覇の道も一歩から⑥
「ですが、あの時は
「うん、そうだね。他にいい依頼もなさそうだし、オークの討伐を受けよう」
オークの討伐では物足りないといわれたらたまったものではないので、素直に頷いた。
僕は依頼の紙を引っぺがすと、それを受付けのシャザーの元まで持っていった。
「シャザーさん、この依頼を受けます」
「二週間も遭難していたのに、もう次の依頼を受けるの? 本当に怪我とかしていないみたいだね」
シャザーはやれやれといった。
「その件に関しては、本当にごめんなさい。でも、依頼をこなさないと今日の食事代も怪しいんです」
僕は切実に訴えた。
「そんな顔しなくても、冒険者ギルドはダンジョンへ潜ろうとする冒険者を引き留めたりしないわよ。――って、オークの討伐依頼を受けるの!? 危険すぎるわよ! この依頼は認められません!」
「冒険者を引き留めない話はどこへいったんですか!?」
「冒険者ギルドに止める権限はないけれど、私個人としてファハド君に危険な真似はさせないわ!」
シャザーは堂々と言い放った。
「職権濫用じゃないですか」
「挑戦するのは大事なことだけど、危険な目には遭わせられないわ。無謀な挑戦をしようとする冒険者を引き留めるのは、私たちの仕事のうちなのよ」
「シャザーはファハド様の実力を疑っているのですか?」
「ファハド君が無謀なことをすると疑っているわけじゃないの。ただ、昔から戦闘は苦手だって聞いているから」
「戦闘が苦手……? 今の時代、どれほど屈強な戦士が揃っているのですか」
バラカは驚きを隠せていなかった。
「確かに僕は戦闘が苦手でしたけれど、それは少し前までの話です。それに今回はバラカも一緒です。なので、そこまで無謀な挑戦とは思っていません」
「バラカはそんなに腕が立つの?」
「私を
バラカは鼻高々にいった。
「え、倒したことがあるって、ついさっき冒険者ギルドに登録したばかりでしょ?」
シャザーは冷静にツッコんだ。
「えっと、夢の中の話だよね、バラカ」
「はい、そうです。こうやって攻撃を避けて、相手の急所を一突きして倒したのです!」
僕は透かさずフォローして、バラカはその意図に気付いて乗っかった。
バラカは頭の回転は速いのだが、どこか抜けているというかおっちょこちょいである。
「夢の中って……、現実は一度のミスで命を落とすことだってあるのよ!?」
「もちろん、ふざけて挑戦するわけではないです。オークによって困っているケット・シーやドライアドを助けたい気持ちもあります」
「私が付いているのですから、ファハド様に万が一のことは起こりません」
「だから、バラカは初めてダンジョンへ潜るのでしょ? でも、やけに説得力があるのよね……」
(流石シャザーさん、鋭い)
伊達に数多の冒険者を見てきただけあって、シャザーの洞察力は磨かれていた。
バラカがただ者ではないことも薄々勘付いているのだろう。
「シャザーさんお願いします、一度だけ騙されたと思って認めてください。危ないと思ったらすぐに引き返すので」
「もう仕方ないわね、今回だけ特別よ。何か秘策があるんでしょ」
どうやらシャザーは僕たちが正攻法でオークを討伐するとは思っていないようだった。
ブロンズ級と新米冒険者の二人だけでオークをどうにかできるなんて、普通は考えないからである。
「ありがとうございます」
「それじゃあ、ちょっと手続きしてくるから待っていてね」
シャザーはそう言い残して、カウンターの奥の部屋へと消えていった。
「モンスターを討伐するのも一苦労なのですね」
「そのためにも、こつこつと依頼を完遂して実力を認めてもらう必要があるんだ。何事にも近道はないよ、急がば回れだね」
「それがこの時代の覇へ至る道というのであれば、私は全力でサポートするだけです」
「うんうん、いい心構えだね」
バラカがこの世界の仕組みの一つを理解してから程なくして、シャザーが戻ってきた。その手には布袋が握り締められていた。
「そうだったそうだった、サブリーさんから報酬を渡して欲しいと頼まれていたのよ」
「ああ、僕もすっかり忘れていました。色々ありすぎて」
手渡された布袋はずっしりとした重みがあった。
おかしいと思い布袋を開けると、中にはぎっしり500マネー硬貨が入っていた。
「シャザーさん、このお金は何ですか……? 護衛の報酬は一日で500マネーだったはずですよね?」
「ラナー遺跡探索の護衛報酬500マネーと成功報酬100000マネーよ」
「100000マネー!?」
僕の現在借りている部屋が家賃月々1500マネーなので、どれだけの大金かわかるだろう。
「本当にこんなにもらってもいいんですか?」
「依頼の紙にもしっかりと書いてあったわよ? それはファハド君の成果なのだから、胸を張って受け取ればいいの」
「ファハド様、しっかりと軍資金を稼いでおられたのですね!」
こうして僕は臨時のボーナスを得たのだった。
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