行き過ぎた愛②
冒険者ギルドはすっかりいつもの平穏を取り戻していた。
シャザーに抱き着かれ、バラカが嫉妬し、ハリールはわけのわからいことをしゃべっていたが、それが堪らなく可笑しかった。
変わったことがあるとすれば、みんなの僕を見る目が少し鋭くなったことくらいだろうか。
万年ブロンズ級だった僕が昇級した噂は、この冒険者ギルド内ではすっかり広まっていた。当然、呪い装備を着用したままダンジョンへ潜っていることも知れ渡っていた。
端的にいえば、みんなが僕のことを得体の知れない力を持った存在に思えて仕方ないのだ。
「そうそう、ファハド君にお客さんが来ているわよ」
僕のことを一頻り愛でたシャザーは、受付嬢としての業務に戻った。
「僕にお客さんですか?」
珍しいというよりは、直接依頼を受けるのは人生で初めてくらいの経験だった。
「サブリーさんといったかしら。ほら、ラナー遺跡の」
「もちろん、覚えていますよ」
「確か私とファハド様を巡り会わせてくれた方ですね」
「まあ、そういうことになるのかな」
「一時間ほど前に、話があると伝えて欲しいといって向かいの喫茶店に入っていったわ」
向かいの喫茶店へ行くと、サブリーは旧友と再会したような笑みを浮かべた。
「元気そうじゃな」
「はい、おかげさまで」
「そっちの子は?」
サブリーの視線はすぐさまバラカの方へいった。
「初めまして、バラカと申します。ファハド様に仕えております」
バラカは優雅に一礼した。
「ラナー遺跡を出た後知り合って、パーティを組むことになったんです」
あれこれ聞かれる前に、僕はあらかじめ設定を話しておいた。
「ファハド君が気に入った相手なら、きっと優秀な子なんじゃろ」
「ファハド様、この方はとても良い方ですね!」
バラカは声を弾ませた。
「ふぁっはっは、随分と気に入られておるようじゃの」
バラカが僕のことを慕ってくれているのは、身をもって体験している。
「さて、最近の活躍からして忙しそうなので、そろそろ本題に入ろうか。あまり時間を取らしても悪いしの」
「いえ、そんなに忙しくもないですよ」
ダンジョン各地を動き回っているが、大規模遠征の荷物持ちとして活動していた頃に比べればのんびりしている時間は圧倒的に増えていた。
「あんな目に遭わせておいて、こんな話を持ってくるのもどうかと思うが、ワシの浪漫を理解してくれるのは君しか居らんという結論に至った」
「要するに、遺跡探索絡みの依頼ということですか?」
「御名答。アルスウルにあるもう一つの遺跡、タフアクの遺跡にもラナー遺跡と同様の歪みが検知された」
「それは興味深いですね」
僕は食い気味にいった。
それと同時に、横目でバラカの様子を伺った。
同じダンジョンにある歪みのある遺跡、バラカが無関係とは思えなかったからである。
「タフアク……」
バラカは確認するようにその言葉を反復した。やはり、心当たりがあるのだろう。
先にバラカの話を聞くべきだろうが、サブリーの前では色々と話せないこともあった。よって、サブリーとの話を進めることにした。
「そうだろそうだろ、君ならそう答えてくれると思っておったわ!」
「依頼はタフアクの遺跡探索の護衛ですか?」
「いや、今回は護衛の依頼ではなく、君にタフアクの遺跡の謎を解き明かしてもらいたいと思って来たんじゃ」
サブリーは声を低くしていった。
「えっと、どういうことですか?」
「タフアクの遺跡の入り口にはこう記されておる。選ばれし者のみが真実へ辿り着くことができると。そこでワシはピンときたんじゃ。ラナー遺跡に選ばれた君であれば、タフアクの謎も解けるのではないかと」
「ラナー遺跡の石碑も、結局気を失っていたので何も覚えていなかったんですよ?」
「今度は気を失わないかも知れんじゃろ? しかし、君に危険が及ぶ可能性が高いこともわかっておる。依頼を受けたくないのであれば、遠慮せずに断ってくれ。ワシも無理に誘ったりはせん」
「んー、バラカはどう思う?」
考えている振りをして、僕はバラカの考えを確認した。
「……行くべきです」
バラカは苦渋の選択を迫られ、絞り出すようにいった。
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