第十一章
スキル覚醒①
二日目の遺跡探索も空振りに終わった僕たちは、一旦ダンジョン都市ガリグにある家に足を運んだ。
ここにバラカのオウム型カヤリが常駐しており、単身で危険な橋を渡るカミールとの連絡手段となっていた。
「あ、カミールお兄さま」
「ここに居るということは、何か情報を得られたのかな。って、猫?」
カミールは黒猫を抱えていた。
「はい。我がテウルギアによって使役した猫、名はムルです」
「へー」
珍しいが、スキルにも動物を使役できるものはある。
「カミール兄さん、動物使役のテウルギアは苦手といっていませんでしたか?」
「猫だけは特別だ」
「流石猫派」
「それにしてもこの猫、妙に憎らしい顔をしていますね」
バラカはムルを凝視しながらいった。
「に゛ゃー!」
ムルはバラカを引っかこうと前足を振り回した。
「おっと、凶暴な猫ですね」
「バラカお姉さまが危険人物だと本能で悟った?」
「私のどこが危険だというのですか!?」
「言い忘れていたが、ムルは人の言葉がわかるし、ちょっとしたスキルも使えるぞ」
「へー、お利口な猫さんなんだね」
≒
ムルことムルジャーナは、見た目が猫になった以外はムルジャーナのまんまだった。
ただし、カミールがムルジャーナにかけた呪いは、単に見た目を猫に変えるだけのものではなかった。
ムルジャーナが心からファハドに対して忠誠を誓った時、人の姿に戻れるのである。
逆に、ファハドに対して裏切りを行った時は、一生猫のままである。
≒
「カミールお兄さまはムルちゃんを拾ってきただけ?」
「そんなわけないだろう、ムルは想定外の拾い物だ」
「ムスタラの遺跡について、何かわかったのかな?」
僕はムルに気を取られながらも、本題に移った。
「申し訳ありません。これといった情報は得られませんでした」
「ん~、やっぱり地道に遺跡の試練をこなしていくしかなさそうだね。そのうち、ダンジョンで何があったのかを知っている人が出てくるかも知れないし」
「ファハド様、がんばりましょう。千里の道も一歩からです」
「レイラたちが付いてる」
「そうだね。みんなが居ればあっという間だね」
「それともう一つ報告がございます。主の出生に関してです」
カミールは緊張した面持ちで口を開いた。
「僕の出生って、孤児院の前に捨てられていたっていうやつかな?」
僕は張りのない声で確認した。
自身の仕える主君が捨て子だと知って、幻滅してしまったのだろうか。
「いけないことだとわかっていながら、どうしても衝動を抑えることができずに見てしまったのです。そこには主が生命のダンジョン『ハヤウィア』にあるウェダー遺跡の中で発見、保護されたと記されておりました」
「え、ちょっと待って、僕ってダンジョンの遺跡に捨てられていたってことなの?」
衝撃の事実に、僕は立ち眩みのような症状に襲われた。
「当時の報告書によると、様々な状況から鑑みて、主がダンジョン内で生まれた可能性が極めて高いとありました。しかし、臨月の女性がダンジョンに潜ったという記録もなく、外の世界からハヤウィアに移り住んだ人々との血縁関係もなく、両親については不明ともありました」
「そんなことって……」
そう言いかけて、僕はバラカと目が合った。
バラカたちだって、ダンジョン内で生まれ育った存在である。完全にあり得ない話ではなかった。
「ファハド様の生まれた場所に行けば、何かわかるのではないでしょうか!」
バラカは力強く提案した。
「我も同感だ」
「行きたい行きたーい」
「行くしかないだろうね」
僕はまだ受け止めきれていなかったが、だからこそ行くべきだと思った。
この目で真相を確かめるべきである。
「レイラ、ムルを預かっておいてくれないか」
「カミールお兄ちゃんは一緒に来ないの?」
「本日戻ったのは、主の耳に早急に入れておいた方がいいと思った情報を手に入れたからだ。まだ、他の冒険者ギルドの支部と呪い装備の調査は終わっていない」
「カミール、あまり無茶はしないようにね」
「そのお言葉だけで、より一層己を鼓舞できます」
「だから、無茶したらダメだからね!?」
カミールは真面目すぎるので、反って不安になった。
「バラカとレイラ、何やら不穏な影が主に忍び寄っている。今まで以上に、心して護衛にかかれ」
カミールはレイラにムルを手渡しながらいった。
「うん」
「もちろんです」
カミールなりの激励の言葉だと、この時の僕はそこまで深く考えていなかった。
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