相乗効果③

 翌日、僕はダンジョン都市ガリグの冒険者ギルドに足を運んだ。


 食っていくだけなら一日一頭トライホーンを仕留めていればいいが、僕が求めているのは安定した生活ではなく、未知へと挑む刺激だった。


 呪い装備がなくなったわけではないので、求人では雇われないだろうが、依頼の方は任務さえこなせば報酬がもらえる。


 僕は人生で初めて、依頼掲示板の前に立った。


 当然、僕の呪い装備がデメリットを打ち消し合って、ただの最強装備になっていることなど知る由もない周囲の冒険者たちは、奇異な視線を向けてきた。


「あいつ正気か?」

「目がイっちまってる、そっとしといてやろうぜ」

「誰も助けてくれなかったんだな」

「遠征で一度一緒になったけど、馬車馬よりしゃべらなくて気味が悪かったな」


 聞き耳を立てていたが、酷いいわれようだ。


(気にするもんか。僕はもう一人でも戦えるんだ)


 僕は半べそでそう強がった。


「ファハド君早まったらダメよ!」


「シャザーさん、僕はぶふぁ」


 シャザーに抱き着かれて、僕は窒息しそうになる。


 シャザーの肩を叩いて、僕はギブアップの意思表示をする。


「わわ、ファハド君ごめんね」


「いえ、大丈夫です。今日、ハリールは来ていないんですか?」


「見かけていないわね。仕事じゃないの?」


「シャザーさん、少しお話があります」


 僕は呼吸を整えると、奥の個室へシャザーを手招きした。


 完全防音というほど機密性は高くないが、ちょっとした内緒話をするスペースである。


「ファハド君、生きていたらいいことあるから! 私がいいこと教えてあげるから!」


「ぶふぁ」


 個室に入るや否や、シャザーは抱き着いてきた。


「シャザーさんは何か勘違いしているかも知れませんが、僕は死のうなんて一ミリも考えていません!」


 僕はシャザーを引き剥がしながら釈明した。


「でもさっき依頼掲示板の前で難しそうな顔してたでしょ?」


「あれは初めて依頼を受けようと思って、どれが僕に合っているのかを考えていただけです」


「ファハド君が依頼を? あ、ごめんなさい、変な意味じゃないのよ」


 シャザーは慌てて訂正した。


「いえ、わかっています。ずっと荷物持ちをしていた僕が、今更依頼を受けるなんて変ですよね」


「どういう風の吹き回しなの?」


 シャザーは心配そうに僕の顔を覗き込んだ。


「くすくす。まったく同じ台詞をズィーナさんにもいわれました。風の吹き回しというか、セネトで呪い装備はどうにかなったというか」


 僕のことを友達だといってくれたハリールや、いつもお節介を焼いてくれるシャザーに秘密にするのは心苦しいが、呪い装備がデメリットを打ち消し合う可能性については当面伝えないことにした。


「ファハド君、セネトに手を出したの? 方法の一つではあったけど、取り返しがつかなくなる場合もあるからいわなかったのよ」


「ごめんなさい、先走ってしまって」


「ううん、いいのいいの。結果的には呪い装備から解放されたわけだし」


「いえ、そうじゃないんです。ダンジョンの探索に支障が出なくなっただけで、呪い装備自体はまだあるんです」


「だから依頼掲示板の前に居たのね」


 シャザーはぽんと手を打った。


「差し支えなければ護衛任務について教えてもらえませんか? トライホーンを倒せる腕があれば、その他の条件は問わないとあったんですけど」


「ああ、きっとあれのことね」


「有名なんですか?」


「アルスウルでピラミッドっぽい遺跡があるでしょ?」


「ラナー遺跡でしたっけ」


「冒険者を引退してから十年間、ずっとそこの探索をしているお爺さんが居るのよ。ラナー遺跡は倒しても倒してもアンデッドが湧いてくるからね」


「とても興味深いですね!」


「そ、そう? 変わり者だし、報酬も少なくてみんなあまりやりたがらないのよ?」


「大丈夫です。やってみます」


 シャザーの態度からあまりお勧めの依頼ではなさそうだったが、僕は俄然そのお爺さんに会ってみたくなっていた。


「ファハド君がやる気なら、アルスウル支部に連絡を入れておくわね」


「はい、お願いします」


 冒険者ギルドは、遠隔でも連絡を取れる無線のようなオーパーツを保有しているのだ。一般的には流通していない代物なので、僕も実物は見たことがなかった。

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