第八章
行き過ぎた愛①
遭難者を救助してからの一週間、本当に色々なことがあった。
まずは生死の淵をさ迷っていたアサーラの意識が戻った。
アサーラは今回の一件で、冒険者で居ることが怖くなり、引退してどこかのダンジョンにある酒場に転職したと風の噂で聞いた。
サイードとムルジャーナは喧嘩別れしたそうである。
元々第三者を騙して呪い装備を押し付ける目的で集まったパーティなので、少しの綻びから簡単に崩れてしまったのだろう。
ほんのちょっぴり気の毒には思ったが、同情はできなかった。
他にも僕とバラカの依頼での功績が認められ、晴れてブロンズ級からシルバー級に昇級した。
昇級したからといって、何かが劇的に変わるわけではなかったが、誰かに実力を認めてもらえたのは素直に嬉しかった。
「あれだけの大活躍をしてシルバー級とは不当な扱いですね」
バラカはベッドに腰掛けながら口を尖らせた。
この一週間、僕たちはアルスウルの旅人の宿に滞在していた。ほんの少し前までは考えられない贅沢なお金の使い方だった。
「ブロンズ級からいきなりゴールド級になった前例はないから仕方ないね。でも、この調子でがんばればゴールド級、プラチナ級はあっという間だよ」
希望的観測からの言葉ではなく、僕は結構本気でいっていた。
「時にオリハルコン級の冒険者とはどの程度の実力を有しているのでしょうか」
「う~ん、オリハルコン級の冒険者って二十人も居なくて、実物を見たのも一度だけ、その時は凶悪なモンスターにも遭遇しなかったから、結局実力はわからず仕舞いだね」
「そうですか」
バラカは何やら考え込んでいる様子だった。
「まさかオリハルコン級の冒険者を目指すなんていわないよね?」
「周囲にファハド様の偉大を示すのであればそう遠くない未来にオリハルコン級、いえ、オリハルコン級以上の称号を受け取ることになるはずです」
「ははは……、相変わらずバラカの話はスケールが大きいね」
「
「会うだけなら、僕たちがいつも通っている冒険者ギルドに時々顔を出すフィルヤールさんがオリハルコン級だね。一度もしゃべったことはないけど」
先ほどいった実物を見たことのあるオリハルコン級の冒険者がフィルヤールである。
「おお、本当ですか! それでは、そのフィルヤールとやらが姿を現すまで、冒険者ギルドに張り込みましょう!」
バラカは意気揚々といった。
「多分だけど、二つ出ている大規模遠征のどちらかに参加していると思うから、張り込んでも会えないよ」
バラカはむむ~と唸ると、気を取り直して聞いた。
「以前から気になっていたのですが、大規模遠征とは具体的な目的地を定めて行われているものなのですか?」
「大規模遠征の主な目的は開拓だから、明確な目的地があるわけではないかな」
「開拓というのは、オベリスクの外側をでしょうか」
「うん、ほとんどの場合はそうだね。これも僕との知識の擦り合わせで知っていたの?」
ダンジョン内の各地に聳え立つオベリスクだが、際限なく建っているわけではなかった。
東西南北オベリスクの範囲には端があり、そこを境目にオベリスクの内側とオベリスクの外側といっているのである。
ちなみに、ダンジョン内ではピラミッドから遠ざかれば遠ざかるほど凶悪なモンスターが生息しており、オベリスクの外側では見たことも聞いたこともないようなモンスターが冒険者たちに牙を剥くのである。
人類がほとんど足を踏み入れたことのない地を探索するので、オーパーツの出土数は桁違いに多かった。
「いえ、私の時代にも同じようにオベリスクの外側へ挑む者たちが数多く居たというだけの話です」
バラカは懐かしむようにいった。
「いつの時代も人の心を惹き付けるものは同じということだね」
「そうかも知れません。しかし、オベリスクの外側ですか。少々骨が折れそうですね」
「待った。僕の気のせいだといいんだけど、行こうとしていない?」
「冗談です。いくら私でも、どこに居るかもわからない相手と会うために、オベリスクの外側へ出たりしません。冒険者ギルドへ行って、フィルヤールの帰還予定日を伺ってきます」
「冒険者ギルドへ行くなら僕も一緒に行くよ。それにしても、バラカもこの世界に慣れてきたね」
「それは褒めてくださっているのですよね」
バラカは勘ぐるような表情でこちらを見詰めた。
その顔がまた可愛らしかった。
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