第六章

力を付ける①

 関税で手続きを済ませて、さっき振りにアルスウルへと戻ってきた。そこからオベリスクを数本経由して、僕たちはケット・シー最南端の村、ジャウブに到着した。


 今日のところはジャウブで情報収集して、宿を取って、明け方オークの討伐に出発する予定である。


「他のケット・シーの村と雰囲気が違いますね」


 バラカは両手を広げながらいった。


「ジャウブ周辺は凶悪なモンスターが生息しているから、村を石壁で囲っているんだよ。あと、建物の配置もどことなく要塞っぽいでしょ?」


「確かに、この村を攻め落とすのは骨が折れそうですね」


「どうしてそっち側の視点で考えているの!?」


「私守るのは苦手で、ついつい攻める方から考えてしまう癖があるのです」


 バラカは頬を赤くしながら告白した。


「それなのにファラオの護衛を務めようと思ったの?」


 この質問は少々意地悪だっただろうか。


「その点に関しては私なりに答えを得ています」


 バラカは自信満々に胸を張った。


「へぇ、どんな答えかな?」


「先手必勝、攻撃は最大の防御です。ファハド様に危害を加えようとしても、近付けさせなければどういうことはありません」


「ある意味正しいかな? でも、敵かどうかの判断はどうするの?」


「勘です」


「勘って……」


 僕は思わずずっこけそうになる。


「もし無関係な人を攻撃しちゃったら、大変なことになるよ」


「心配ご無用です。私は幼少の頃より殺気を読む訓練を積まされています。けれども、百発九十九中ほどの精度なので、勘という言葉で表現したのです」


「それもスキルやテウルギアではないんだね」


「はい。経験さえ積めば、ファハド様もきっとわかるようになるはずです」


「誰かに敵意を向けられるなんて嫌だなぁ」


「皆に力を示せば、ファハド様の意思とは関係なしに敵は出てくるはずです。その時のために、信頼できる仲間を一人でも作っておく必要があります」


「シャザーさんやハリールみたいな?」


「シャザーは頼りになりますけど、ハリールの方は居ても居なくても同じでしょう」


「ハリールにそれいったらダメだからね。ああ見えても物凄く傷付きやすい性格をしているんだから」


「言いませんよ、ファハド様は私をどのように見ておられるのですか」


 バラカは口を尖らせた。


 僕はごめんごめんと謝ってから、話題を変えた。


「オークの目撃情報を集める前に、今日の宿を確保しておこうか」


 こんな辺鄙へんぴな村を訪れる観光客も少なかったので、ピラミッド周辺に居たような客引きケット・シーの姿は見受けられなかった。


「はい。あちらの宿が籠城に適していますが、逃げ道が確保できているのか聞いてみる必要がありますね」


「ははは、それじゃあそこの宿にしようか」


 バラカの独特な判断基準に思わず笑ってしまった。


 バラカが指し示していたのは、木と一体化したような三階建ての宿だった。


 宿に入って、受付けを行った。


 受付に座っていたのは、ケット・シーのお姉さんだった。


「ようこそにゃ、冒険者さん」


「あの、今晩部屋を借りたいんですけれど、空いてますか?」


「空いてますにゃ。何部屋ご希望ですかにゃ?」


「二――」


「――当然、一部屋です」


 バラカは僕の言葉を遮っていった。


「ちょ、一部屋だと同じ部屋で一晩過ごすことになっちゃうよ?」


「何か問題があるのでしょうか。寧ろ、別々の部屋で過ごす方が気が気ではありません」


「バラカは心配しすぎだよ」


「万が一に備えて、備えすぎるくらいがちょうど良いのです」


「まさか今後もずっと同じ部屋で過ごすつもりなの?」


「はい。そのために一通りの家事はもちろんのこと、踊りやマッサージなども習得しております」


「踊りやマッサージ……?」


 バラカの台詞を聞いて、少しいいなと思ってしまった僕が居た。


「はい。ご希望とあらば、お背中も流しますよ」


「背中って、バラカは恥ずかしくないの!?」


 僕は脳裏でバラカの裸体を想像しかけたが、すぐさま湯気のように霧散した。


「それは……、その時になってみないとわかりません」


 バラカはお茶目っぽくいった。


「そこまで無理してやらなくていいよ」


「無理はしていません。何事も経験してみようが私のモットーです」


「ダメだよ、そういうことは好きになった人同士でやらないと」


 僕は顔が熱くなるのを感じた。


「ファハド様は意外と古風なのですね」


「バラカがそれをいうの?」


 千年もあれば、人の価値観は何週もしているということだろうか。


「お客様、早く決めてくれないかにゃ?」


 僕たちの他愛無いやり取りがまだまだ続きそうだったので、ケット・シーのお姉さんはそう急かした。


「あ、すいません」


「あなたたちがどういう関係か知らないけど、あんまり女の子に恥をかかせるのはいただけないにゃ」


 傍から見れば、バラカが僕のことを誘い、それを断っているように映ってしまうのだろう。


 ケット・シーのお姉さんの余計なお世話に、僕の旗色は一気に悪くなった。


「ぐう、わかりました、一部屋お願いします」


 僕はやむを得ずいった。


 項垂うなだれる僕に見えないところで、ケット・シーのお姉さんはウインクを飛ばし、バラカもウインクを返した。

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