力を付ける④
布団に入ってから、僕はどっちを向くかで悩んでいた。
僕は基本的に横にならないと寝付けないのだが、バラカの方を向くか背を向けるかの二択で悩んでいたのだ。
バラカの方を向いたら絶対確実に何かアプローチを受けるだろうが、背を向けてしまうのはバラカを拒絶しているようで、今後の関係にまで影響が出る恐れがあった。
僕はしばし仰向けで目を瞑って、寝た振りをした。
(……)
どれくらいの時間が経っただろうか。
平時より早くなっていた鼓動も落ち着きを取り戻したところで、僕は寝相を変えた。
今、僕の体の正面でバラカが眠っている。
ふとバラカはどんな寝顔なのだろうか、という小さな好奇心の火種が灯った。
その火種は瞬く間に欲望を支配し、僕は薄目を開けた。
すると、僕の眼前に微笑んでいるバラカの顔があった。こちらを澄んだ瞳で真っ直ぐと見詰めていた。
僕はそっと瞼を閉じ寝ることに集中したが、無理だった。バラカに見られていると意識してしまったからだ。
やがて僕は耐えきれずに目を開けた。
「バラカ、どうしたの?」
「せめて夢の中だけでもファハド様と愛し合いたいので、お顔を脳裏に焼き付けていたところです」
「さらりといってるけど、内容は変態そのものだね」
「殿方は変態な異性が好みとも聞きます」
「どこでそんな偏った知識を付けたのやら」
僕はやれやれといった。
「ファハド様はどのような異性が好みなのでしょうか」
「う~ん、一緒に居て楽しい人かな」
「一つ目からなかなか努力しにくい条件ですね」
バラカは苦虫を噛んだような表情をした。
「あと、一緒に居て安心できる人もいいね」
「それなら私は条件に当てはまりますね。腕っぷしには自信があります」
「ははは、腕っぷしって」
「他には何かないのですか? 外見的なこととか」
「特にないかな」
「いいえ、絶対にあるはずです」
「言い切った!?」
「ファハド様が異性と会って、最初に目がいく場所はどこですか?」
「それは……秘密だね」
僕は言いかけて口を噤んだ。
「やっぱりあるんじゃないですか」
「だって、何だか恥ずかしいから」
相手に知られてしまうと、次からそこを見ていると意識されるし、こっちも意識してしまうからだ。
「おっぱいですか?」
「え、なんでわかったの?」
「いえ、ただの当てずっぽうですが。なるほど、ふーん、そうですか」
「その意味ありげな頷き方はやめて」
早く寝ないといけないのに、顔が熱くなってきた。
「やっぱり大きい方がいいのですか?」
「いや、大きさとかじゃ……」
僕はごにょごにょといった。
「触ってみますか?」
「ちょ、触るって、いきなり何を言い出してるの!?」
バラカの申し出に、僕はむせそうになった。
「シャザーのおっぱいはあんなに触っていたではありませんか」
「人聞きの悪いこといわないで。あれは不可抗力だよ」
「ちなみに、私からファハド様に触れることは禁止されていますが、ファハド様が私に触れることは禁止していませんよ」
「馬鹿なこといってないで、早く寝ないと明日が辛くなるよ」
「酷いです、生殺しです」
そんな感じのやり取りをしながら、僕はそのうち眠りに落ちていた。
そうして、僕は無事朝日を拝むことができた。結局、昨晩は懸念していたようなことは一切起こらなかった。
別に変なことを期待していたわけではない。本当だ。
「おはようございます」
「おはよう、これバラカが用意してくれたの?」
「はい」
テーブルの上に朝食の準備が済ませてあった。
言動にやや難ありだが、そこさえ目を瞑ればとても出来た子である。
「ファハド様、お顔色が優れませんが、体調を崩したのでしょうか」
「体調が悪いってほどでもないよ」
隣でバラカが寝息を立てていたせいか、僕の眠りは浅く頭が少しぼーっとしている感じだった。
「ファハド様はお休みになられていてもいいのですよ。私一人で件のオークを見事に討伐してきてみせましょう」
「それだと僕がバラカの実力を測れないでしょ」
「あ、うっかりしていました」
バラカはこつんと自分の頭を叩いた。
軽めの朝食をお腹に入れると、僕たちはクーアからもらった地図を片手に南西の森へと向けて出発した。
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