相乗効果④
後日、僕は待ち合わせ場所へと向かった。
アルスウルのピラミッドから北東の位置に
「あなたが依頼主のサブリーさんですか?」
「よく来てくれたね、君がファハドか」
サブリーの顔には木彫りのような深い皺があった。
お爺さんの割に背筋はしゃんとして、元気な印象を受けた。
「はい」
「いきなりこんなことを聞くのは野暮かも知れないけれど、どうしてこの依頼を受けようと思ったのかね?」
「気になったからです」
「気になった?」
「はい。ラナー遺跡は何百年も前に探索が終わったものとされているにもかかわらず、そこへ挑み続けている理由を知りたかったんです」
「君もワシがただの変人だと思っているのかね?」
「いえいえ、思っていません。これは単なる僕の推測ですけど、きっとサブリーさんは現在当たり前となっている事柄に対して、新しい発見をした。それを証明するために、人生を賭けようとしたんじゃないかと考えています」
「ほほ、久し振りに骨のある冒険者が来たみたいじゃな。詳しいことはラナー遺跡で話そう」
サブリーは上機嫌に笑うと、オベリスクに触れた。
すると、サブリーが砂塵のようにさーっと消えた。
ダンジョン各地に聳え立つオベリスクは、別のオベリスクと繋がっており、人間が触れると転移することができるのである。
僕もサブリーに倣ってオベリスクに触れた。
ぱっと光に包まれたかと思うと、僕は自然豊かな村に居た。
転移の原理はピラミッドの石碑と同じなのかな、などとふと考えた。
「ここはケット・シーの村ですか?」
僕は周囲を見回しながら聞いた。
「ケット・シーのアリーマン族だ。オベリスクを神の創造物だと考え、その周辺に集落を築いている」
「転移先に村があると少しほっとします」
「アルスウルでは見られないが、他のダンジョンではオベリスクが剥き出しで放置されていることもあるそうだな」
「ありますね。そういうところは大体気候条件が悪かったり、近場に凶悪なモンスターが生息しているんですよね」
「ほお、物知りだな」
「遠征隊はそういった未開の地に挑むことが多いので、自然と知識が付きました」
「ラナー遺跡はすぐそこだ、行こう」
僕としてはケット・シー族の村を軽く観光したい気持ちだったが、それはまた今度の機会になりそうだった。
ダンジョン都市ガリグは石と土の町並みなので、木の家屋が並んだ町並みは新鮮で面白かった。
「着いたぞ」
「遺跡って聞いていたから、てっきり村里から離れた場所にあるのかと思っていました」
ラナー遺跡は村の目と鼻の先、いや、最早村の一部といっても過言ではなかった。
「遺跡にはアンデッドが
「確かに、柵も何もしてありませんね」
ラナー遺跡の出入り口は開放的で、看板で注意書きがしてあるくらいだった。
「遺跡の中へ入ると落ち着いて話すこともできなくなるんでな、ここでワシが気付いた新しい真実について話そう」
「はい」
僕は背筋を伸ばして返事した。
「まずはこれを見てくれ」
「地図?」
「一般的に出回っているラナー遺跡の地図だ」
「ふむ」
「この地図を見てどう思うかね」
「地図というよりは、幾何学模様っぽいですね」
「これはこれで美しいのは認める。実際に測定士が距離を測って作ったものだそうだ」
「はあ」
僕はいまいち話の要点が掴めていなかったので、曖昧な返事をした。
「本題はここからだ。これはワシが作った地図だ」
「なんか捻じれていますね」
さきほどの直線ばかりの地図と比べると完全に別物だった。
「その通り、この遺跡は空間が歪んでいるとワシは考えておる」
「どうして空間が歪んでいると思うんですか?」
僕はオウム返しした。
「時間の進み方が違うのだ。もう十年以上も前のことになる、酒の席でワシは友人とつまらぬ言い争いになってな、ラナー遺跡を一人で抜けられるかどうか賭けをすることになったのだ。酒に酔っていたが、当然ラナー遺跡を抜けることができた。しかし、妻からもらった大切な腕時計を遺跡の中に落としてきてしまったのだ。ワシはもう一度ラナー遺跡へと足を運び、腕時計を見付けた」
「その腕時計の時間がずれていたわけですね!」
「ワシの気のせいかも知れんと何度か試してみたが、やはり時計の針は外よりも遅くなっていた」
「なるほど。歪みに気付いてから、どうやってこの地図を作ったんですか?」
僕はサブリーの話に引き込まれていた。
「通路の端と端で同時に砂時計をひっくり返すと、砂の落ち終わる時間に差が出るのだ」
「そのズレから歪みを推測して、この地図のようになるんですね」
「まあ、この地図は未完成、というより間違っておる。遺跡の中心には何かが眠っているはずだが、そこへ辿り着けんのだ。だから、今回はより正確にズレを測定できる砂時計を作ってきたのだ」
「いいですね!」
「ほほう、やはり君はこのロマンを理解してくれるか」
サブリーは上機嫌に白い歯を見せた。
「さて、少し長くなってしまったが、そろそろ遺跡に入るぞ」
「はい!」
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