第12話 心ある商品
「リーム! まだその人たちと契約してないですか!?」
「クロン……!? なぜ来たの!? 逃げなさいと言ったのに!」
「リームを見捨てることなんてできません! 助けてくれる人を連れてきたんです! もう大丈夫です!」
商人達とリームから少し離れたところでクロンは急停止。さすがに自分一人が立ち向かっても無駄なことは理解しているようだ。
「カルンガの旦那ァ! ドラゴンを連れてきたぜ。まぁ、俺は負けちまったんだけど」
「姉御と呼べっつってんだろォ!? つーか、連れてくるではないじゃない! 完全にアンタが連れられてきてんじゃない! 捕獲失敗してんじゃないのよぉ!」
「うわっ、何だアイツ……」
俺達の後ろから商人の側へ歩いていく巨漢を怒鳴りつける、カルンガという男……男と呼んでいいのか!?
胸元ははちきれんばかりに空いてるけど、その中にあるのは柔らかな胸じゃなくて筋肉。厳つい顔に厚い口紅が絶望的にミスマッチ。おまけにさらっさらで長めの金髪。それはイケメンに生えるものだろ。
その頭は、なんというかラーメンとかカレーライスのようなこってりしたものに、金のカツラをのっけたような感じだ。強烈に気色の悪い印象が植え付けられてしまった。
「あぁん? 何見てんのよそこの帽子のガキンチョ。何か私の顔に付いてる?」
「えっ、いや、ちょっと目が離せなくて……」
「目が離せない!? それってワタシがとおっても奇麗ってことよねぇ!? いやぁ~ん、さっきお化粧直しした甲斐があったわぁ~!」
たじろいだ俺の言葉をポジティブに受け取り、くねくねと腰をひねり肩を震わせるオカマ商人カルンガ。
せめてヒゲだけは完全に剃ってくれないだろうか……
「はぁ~、今日はホントに良い日だわ。褒められもしたんだもの。と・こ・ろ・でぇ」
カルンガの目つきが浮ついて釣り上がったものから、真剣になったことを表す細いものになる。同時にぞろぞろと、大型トカゲ車達の荷台や地面に下ろしていた荷物の陰からカルンガの仲間が出てきた。
「ようこそカルンガ商店へ。このお店では珍しい昆虫のモンスターから猛獣のモンスターまで数多くの品をそろえております。お支払いと秘密さえ守っていただければ、強力で高級なカードはあなたのもの。今日はどちらをお求めですか?」
なんだこいつ、ふざけているのか……?
「アサヒさん、なんだかあの人たち不気味です……」
カルンガが放つ生命の危機を覚えるような雰囲気に気圧され、クロンがたじろぐ。俺も下がってしまいそうになるけど、そうはいかない。
あのリームという少女の自由がかかっているんだ。今、助けられるのは俺とクロンだけ。
「覚悟決めるぞ、クロン。……その奇麗な青色の服を着た女性を迎えに来たんだけど」
「あら、こちらの商品ですね? 申し訳ございません。こちらの商品はオークションにかける商品故、現在販売を行うことができません。ドラゴンをお求めであればちょうどエルダードラゴンのカードが1枚――」
「ふざけるな! 人を商品として扱うなよ! 返す気がないんだったらブレイクコードで勝負だ。俺が勝ったらリームを解放しろ!」
「カード化の呪術が適用される生物が人? それに私どもが商品を無償で手放す? 御冗談を。手荒な真似をするというのならこのカルンガ、実力行使で退店に追い込ませていただきます」
カルンガは左腕に橙色で楕円形の
今持っているデッキの枚数は28枚だけだ。だからクロンの力が絶対に必要となる。
「クロン、行ける?」
「はいっ、アサヒさん。私、頑張ってリームを助けます!」
やりましょうと頷いたクロンが光となって小さくなり、手の上のデッキにカードとして飛び込む。これで30枚!
絶対にアイツを倒してリームを助ける! あの人には今、俺が必要だ!
「いいでしょう。いや、いいわよぉ! で、それで? あなたは何を代償として差し出すのかしら?」
「え?」
「こっちは奇麗なリームちゃあんを差し出すのよぉ? これは賭け
差し出す物……? こっちにはデッキぐらいしかない。いや、同じドラゴンのクロンなら釣り合うけど、彼女を賭けの道具として使う訳には……
「いやカルンガの旦那。あのドラゴンは……」
「だからぁ! カルンガの姉御って呼べって言ってるでしょおおお! アンタたち何回言えばわかるの! 正座! ……ほら正座!」
なんかよくわからないけど、時間は稼げるようだ。
だけど、時間を稼いだところで何か
服? いや、クロンやあの商人たちの姿を見るに、プラスチック繊維でもあまり値段は付かないかもしれない。
馬車を使ってはいるけど、この世界の文明レベルが完全にわかったわけじゃない。魔法の馬車とか超技術馬車とか、そんなものだったりして。
「アサヒさんアサヒさん、もしもーし」
「ん? えっ、クロン!?」
「はい! 一時的ですけど、
びっくりした。声がしたと思ったら、左腕の
彼女によって一時中断した思考を立て直そうとする間に、
「アサヒさん、ここは私を賭けに使ってください! そうじゃないと、まず
「何言ってんだ! 女の子を道具にするなんてそんなことが――」
「でも必要なんです! アサヒさんに迷惑をかけてすみません。だけど、私絶対にリームを助けたいんです! だから……」
「……わかった。だったら絶対に勝つぞ、クロン」
「はい!」
そう応えてクロンの姿は光の塵となって消えた。デッキの中に戻ったのだろう。
「アンタたち少しは学習しなさい! だからその実力を安い値で買いたたかれんのよ! はいはいはいこれで説教終わり! 次言ったら分かってるわね!?」
よっぽど心に来ることを言われ続けたんだろうな。さっきまで勝気だった商人と
大の男たちが正座で涙浮かべて、一体何を言われ続けたんだろうか。
「待たせたわね、賭けの対象は決まったかしら?」
「ああ、俺はクロンを賭ける。これで勝負だ!」
「決まったわねぇ! 今すぐ始めようじゃないのぉ! ドラゴン同士を賭けたシビれる
「行くぞ……!」
「「
勝負が始まった直後、自分のターンであることを示すランプに明かりがついた。今回の勝負はこちらが先行。絶対に負けない!
だが意を決した直後に、暗い紫色のドームがカルンガの
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