覇の道も一歩から③
「ファハド様、笑いすぎですよ」
「ごめんごめん」
僕は白い歯を見せながら謝った。
「腹ごしらえも済んだので、この後の予定を伺ってもよろしいでしょうか」
「う~ん、ひとまず冒険者ギルドの案内所へ向かおうかな。シャザーさんやハリールに生存報告しておきたいし」
「遺跡でも口にしていた名ですね。ファハド様とどのような関係なのでしょうか」
「一人はとてもお世話になっている人で、もう一人はと友達なんだ」
「要するに、ファハド様の下僕たる人材なのですね」
「バラカ、人の話聞いてた? 二人とはずっとこのままの関係が続けばいいと思っているから、変なこといってこじらせたりしないでよ」
僕は諭すように釘を刺した。
「畏まりました」
「あ、その前に少し寄り道をしてもいいかな」
「はい。元より私の道はファハド様の進む道です」
ピラミッドから冒険者ギルドへの道すがらに、僕の家はあった。
家に特に何か用事があるわけではなかったが、二週間も開けっ放しになっていたので、少しだけ気になったのだ。
こういう少し気になったことを、自分の目で確かめないと居られない
「随分と寂しい場所ですね」
「そうだね。この辺に住んでいる人はダンジョンに籠ることが多くて、家は雨風が凌げて眠れる場所くらいにしか考えてないんじゃないかな」
「ファハド様は世情にもお詳しいのですね」
「そんなことないよ」
そうこうしているうちに、一際濃い土色の建造物が見えてきた。
僕が冒険者を始めてから凡そ三年間、お世話になっているアパート『リリイジャ』である。
僕の部屋は向かって左端である。
「着いたよ」
僕は鍵を取り出すと、重たい鉄扉に取り付けられた
「ここは監獄……? 冒険者ギルドの諜報員でも捕虜にしているのですか?」
「違うよ! ここは僕の家だよ!」
「なるほど、ファハド様の隠れ家ですか」
「もうそういうことにしておくか」
僕は説明を放棄した。
今日は南京錠の機嫌が良く、三分と経たないうちに開いた。
「バラカ、少しここで待っていて」
「はい」
僕の家は基本的に物が少なく散らかっていなかったが、一人暮らしらしく洗濯物は干しっぱなしだったので、バラカを家に上げる前に片付けておこうと思ったのだ。
「ごめん、もう大丈夫だよ」
「失礼します」
バラカは部屋に入ってくると、内装をつぶさに観察した。
「じろじろ見られると、何だか恥ずかしいね」
「ファハド様の匂いがします」
「え、臭かった? 換気した方がいいかな?」
「いえ、このままにしておいてください。ところで、隠れ家に立ち寄って何をするのでしょうか」
「少しくつろぎたかったのと、バラカも着替えなきゃいけないでしょ」
「まさか私、臭いますか!?」
バラカは慌てて自身の体臭を確認した。
「違う違う。そのケット・シーの耳と尻尾、ずっと付けっぱなしにするつもりなの?」
「あ、すっかり忘れていました」
「まぁ似合っているけど」
「ファハド様がお気に召しているのであれば、私はこのままでも構いませんよ」
「それだと冒険者ギルドに登録できないでしょ」
「そうでした」
バラカはわざとらしく舌を出した。
「チョココロネで喉が渇いたし、紅茶でも淹れるよ。バラカも飲むよね?」
「いただきます。ファハド様は紅茶も
「別に嗜んでいるってわけじゃないよ。ただの貰い物だよ」
僕は食料棚から紅茶の葉っぱを取り出した。
「その沢山ある金属体は何でしょうか」
「金属体? ああ、缶詰のことかな? 中には食料が入っているんだよ、保存食だね」
僕は遠征で家を空けることが多かったので、食料棚には保存の効く物しか入っていなかった。
「なるほど、食べ物ですか。美味しいのでしょうか」
「栄養は取れるって感じかな。不味くはないけどね」
「そうなのですね」
僕は
水瓶の中には浄化の石と呼ばれるオーパーツが入っており、水が傷むことはなかった。ちなみに、浄化の石の入った水に人が浸かると皮膚が
僕は
「紅茶はルフナといって、蜂蜜を入れると美味しいらしいよ」
僕は受け売りの知識を披露した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます