力を付ける⑤
「不気味な森ですね」
オークが潜んでいるという森は木々が鬱蒼と生い茂っており、朝だというのに薄暗かった。
「見晴らしが悪い方が、人は恐怖心を覚えるんだよ」
「流石ファハド様、博識ですね」
「人は五感のほとんどを目に頼っているからね」
「それでは、カヤリに五感を補ってもらいましょう」
バラカの左腕に巻いていた布が、犬の形を象った。
「お、ラナー遺跡でお世話になった子だね」
「わん!」
カヤリは元気よく吠えた。
さらにバラカは右腕に巻いていた布を解くと鳥の、いや、
「おお、カヤリで召喚できるのは犬だけじゃないんだ。しかも同時に二体も召喚できるなんて、すごく便利な力だね」
「同時に三体までなら無理なく使役することができます」
「それだけでもプラチナ級くらいの実力はありそうだね」
僕はお世辞抜きにいった。
「おや、カヤリがオークらしき存在の一団を感じ取ったようです」
「え、もう? まだ村からそんなに離れてないよ?」
「村の偵察に来ていたのかも知れません」
「数はわかるかな?」
「三体です」
「確かに偵察隊か先遣隊っぽいね。好都合だ、本隊に合流される前に叩こう」
犬型カヤリが先導し、僕たちは森の中をひた走った。
そうして、木々の隙間からでもわかるほどの巨躯が見えてきた。
オークの討伐に関して、僕とバラカはこれといった話し合いをしてこなかった。元々バラカの実力を測るという名目なので、僕は魔弾で援護に徹するだけである。
バラカの力はカヤリによる術者本人は接近しない遠隔タイプと推測できる。僕のやることはバラカの仕損じたオークを仕留めるだけである。単純明快である。
「そこのオークたち、いざ尋常に勝負しなさい!」
オークはこちらに気付いていない様子だったが、バラカは馬鹿正直に声をあげた。
当然、オークは僕たちの存在に気付いた。
「バラカ、せっかく不意を突けるチャンスだったのに」
「戦士が不意を突くような真似をしては恥です」
「今のバラカは戦士じゃなくて、冒険者でしょ」
冒険者たるもの、リスクを最小限に依頼を遂行すべし。僕が訓練所時代、耳にタコができるくらい聞かされた台詞である。
「申し訳ありません」
「その辺りの注意は後でね。今は目の前の敵に集中するよ」
「はい」
「「オオオオオオオオオオ――!」」
三体のオークは巨大な石斧を握り締め、駆け出した。
オークは見た目通りのごりごりの近接系である。三体ものオークと正面から斬り結ぶのは、余程腕に自信がなければできない芸当である。
いかに距離を取りながら戦うかが、勝負の鍵となる。
「カヤリ、ファハド様をお守りしなさい」
「え? それだとバラカはどうやって戦うの?」
想定外の展開に、僕は俄かに焦ってしまった。
「この身一つあれば十分です」
バラカは拳を合わせた。
そして、あろうことか迫り来るオークに向かって走り出した。
バラカは何やら自信ありげだったが、近接戦でしかも丸腰である。
何らか奥の手があるのか、それとも僕のことを妄信しているのだろうか。どっちにしても、僕の緊張感はマックスまで跳ね上がった。
僕は呪い装備マックスの銃口をオークに向け、引き金に指をかけた。万が一のことが起こった場合、一呼吸のうちに三体のオークを屠るイメージを固めた。
バラカとオークは互いに足を止めることなく、衝突した。
バラカはオークの懐に入り込んだ。
オークは石斧を振り下ろした。殴られれば一溜りもない。
けれども、バラカは避ける素振りを見せなかった。振り下ろされた石斧に対して、右の拳を突き上げた。
「嘘……!?」
バラカの拳は石斧を打ち砕き、そのままオークの胸の風穴を
物理法則もへったくれもない、出鱈目な怪力だった。
残った二体のオークは目の前の少女がとんでもない怪物だと理解したが、既に手遅れだった。両者必殺の間合いまで詰めたということは、端から退路などなかったからである。
二体のオークは死に物狂いで石斧を振り回したが、バラカに掠りすらしなかった。完全に攻撃を見切っていた。尤も、当たったところで、バラカにダメージを与えられるかは疑問だったが。
バラカは攻撃の避ける流れの中で、鋭い蹴りを差し込んだ。
オークの首から上が吹き飛び、落ち葉の上を滑った。
残った一体のオークは完全に戦意喪失して逃げ出した。
「逃げられませんよ」
バラカは素手で木の皮を剥がすと、それをオークの背目掛けて投げつけた。
歪な形をした木片は綺麗な直線を描き、正確無比にオークの心臓を貫いた。
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