第2章 ポンコツドラゴンは諦めない!
第11話 リームという少女
「くっ、くそっ!」
「俺達の勝ちだ!」
変身が解けて人間の姿に戻ったその場には、ボサボサで緑色のツインテールの髪型が特徴のクロンがいた。さっきまで元気良い声を発していた彼女だ。
竜巻の中で破けた服は元に戻るんだな。……ちょっとだけ、イヤーンな展開を期待した自分が恥ずかしい。
「かっ、勝ちました。私たち勝ちましたよアサヒさん! さあ名前も知らない大男さん、リームを返してください!」
クロンは成功したら調子にのっちゃうタイプなんだろうか。
槍を向けて男を威嚇するが、勝負が終わったせいか槍は砂となって地面に消えてしまった。
そして立体映像とはいえ、飛び散ってきた岩石を映すエネルギーの衝撃に倒れていた男がぬっと立ち上がる。
しかしホントに大きな体だな。数メートル離れていても一歩退いてしまいそうになる。
「ひょえ!」
自分の獲物が消え、立ち上がった男がやはり怖いのかクロンは俺の背中に走って隠れてしまった。
うん、やっぱり調子に載っちゃうタイプだな。
「俺は雇われ
「なっ、だったらリームの場所まで連れて行ってください! 私とアサヒさんで取り返してみせます!」
「いやっ、クロン。もうちょっと作戦とか――」
「さぁ、どうしたんですか! 負けたら勝者の言うことを聞くのがマナーですよ!」
……いや、そんなマナーあったのかよ!?
もし負けてたら、俺はカード全部奪われるとかあったんじゃないのか!? そういうデメリットは先に説明してほしかった。
「ハハハ! 俺を倒すだけでも苦戦していたのに、旦那を倒しに行くと? まあいい、残りの竜族を旦那の下に連れていくのが仕事だからな。負けたが一応仕事は達成になるか」
リームを捕まえている商人の元には連れて行ってくれるらしい。こっちは一人、相手は複数だろう。
何か作戦とか欲しかったところだけどしょうがない。時間はないみたいだし、さっさと敵のボスの元まで案内してもらおう。
「わかった、じゃあ案内してくれ」
「へへへ、後で旦那のテクでひぃひぃ言えばいいぜ……俺も恋しくなってきた」
……なんだろう。その言い方に今、ゾクッと来た。恐怖ではなく、気色悪さ的な意味で。
――――
足を踏み出す度に、地面に落ちている小枝や枯葉を踏みつぶしたりして音が絶えない。
相当深くまで来ているけど、奥には玄人にしかわからない隠れ道とかがあるのかもしれないな。
一般人には知られていない悪人や強い人しか通れない裏ルートとかそういう奴かな……
「リーム、なにか酷いことされてないかな……」
段々と近づいていっているのは実感している。だけど、もしリームが傷ついていたらどうしようという恐れも大きくなっているみたいだ。
この世界は奇襲とか暴力とかそういうのはできないみたいだし、話しぐらいしても大丈夫だよな。クロンの気を紛らわせた方がいいかな。
……ホントは誰かに俺の気も紛らわせてほしいけど。
「なぁ、クロン。リームって子はどんな人なんだ?」
「えっ? そうですねぇ、いつもクールで冷たい感じですけど、実はすっごく優しい人なんです。知的で、努力家で、美人で……私の自慢の友達です!」
暗かった顔をしていたクロンが、一気にぱあっと明るくなった。この話題で成功だったみたいだ。
「クロンはリームのことが大好きなんだな。そんなに褒めるんだから」
「好き!? あっ、えーっと、どうしよう。私、リームのことが好きなんでしょうか。うぅ、女の子同士なのに……そう思うとなんか胸がドキドキしてきました。あうぅ」
「え? いやいやそういう意味じゃなくて、友達として」
「うわっ! 私とんでもないこと考えてました! 好きです好きですっ、友達として大好きです! ……って、何言わせるんですか!」
危ない! 何か未知の扉を開きかけたぞこの子! しかも俺が開かせるところだった!
顔が真っ赤だし、もう扉の向こう側をちらっと確認してしまったのではないかと危惧してしまう。これでリームにひかれたりしたら、俺の責任だな……。
「ううぅ、でもリームの方は私を友達として好きなのか不安になってきました。私、ドジで他の人より失敗しちゃうし……」
「それは大丈夫だと思う。普通、ウザかったり近くにいてほしくないなら追っ払っているだろ」
「そ、そうですよね! 私が何回も試験や料理、掃除、飛翔などで勝負を挑んでも涼しい顔で受けてくれますもん! 毎回負けちゃいますけど。きっとリームも私のことが好きですよね!」
それ、実はウザがられていないか? と俺の方が心配になってきた。実際は自尊心を満たすために仲良くしているとかじゃないよな?
変な邪推をしてしまう。話を聞けばエリートタイプの人みたいだし、内心クロンのことを下に見てるとか……
いや、やめよう。まだ一目すら見ていないのに変な決めつけはよくない。
そう反省している内に、クロンの目つきがキッと真面目なものになった。
「捕まっているリームはきっと助けを求めてます。リームは優秀ですから周りの人に疎まれてたりしました。それでも、一人ぼっちでいた私に手を差し伸べてくれたんです。だから、今度は私の番です! 絶対にリームを助けます!」
「ふんっ、お前らが旦那に勝てるわけねぇだろ。見えたぞ、あそこだ」
前を歩いていた巨漢が示す先、そこには木々の中に開けられた広場があった。目を細めて見てみれば、檻を積んだ馬車、いや大トカゲが引くトカゲ車があった。そしてその近くには――
「っ! リームがいます! 早く助けに行きましょう!」
縛られているのか、切り株に腰掛けて身動き一つしない水色の髪の少女。近くに立っている金髪の男が旦那と呼ばれている商人だろう。
クロンはそれを目にするなりすぐに駆け出した。作戦も何も用意できなかったけど、俺もその後を追って走る。
こっちの戦力は俺一人、相手は複数人、どうしたものか……!
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