第7話 継承の岩石巨人
「俺のターンだ。ドロー! ふふふ、こいつでプチッと潰してやるとするか!」
巨漢がにたりと笑った。明らかに切り札級やエース級のモンスターが来る笑いだろ、それは!
ブレイクコードにおいて、強力なモンスターを出す方法は二つある。
カードの効果で場に出すか、コストの数だけ手札・フィールドのカードを墓地へ送って召喚するかだ。
コスト1なら1枚、コスト2なら2枚というように。
どちらの方法で来るのかはわからないが、確実にこちらのフレイム・ソードマンを超えるモンスターが来るはず。
「俺は手札のガーゴイルの監視者、ナックルダスター・ゴーレム、ストーン・ザウルスを墓地に送り、このモンスターを召喚だ!」
は? コスト3? そんなモンスターはブレイクコードに存在しないはず……? コストは最高で2だ。
「このモンスターはカードを2枚以上、任意の数だけコストとして召喚できる! 3体のモンスターをコストに現れろ! 『ゲノムゴーレム インヘリタンス・エンキドゥ』!」
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ゲノムゴーレム インヘリタンス・エンキドゥ
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男が天にカードを掲げると共に地面が隆起した。
岩石の玉座とそこに座った人型の塊が地面をぶち抜き、その周りをダイヤモンドみたいにカットされた巨大な岩が3つ漂い始める。
玉座に座るその塊は、まさに高貴な王という風格を持っている。
厳かに腰かけてはいるが、その体から放たれる覇気はピリピリとこちらの皮膚を焼きつけるみたいだ。
「ハハハハ! こいつはすごいぞう!」
おまけに、初めの敵としては凄まじく驚異的な威圧感を放つそいつは、俺が見たことのないカードである。
こちらの世界オリジナルのカードなのだろうか。もしかしたらまだスマホのゲームに実装されていないか、実装前に没を食らったカードなのかもしれない。
だけど、その雰囲気の割にはステータスが決まっていない?
ステータスが「?」のままだと、ポイントは0として扱われるぞ? 最弱モンスターだ。
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ゲノムゴーレム インヘリタンス・エンキドゥ
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「なっ!?」
そんなわけがないだろうとあざ笑うかのようにエンキドゥの隣に表示されるステータスが急上昇する。
待てっ、いったいどこまで上がるっていうんだ!?
「インヘリタンス・エンキドゥの効果! このカードの
「
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ゲノムゴーレム インヘリタンス・エンキドゥ
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俺が言葉を言い終える前にエンキドゥのステータスが確定した。その値はコスト2、つまり最上級のモンスターをほんの少し上回る。
ほんの少しだ、だけど最上級のパワー標準値1万より高い、千という壁が立ちはだかる。
モンスター同士の勝負において『いい勝負だった』なんて存在しない。数値が1ポイントでも高い方が低い方を圧倒する。
しかも、今の俺のデッキにはそもそも
「バトルだ! インヘリタンス・エンキドゥでフレイム・ソードマンを攻撃! メガコロニー・ブレイク!」
技名とかあんのかよ!?
なんてツッコんでいる場合じゃない。
インヘリタンス・エンキドゥの周囲で浮遊する3つの宝石のような形をした岩石が光り出し、一斉にそれぞれから赤・青・黄のレーザーがフレイム・ソードマンに放たれた。
突然の一撃に炎の剣士は防御することすらできず爆散。そしてその爆風が俺を襲った。
「ぐあっ!」
先程の1ダメージはまだ軽いものだったのだろう。だが今回はパワーの差2にプラス1の補正を加えて計3ダメージ。
俺の体は衝撃で跳ね飛ばされ、着地などできるはずもなく後ろに倒れ込んでしまった。
爆発の衝撃をもろに食らった箇所が鈍く痛み、受け身すらできずに倒れたせいで視界がくらくらする。木に頭をぶつけなかったのは不幸中の幸いだろう。
「ははは! 紙のように軽いな! そんなヘナチョコボディとデッキじゃ、吹き飛んで当然か!」
「いつつ、こんなダメージが発生すんのかよ…………はっ、そうだ! ダメージを受けた時に、場に伏せていたスキルを発動する!」
タイミングを逃してはいけないと、俺は大慌てで
「相手ターンにスキル……ソニックスキルカードか! 3種類あるスキルの内の1つ!」
「簡単な説明ありがとよ! 俺はソニックスキル、
フィールドに伏せられていたカードが起き上がり、巨漢へと表面を見せる。
プレイヤーがモンスターをサポートするのに使えるカード、スキルには3種類ある。これは相手ターンでも発動できる種類のソニックスキルと言う奴だ。
それにしても凄いな、モンスターだけでなくてスキルも処理を行う時に実体化するのか。
「
今の手札はモンスター2体で、そのどちらもコスト0だ。
ここは頼んだ、君の力が必要なんだ。
「俺は手札から
自分のことをハズレアだと嘆いていた少女をフィールドに呼び出す。
光の粒子が俺の目の前に集まり、少女の形を作り出した。そして濃い緑色の髪、ライトグリーンの服、明るい色の肌、片手に携えた黒く細い長槍と徐々に色づいていく。
カードとしての眠りから目覚めた彼女は、頭上で長槍をぐるぐると回した後に先を相手へと向けて構え、頼もしく見得を切ってみせた。
が、カードの状態になっていてもこの勝負の状況は把握していたのか、直後に焦ったようにクロンは振り向いた。さらにマシンガンのように彼女の口から言葉が飛び出す。
え、だったら今の見得は何だったの? 演出?
「え、え~!? なんで、なんで私を出しちゃったんですかアサヒさん! ゲノムギョッ、ゲノムン、ゲノノッ……もういいやっ! あのゴーレムすんごく強かったじゃないですか! どー見ても私の能力じゃ勝てないですよ! フレイム・ソードマンの方がよかったじゃないですか! あっ、やめて! 発動しないでー! 私の能力、発動しないでー!」
俺の足元で落ち葉がくるくると回り出し、やがて俺の周りを旋回し始める。
俺を中心として緑の風のエフェクトが巻き起こり始める。そうだ、これは俺を巻き込む竜巻。
さぁ、君にも奴にも教えてあげよう。決して君は無能な少女なんかじゃないということを。
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