力を付ける⑥
僕は目の前で起こったことを飲み込むのに、しばし時間を要した。
「ファハド様、私の雄姿をご覧いただけましたか」
バラカはお気に入りのおもちゃを自慢する子供のような表情でいった。
「すごい力だね。今のもテウルギアだよね」
「いえ、呼吸です」
「呼吸?」
「はい。筋肉に酸素を蓄えて、持てる力を限界まで引き出しただけです」
「持てる力ってことは、バラカってそんなに力持ちだったの!?」
「ですから、腕っぷしには自信があるといったではありませんか」
バラカはぷくっと頬を膨らませながらいった。
バラカのことだから何か言い間違えをしているのだと、昨晩は思わず笑ってしまったが、まさか言葉通りの意味だとは考えもしなかった。
しかし、こうして改めて見てみると、バラカの体は決して華奢というわけではなく、四肢は無駄な肉付きが一切なく引き締まっていた。
そういえば、ラナー遺跡でも素手で柵を破壊していたし、その片鱗は見せていた。
「僕なんかよりもよっぽど強いんじゃないの」
バラカがその気になれば、僕は簡単に押し倒されてしまうだろう。言い換えれば、昨晩はあれでも自制できていたということである。
「お世辞でもそういっていただけると嬉しいです」
バラカの目に、僕はどういう風に映っているのだろうか。
少なくとも僕には、素手で三体のオークを倒せる力はなかった。
「これで3000マネーか」
衝撃的ではあったが、こんなにもあっさりとお金を稼げることにまだ慣れなかった。
「国を作るには、これっぽっちでは全然足りませんね」
「あはは……、そうだったね、僕国を作るんだったね」
一晩経って、その設定をすっかり忘れていた。
「ファハド様、カヤリが新たなオークの一団を感知しました」
「数は?」
ここは村の中ではないし、まだ依頼は終わっていない。僕は気を引き締め直した。
「数は七体、南南西凡そ500メートルに居ます」
「バラカ、疲れはあるかな?」
「先ほどの戦闘のことをおっしゃっているのであれば、心配ありません。ウォーミングアップにすらなりませんでしたから」
「それなら、数は問題にならないってことだね」
ただのオークが束になってかかってきても、バラカとの力量差が埋まるとは考えにくかった。
「クーア族長のいっていた妙な力を使うオークが気がかりです」
「七体の中に、変わった個体は確認できるかな?」
「カヤリを介した感覚なので、そこまではわかりません。いや、オークの一団から一体だけがスピードを上げてこちらへ向かってきます」
「噂をすればだね」
僕は息を呑んだ。
「探す手間が省けて好都合ではありませんか」
バラカは暴れたりないといった感じにいった。
「バラカの実力は十分わかったし、ここからは僕も加勢させてもらうよ」
「ファハド様と初めての共闘ですね」
バラカは緊張感の欠片もなく、きゃっきゃとはしゃいだ。
それから待つこと数分、遠目に一体のオークを視認した。
僕はそれを一目見た瞬間、先刻までのオークとは別の生き物だと理解した。外見的には普通のオークと相違ないが、只ならぬオーラをひしひしと感じたのである。わざわざ口に出すまでもなく、バラカも当然理解しているはずである。
オーク変異体の接近を待つ道理もなかったので、僕はマックスの引き金を引いた。
マックスから放たれた魔弾は僕の思い通りの軌道を描き、オーク変異体の眉間を撃ち抜――けなかった。
オーク変異体は銃弾の軌道を完全に見切り、頭を振って避けたのである。
マックスの魔弾は引き金を引いた者の狙った座標を撃ち抜くことはできるが、魔弾自体にホーミング性能があるわけではないので、標的が狙った座標から動けば魔弾は外れるのである。
「それなら――!」
僕は素早く引き金を三回引いた。
三発の魔弾はそれぞれ雷のような不規則な軌道を描いた。着弾点をしっかりと見定めながら、銃弾が飛散するイメージである。
直線でない分、着弾までの時間は倍増してしまうが、撃った本人にすらわからない軌道を描く銃弾を完全に躱すのは困難なはずである。
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