猫派②
冒険者ギルドへ着くまでの道中、カミールとレイラに、僕を取り巻く人間関係についてざっくりと説明しておいた。
とはいえ、僕と付き合いがあるのは冒険者ギルドの受付嬢、行きつけの道具屋の店主、防具屋の店主、大家さん、あとはハリールくらいである。
僕に呪い装備を押し付けたサイード、ムルジャーナ、アサーラについては触れなかった。もう会うこともないからである。
「つまりそのシャザーという女の人に、お兄ちゃんは体を許しているわけだね」
「レイラ、人聞きの悪いことをいわないで」
強く否定できないところが悲しかった。
「ほうほう。話を伺った限り、ハリールという男は主に仕える道化師のようなものでしょうか」
「はい、大体そのようなものです」
「バラカも適当に頷かないで」
そうして、僕たちは冒険者ギルドに入った。
「ファ! ハ! ド! く……、ん?」
シャザーはいつものように僕の方へ駆け寄り、僕の背後で佇む見慣れない存在に硬直した。
「えっと、こちらはバラカの遠い親戚のカミールとレイラです。冒険者になりたくて、外の世界からやって来たそうです」
「ああ、バラカのお知り合いね。どことなく雰囲気が似ているわ」
「お初にお目にかかります。カミールと申します」
カミールは爽やかな笑みを添えて挨拶した。
(カミールは特に助け舟を出す必要はなさそうかな)
「ファハド様、今私とカミール兄さんを比べませんでしたか?」
「いやいや、そんなことしないよ」
実はちょっぴりバラカと対比していた。
「こっちの子がレイラちゃんだったかしら」
「そう。あなたが噂のシャザー?」
「あら、どんな噂になっているのかしら」
シャザーは普段と少し違い、優しいお姉さん風なしゃべり方をした。
「ファハド君、知っていると思うけど、冒険者ギルドへ登録できるのは十五歳からよ」
シャザーは僕の方へ向き直っていった。
「いや、レイラはどう見ても十五歳じゃないですか」
「え? だってどう見ても十二歳くらい――」
その瞬間、レイラの頭上に『ゴゴゴゴゴ』という文字が浮かんでいるように見えた。
(まずい、怒ってる……!)
レイラはうがーと吠えながら、シャザーの懐に潜り込んだ。
そのままガシっとシャザーの両胸を鷲掴みにした。
「これなの!? この脂肪の塊がそんなに偉い!?」
「ちょ、ちょっと、いたた……!」
「何よ、こんな少し大きいくらいで……、バラカお姉さまと同じくらいのくせに……、うわーん!」
レイラはシャザーを解放して、バラカの胸に飛び込んだ。
「よしよし、いい子ですね」
バラカはレイラを優しく抱擁した。
「ふぅ、凄い力ね。あの子、本当に十五歳なの?」
レイラの力の片鱗を身をもって味わったシャザーは、納得した様子だった。
「はい、だからいってるじゃないですか」
「それにしても、いきなりおっぱいを揉んでくるなんて、どういう教育を受けてきたのかしら。下着もずれちゃったわ」
(いきなりおっぱいを押し当ててくるシャザーさんの口からその言葉が!?)
僕は自身の耳を疑いそうになった。
「ブラジャーとか付けていないでしょうし、わからないんじゃないですか? あとでそれとなく注意しておきます」
(僕もよく知らないけど)
「よっ」
落ち着いた頃合いを見計らって、ハリールが顔を見せた。
「ハリール、居たなら声かけてよ」
カミールとレイラに紹介できていないので、完全な二度手間である。
「まだ俺の出る幕じゃないと思ってな」
ハリールは鼻を擦りながらいった。
「前にもこんなことあったよね。もしかして人見知りなの?」
「おいおい、違うぞ。俺の信念は機が熟すのを待つだからな。相手の会話内容や仕草を観察して、興味がありそうな話題をしっかりと準備してから声をかけるんだ」
「ふーん。でも、ハリールから実のある話を聞いた記憶がないんだけど」
「よーく思い出してみろ、一つくらいはあるだろ?」
「実のない話をしている自覚はあったの!?」
冗談のつもりでいったが、まさかハリール本人から自白するとは思わなかった。
「よーし、それなら一つ実のある話をしよう」
ハリールは改まった感じでいった。
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