行き過ぎた愛③
バラカの様子は気になったが、一応依頼を受ける方向で話はまとまった。
サブリーとは喫茶店の前で分かれた。
「これで良かったんだよね」
僕は念のためにもう一度バラカに確認を取った。
「はい。タフアクの遺跡にて待つ者は、必ずやファハド様の力になります」
「やっぱり遺跡の中には人が居るんだね。知り合いなの?」
「私たち候補生の中で、一番最初にファラオの親衛隊に選ばれた者です」
「なるほど」
(バラカが二人に……)
戦力としてはこれ以上ないくらい頼もしいが、気苦労も倍増しそうだった。
まあ、人付き合いとはえてしてそういうものかと、悟りを開いた修行僧のようなことを思った。
「それにしては随分と思い悩んでいたみたいだけど、何か不都合でもあるのかな?」
「いえ、不都合はありません。これは個人的な感情の問題です」
「バラカにも色々あるんだね」
バラカにはバラカの人間関係があるし、それを根掘り葉掘り聞くような、野暮な真似はしなかった。
バラカが話したがらないなら、無理に聞き出す必要もないだろう。
仲間に対して遠慮しすぎかも知れないが、踏み込みすぎるのは相手に悪いと考えてしまうのが僕の性分である。
「これから遺跡の試練に挑むための装備を整えに参りますか?」
「その遺跡の試練とやらがわからないから、準備の仕様がないよ。一応リュックには不測の事態に備えて非常食や防寒具も入ってるけど、それで足りないなら僕たちの手には負えないってことだから、その時は素直に引き返そう。それよりバラカ、冒険者ギルドへ足を運んだ目的を忘れてないかな?」
「……ハッ、そうでした。フィルヤールの参加している大規模遠征の帰還予定日を伺わなければなりません」
二日後の早朝、僕たちはタフアクの遺跡前へとやって来た。
例によってケット・シーの村が遺跡を守っていたので、道のりにはモンスターのモの字もなかった。
「遅いね」
僕は懐中時計を見ながらいった。この世界では電気も電池もないので、当然自動巻きである。
サブリーとの待ち合わせ時刻は朝六時である。
現在の時刻は朝七時、いくら何でも遅かった。
「何かあったのかな」
「動けなくなっているのかも知れませんね」
「ちょっとバラカ、冗談でもそういうことはいっちゃダメだよ。きっと二度寝してるんだよ」
「冗談などではありません。サブリー殿もいっていたではありませんか、選ばれし者のみが真実へ辿り着くことができると。そして、訪れてわかったことですが、この遺跡は挑む者に軽度の呪いをかける仕組みになっています」
バラカは真面目モードで語った。
「呪い? 何も感じないけど」
「呪いの影響を受けないということは、ファハド様には試練へ挑む資格があるということです」
「バラカは辛かったりするの?」
「いいえ。端から私は遺跡へ挑むのではなく、ファハド様のサポートに尽くすと決めていたので、呪いの対象外となったようです」
バラカは僕に心配をかけないよう、空元気に振舞っている雰囲気でもなさそうだった。
「サブリーさんは大丈夫かな。様子を見に行った方がいいよね」
「私たちが行ったところで、できることはありません。恐らく精神支配により、放心状態か昏睡状態となっていることでしょう。遺跡へ挑もうとする情熱が冷めれば、自然と目を覚ますはずです」
「もし情熱が冷めなければ、どうなるの?」
「仮に無意識化でも情熱が冷めないほどの精神力を持っているのであれば、呪いを受け続けることになります。そのような者は稀ですが」
「サブリーさんはラナー遺跡の謎を、たった一人で十年間も追い続けていたんだ。強靭な精神力を持っていても不思議じゃないよ」
起こって欲しくはないが、僕は最悪のケースを想定した。
「流石に十年とはいかないまでも、数ヶ月意識を取り戻さない可能性は十分にありえますね」
「ちなみにだけど、遺跡の謎を解き明かしたら、サブリーさんの呪いも解けるのかな?」
「はい、解けるはずです」
「それじゃあ、やることは一つだね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます