ惚れするほどのものだ。
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『グルルルルル……』
敵意をむき出しにしてリームが唸る。さすがにドラゴン相手だと油断はできないのか、さっきからニヤニヤと笑っていたマシアスの表情も真剣なものになる。
リームが一旦首を横にそらした後、オパビニアへ向かってもくもくと湯気が湧き上がる蒸気を強烈に吐き出した。
モンスターの肌ですら焼き上げて弱体化させるブレス。これが
もだえ苦しむオパビニアがその場で長い口を振り回し、いくつも頭部に存在する飛び出た目をぎょろぎょろと動かした。
虫が苦手な俺にとってはとっさに目を逸らしたくなる光景だけど、確実に弱体化できたことを確認するまでは我慢だ。
「なるほど、ここからが本気の勝負ってわけか」
それでも余裕を崩したようには見えないマシアス。あと一撃で決着を付けれないことは、表情から読み取られているのかもしれない。
見積もってあと俺とマシアスのターンが1回ずつ来ればいいところだろう。決着の時が近づいてきているのが嫌でもわかった。
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