第28話 這い寄る異形たち
『デッキ破壊』
文字通りに相手のデッキと戦術をズタズタにする戦法だ。
カードの効果でとにかく相手のデッキを墓地に送り、相手を攻撃以外で追い詰める手段。
このゲームではデッキが0枚の状態でドローしようとしたプレイヤーは負けになるため、俺はデッキが切れる前に決着を付けなければならない。
「僕の戦術に気づいたようだけど、対処できない時点で負けだよ! 僕のターン、ドロー。フィールドのハルキゲニアをコストとして墓地へ送って、手札からエンシェンテラー・オパビニアを召喚!」
やっと気持ち悪いチューブ状生物がいなくなった、と思ったら今度はまた奇怪な生物が飛び出してきた!
蜘蛛のようにいくつも頭部に点在する目に、象の鼻のような長い口。三葉虫みたいな全身を持って宙に浮かぶその姿は、まるで柔らかい小判へ掃除機のノズルを付けたみたいだ。
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エンシェンテラー・オパビニア
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「いやオパビニアって……そうか! バージェス動物群がモチーフか! どうして俺の世界の生物がこの世界に」
「バージェスなんちゃらは知らないよ。僕はこのカード達が好きで使っているだけさ」
「いや趣味悪いぞそれ!」
恐竜がいた時代よりもはるか昔に存在したと言われている古き海の生物。それがバージェス動物群だ。
一度だけ興味本位でググって見たことがあるけど、その時はあまりの気持ち悪い姿の陳列にスマホを持ちながら卒倒しそうになった。
だとしたら、アイツのデッキには俺が苦手とする虫のような気持ち悪いモンスターのオンパレード……。カードに閉じ込められた人たちを助けるためだとはいえ、戦う気力が失せそうになる。
いや、駄目だ。俺の好き嫌いで大事な勝負を投げ出しちゃならない。
「とりあえず、僕はオパビニアの効果を発動。召喚に成功した時、僕はデッキの1番上のカードをめくる。それがエンシェンテラーと名のつくカードだったら墓地へ送るし、それ以外のカードだったら手札に加えるよ。……めくったカードは
フォートレスラーといい、この世界のカードはコストがコストになっていないカードが好きなのか?
コストとして支払った分がすぐ戻ってくるのはいいことだけど、相手にするこっちからしてみればたまったもんじゃない。
「そのまま手札に加えた
「5枚!? お互いにとはいえ多すぎだろ! 30枚だから6分の1を送るんだぞ!?」
「クヒッ、クフフッ、その通りさ。さあどんどん送っておくれ!」
相手のデッキの枚数はわからないけど、これで俺のデッキは……えぇと、残り12枚か。
既に半分を切ったということは、戦術の種類も半分近くなってしまったということだ。この速度でデッキが減ってくなら、あと2回俺のターンが来たらいい方かもしれない。
だけど、それは相手も同じなはず。俺のデッキだけじゃなくて相手のデッキも減っていってるのだから。
「僕の戦術もだんだん減っている。そう思っている顔をしているね?」
顔には出していないと思ったけどバレたか? 正直言って図星だ。
「でも残念。デッキ破壊だけが僕の戦術じゃないんだよねぇ。僕は
マシアスが左腕に付けた
それより砂と鉄でできたゴーレムの触手プレイとか誰得なんだ!
「ハルキゲニアが墓地に存在する時、1ターン1度だけ、ターンが終了するまで相手モンスターの
「でもサンド・バウンサーの
「そうさ! 僕はもう16枚もカードを墓地に送っているんだ。その中に同じような効果を持つエンシェンテラーが何体いると思う? 僕は続けてハーペトガスターの効果を発動!」
しまった! 他のエンシェンテラーも同じような効果を持っているのか!
だったら余裕でサンド・バウンサーの
「これでサンド・バウンサーの
「サンド・バウンサーの
「それだけじゃない。エンシェンテラーの効果で
四方八方の地面からうねうねとこぶつきや棘付きの触手が伸び、サンド・バウンサーの体をがんじがらめにする。
腕や腹、足を縛られ、強力な力を持つはずのサンド・バウンサーはもう抵抗できるだけの力を出すことができない。
やられた! モンスター同士の戦闘でモンスターが破壊されたら、
オパビニアの
「さあ行くよ、バトルフェイズだ! オパビニアで
「だけどその攻撃は通さない! 攻撃宣言時に伏せスキル発動、バイバイホームラン! オパビニアを手札に戻す!」
だがそれだけのダメージを受けるわけにはいかない。
エンシェンテラーの弱体化効果はターン終了時までだから、オパビニアを手札に戻して直接攻撃すれば押し通せる可能性が出てくる! ピンチの後にチャンスが来るとはよく言ったものだ。
いや、でも、なんでアイツはバイバイホームランのカードを見て笑っているんだ?
「そうかそうか、それを通したらむしろ僕が追い詰められてしまう。だけどねぇ! オパビニアのもう一つの効果発動! 1ターンに1度、バトルフェイズ中に発動した相手の効果を無効にできる!」
「なっ!? くそっ!」
オパビニアの長いホース状の口が伸び、起き上がったバイバイホームランのカードへ向かって叩きつけられる。ここで効果を無効化する効果は痛い。
無効化とは言葉通りに、そのカードを無かったことにする効果だ。このままオパビニアの攻撃は通ってしまう!
「さぁ砂の塊を吹き飛ばせ! スプラッシュ・ノズル!」
長い口からウォーターカッターかとでも思う勢いで水流が発射される。触手まみれのサンド・バウンサーはそれに撃ち抜かれて砕け散り、そのまま突き抜けたそれが俺にも突き刺さる。
「ぐうう、うっ!」
大事なカードを盾にするわけにもいかないため、右手でそれを可能な限り防御した。
だけど、思いっきり振り回した腕が机の角に当たったと思うような痛みを味わった後、俺の体は勢いに耐えきれずに後ろへ飛ばされる。
フォートレスラー パワー・ボマーに頭を地面へ叩きつけられたほどまでの衝撃はないけど、それでも右腕にはすぐに動かせないほどまでに痛みと痺れが残る。
あともう一撃でもくらったら右腕が使い物にならなくなるかもしれない。
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朝陽
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「だけど……ホント、ピンチの後にチャンスはやってくるっていうよな!」
そうだ。このダメージを利用して俺はできることをやる! 自分を犠牲にしてでも、俺はカードに吸い込まれた人たちを助けないと!
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