力を付ける⑧
バラカは洞窟の出入り口に日が斜めに差し込んでできた、光と影の境界線の上に佇んでいた。
オーク変異体は嗅覚か聴覚かが発達しているのか、迷わず洞窟まで僕たちを追ってきた。
オーク変異体は勝ち気な表情で佇むバラカを警戒して、すぐには洞窟内に足を踏み入れてこなかった。
「バラカ、行くよ!」
僕は影の中からいった。
明るい場所から暗い場所はとても見づらいものである。オーク変異体の目には、僕の姿は黒い影としか映っていないはずである。
「はい、私の拳はファハド様と共に!」
僕は呪い装備マックスの引き金を何度も何度も引いた。
洞窟内で発砲音が幾重にも反響したが、肝心の魔弾は一発たりともオーク変異体の方へと飛ばなかった。
「――五十七、五十八、五十九、六十!」
六十回引き金を引いたタイミングで、影の中から六十発の魔弾が一斉に飛び出した。
僕が思い描いたのは同じ場所でくるくる回り、時間が来ればオーク変異体の居る方へと飛ぶ魔弾だった。
魔弾をその場に留めておけるかは、事前に試し撃ちをして確認してあった。
魔弾が飛ぶ時間の設定は、最初が六十秒後、次弾が五十九秒後と、一秒ずつずらしてあった。
そんなに都合よく魔弾が一斉に飛んでくれるかはぶっつけ本番となったが、僕は僕のことを信じてくれているバラカの期待に応えることにした。
「オオオオオオオオオオオオオオ――!」
六十発の魔弾の雨に晒されたオーク変異体は、両手を上げて頭部を守ることしかできなかった。
本来であれば、一分後に決められた位置に飛ぶ魔弾をオーク変異体に当てるのは至難の業となるが、洞窟の中から撃つとなれば話は別だった。
オーク変異体の体が、一瞬のうちに穴空きチーズのように、見るも無残な姿へと変貌した。
しかし、この程度で倒せるなら、わざわざ策を巡らせる必要もなかった。
「今だ!」
僕の号令と共に、バラカが地面を蹴って疾走した。
「オオオオオオオオオオオオオオ――!」
オーク変異体は向かい来るバラカに手を伸ばした。
バラカがそのズタズタの手に捕まるはずもなかった。
バラカはオーク変異体の懐に潜り込むと、オーク変異体に渾身のアッパーカットをお見舞いした。
「オオオ……」
完全に脳がシェイクされたオーク変異体は、膝から崩れ落ちた。
「これでお仕舞だ!」
僕の放った銃弾はオーク変異体の脳天を撃ち抜き、巨躯がゆっくりと後方へ倒れた。
オーク変異体は完全に沈黙し、生命機能を停止した。
「やった……」
死闘を制し、僕はその場にへたり込んだ。
「ファハド様、どこかお怪我をなさったのですか!?」
バラカはオーク変異体に詰めるよりも早いくらい勢いで僕の元に駆け寄った。
「怪我はしてないよ。安心したら腰が抜けちゃって」
「そうでしたか」
バラカはほっと安堵の溜息を漏らした。
「よいしょ。さて、首飾りをとって、クーア族長のところへ報告に行こうか」
僕はおっかなびっくりオーク変異体の亡骸に近付いた。
サバイバルナイフで首飾りを切り取ったところで、ふとオーク変異体の付けていた腕輪が気になった。
(他のオークはこんな腕輪してたかな)
僕は吸い寄せられるように、その腕輪に手を伸ばした。
「その腕輪に触れてはなりません!」
バラカの制すような声に、僕は慌てて手を引っ込めた。
「わわ、びっくりした。これが何か知っているの?」
「それは神器です。ファハド様たちのいうオーパーツです。そして、呪いが付与されています」
「危ない、呪い装備か……。ってバラカ、見ただけでわかるの!?」
「オーパーツの識別ができない者は、選別の時点でファラオの護衛たる資格を剥奪されます」
「へぇ、そうなんだ。ちなみに、効果とかもわかるの?」
「はい。装備中のオーパーツはその者の特性となって判別できませんが、オーパーツ単体となれば判別できます。オーパーツ名はカタリナ、身体能力を強化する代わりに常に傷を負う代償があります」
「なるほど、それでこのオークはこんなに強かったのか。常に傷を負う呪いも、元々備わっている再生能力が強化されて無効化していたんだね」
「流石の分析力です」
「まぁ、似たような経験をしているからね。ところでこの常に傷を負う呪いって、自傷ダメージ扱いになるのかな」
「オーパーツの効果は装備者の特性として扱われるので、傷を負うは自分の特性で傷を負う、つまり自傷ダメージとなります。――ってファハド様、何をなさるおつもりですか!?」
「大丈夫だよ。この呪い装備は僕の力になってくれるから」
僕は不敵な笑みを浮かべながら、オークの腕からカタリナを外した。
・カタリナ
身体能力を強化する。
ただし、常に傷を負う。
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