第8話 奮迅、竜乙女クロン
「あわわわわ! お願いだから止まって! い、今からでも他のモンスターを場に出すように考え直せませんか!?」
「いいや、考え直さない。
「本気ですかー!?」
「なに、やってんだ」
向こうの巨漢は俺の行動にハゲた頭をかいてあきれ果てている。
当たり前だろう、ブレイクコードではライフは6しかない。クロンの能力はその内の1ポイントを自ら削る能力。ましてや俺のライフは今3しかない。
ただでさえ半分になってしまった貴重なライフを投げ捨てるのだ。
普通のプレイヤーならまずこんなことはやらない。というか、クロンをデッキにすら入れはしない。
だとしたらクロンの能力はダメージを受けることが帳消しになるほど高いのか? そんなことはない。
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「うぅ、私の駄目なステータスをそんなにはっきりと見ないでください……」
確かに目の前に表示される彼女のステータスは、先程倒されたフレイム・ソードマンより低い。
だけど初心者の頃に組んだこのデッキは、クロンの能力と運命的ともいえるほどに噛み合っていたカードがあった。
やがて竜巻が俺を包み込み、命を削るために風の刃で切り刻む。
魔法か幻術かで映し出された立体映像だから傷つくことはないけど、ムチで叩かれたような痛みが走る。
自傷行為が終わった後には、ニヤニヤとしている巨漢の顔が向こう側に見えた。
見てろよ、その顔をすぐに驚愕の表情にしてやる。
「効果によるダメージを受けた瞬間、俺はさらにセットしていたもう1枚のスキルを発動! ブラスト・ドロー!」
「ダメージに反応するスキルだと!?」
「このカードは効果ダメージを受けた時に発動できる。俺はさらに1ポイントのダメージを受け、デッキから2枚ドローする!」
カードの消費が早いブレイクコードにおいて2枚の手札補充は強力だ。
自分の効果によるダメージを利用したのだとクロンが理解すると、ぱあっと彼女の顔が明るくなった。
さらに前からでもわかるほどに長めの尻尾をぶんぶんと振るう。
まるで犬みたいだ。うん、確かにクロンは子犬っぽい性格だな。
「私のダメな能力を利用して……! 私の能力を逆手に取るなんてアサヒさんはすごいです! 感動です! ……あれ? もう1ダメージを受けるって言いました? 今」
「こればっかりはしょうがない! ドロー!」
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朝陽
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「うわーっ!? アサヒさんのライフが1しか残ってない!? あの人のライフはまだ5もあるんですよ!? どうするんですか!?」
「ははははは! いくら手札が増えようと、ライフが風前の灯火じゃあ意味なしだ!」
そうだ、笑え。今の俺の状況を好きなだけ嘲笑って、隙を見せてみろ。
そう願って、俺は3枚の手札を確認して次の一手を考える。
……よし! 次の俺のターンでインヘリタンス・エンキドゥは処理できる!
「バトルは終了でメインフェイズ2だ。念には念を入れて、俺はカードを1枚セットしてターンエンド! お前の最後のターンだ!」
……そこは念を入れないでほしかったな。
だけど、このターンであの岩石怪物は終わりだ!
「俺のターン、ドロー! メインフェイズ! 俺はノーマルスキル、カウンター・ノックダウンを発動!」
モンスターやプレイヤーを支えるスキルは3種類存在する。
自分のターンにだけ使えるノーマルスキル、相手ターンでも使えるソニックスキル、使用するとフィールドに残るオブジェクトスキルの3種。
プレイヤーはモンスター以外にも、これらのスキルを駆使して戦うのだ。
今発動したのは一度使うと無くなり、自分のターンにだけ発動できるノーマルスキル。
カウンター・ノックダウンには発動条件があるけど、その分だけあって効果は強力だ。
「このカードは自分のライフが相手より少ない場合に発動できるっ」
「ちっ、発動条件のあるカードか。厄介そうだな」
「この効果により、このターン中に俺のモンスターが相手モンスターを攻撃した時、
これでクロンは、その倍以上のパワーを誇るインヘリタンス・エンキドゥを一方的に破壊できる。相手が攻撃時に伏せカードで防御しなければだけど……。
しかし決まれば相手に3ポイントのダメージ。まだ勝負はわからなくなる。どうか決まってくれよ!
「俺達はバトルフェイズに入る。行くぞクロン。インヘリタンス・エンキドゥを攻撃だ!」
「こ、怖いけどやってみます!」
クロンは一歩二歩と後ろに下がり、右半身を引く。続けて短い助走と強靭な捻りによって敵へと向けて放たれる黒の槍。
彼女の細腕から放たれたとは思えないような速度で、それは敵の胸部に突き刺さった。
ピシ、ピシッ、とガラスが割れるような音と共に敵の岩の体にひびが入っていく。
亀裂がその全身に入った後、ついにその体はバラバラに砕けて地面に落ちた。キラキラと細かに瞬く光と共に。……光?
「やった! ――えっ!?」
「や、やりましたアサヒさん! 私、あんなに強いモンスターを――」
「前を見ろクロン! まだやっていない!」
「ほえ?」
自分より何倍も強い敵を倒したと認識し、完全に舞い上がっていたクロンの背後。
そこで
ゆっくりと恐る恐る振り返るクロン。目前で浮遊する敵を確認した時の彼女の顔色なんて見なくてもわかる。きっと真っ青になっているだろう。
さらにインヘリタンス・エンキドゥの周囲でキラキラとした破片が無数に浮き、それら全てがその身に俺の姿を映し出す。
「なん、で? 私、確かにあのモンスターを倒したはず……」
「鏡……? まさかガラスみたいな鏡に映ったモンスターに攻撃したのか!?」
「その通りだ! 俺はそのドラゴンのガキが攻撃をした時、ソニックスキルカード、リフレクト・ミラーを発動した! この効果で攻撃を無効にし、攻撃してきたモンスターの
「リフレクト・ミラー!? イベント限定配布の高レアカードじゃないか!?」
「何を言ってるのかわからんが、くらえ! これでそのガキは俺達のものだ!」
やられた!
こちらに牙を剥くクロンの
要するに、このダメージを受けたら俺もクロンも一巻の終わり。
俺の最後の
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