第十章
猫派①
「カミールお兄さま、似合いすぎててつまらない」
「ですよね。もっとリアクションしてくださらないと興ざめです」
「お前たちの思惑などお見通しだ」
カミールは澄ました態度でいった。
ケット・シー紛争作戦は今回も見事に嵌り、二人とも何事もなく関税を通り抜けた。
このまま冒険者ギルドへ冒険者登録の手続きへと向かうわけだが、僕たちの関係の設定を考える必要があった。
「カミールとレイラとの表向きの関係は、バラカの親戚で、冒険者になるために外の世界からやって来たでいいかな」
「畏まりました」
「うーん、それだといまいち入り込めない」
カミールは快く頷いてくれたけれど、レイラは難色を示した。
「じゃあ、どういう設定がいいのかな?」
「バラカお姉さまとレイラは腹違いの姉妹で、カミールお兄さまは再婚相手の連れ子という設定がいい」
「色々と複雑すぎるよ!」
「ドロドロとしていそうですね」
「一応聞いておくけど、三人の関係は訓練時代の仲間で、血縁関係はないのかな? お兄さまとかお姉さまと呼んでるけど」
ちょうどいい機会だったので、僕はついでに訊ねた。
「年上に対して兄さん姉さんと付けるのは、訓練時代の名残と言いますか癖です。ファハド様の言葉を借りるのであれば、先輩に近いでしょうか。訓練生同士家族のようになって欲しいという意味もあったと聞いています」
バラカはすらすらと説明した。
「でも、レイラたち以外のグループはあんまり仲が良いって感じしなかったなー」
レイラは頭のお団子をもみもみしながらいった。
何かを思い出そうとする時の癖だろうか。
「たくさんの訓練生の中から、ファラオの護衛という誉れ高き一握りを選ぶんだ。互いに騙し合い、裏切り合い、蹴落とし合いもするだろう」
「あ、そっかー。仲良くしたくてもできなかったんだ」
「レイラ、今頃気付いたのですか」
バラカは溜め息混じりにいった。
「それすらも選別の一環だ。上昇志向は大切だが、他者を貶めるような者はファラオの護衛として相応しくないからな。バラカはあれこれ策を巡らせる器用なタイプではないし、まだ見ぬファラオのために人一倍努力していた点を評価されたのだろう。レイラは選りすぐりの訓練生の中でも随一の実力、性格に関しては一切の邪心がない。少し危なっかしくもあるがな」
カミールは淡々と仲間を評価した。
「でもその理屈だと、カミールお兄さまがファラオの護衛に選ばれているのは不思議」
「確かにそうですね」
「二人ともカミールには毒を吐くよね。昔何かされたのかな?」
「バラカとレイラは見込みがあったので、訓練後にスペシャルメニューをやらせていたのです」
「あの地獄のような訓練の後に私とレイラはしごきに呼び出されて、当時は殺意が湧きましたが、今となっては必要なことだったと納得しています」
「めちゃめちゃしんどかった」
(納得はしているけど、根には持っていそうだ)
「少し話は脱線したけど、三人の設定は遠い親戚でいいよね? 多分、そんなに深く聞いてくる人も居ないから、設定は盛り込まなくても大丈夫だと思うから」
「ファハド様の意見に従います」
「レイラの設定は他人の興味を引いてしまう恐れがあるので、その方が宜しいでしょう」
「うー」
レイラはお気に入りのおしゃぶりを取られた子供のような顔をしていた。
「ところで、もう一つだけ確認しておきたいんだけど、他の遺跡にもバラカたちのようなファラオの護衛が居るのかな?」
遺跡は各ダンジョンの各地に点在しているので、他の仲間候補が居る可能性は十分に考えられる。
「そのことですが、アスワッドにある遺跡にファラオの護衛として認められたムスタラが居るはずです」とカミール。
「やっぱりまだ居るのか。他には居るのかな?」
四人も五人も変わらないという気概で僕は聞いた。
「我々が把握しているのは四人です」
カミールの言い回しに、僕は少しつっかかりそうになった。
「ああ、そういうことか。カミールたちは千年間遺跡の中に居たから、他のファラオの護衛が居るかどうかわからないんだね」
「その通りでございます」
「その時代その時代の最も優れた戦士たちが、ファハド様の到来を待っているのです」
「へぇ、そういう仕組みなんだね」
(本当にどうして僕なんだろう)
他の冒険者にあって、僕だけにある特別な何か。それが僕にはわからなかった。
自分に全然自身がないわけではないが、いわゆる英雄と呼ばれてもおかしくない人たちを従えるほどの自信はなかった。そこまで自信過剰な性格はしていなかった。
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