セネト③

 改めて冒険者を続けていく覚悟を決めた僕は、まだ発見されていない四つ目の方法を調べることにした。


 僕が呪い装備に関して有している知識というのは、全て伝え聞いたもので、実際に自分で試したものではなかった。


 僕はダンジョン都市ガリグと外の世界との境界線前に足を運んだ。


 ダンジョン都市ガリグから一歩外に出れば、そこは草木の一本も生えていない一面の熱砂である。


「えいっ!」


 手始めに、指輪の呪い装備アンジェリカを境界の外目掛けて思い切り放り投げた。


 するとアンジェリカは見えない壁にぶつかり、境界の内側に落っこちて転がった。


「ま、そうなるよね」


 オーパーツはいかなる手段でも外の世界に持ち出すことはできない。呪い装備もオーパーツの一種なので、同じ法則が適用されたのである。


 呪い装備をここに置いて外の世界に出れば、呪いからは解放されるのだが、根本的な解決にはならない。都市に戻れば、再び呪いがかかるからである。


 それでも僕は一応試してみた。


 試せることは何でも試す。さもなければ、新しい発見などできるはずもないからだ。


 境界の外に出ると、呪いから解放されたような気がした。何となくだが。


 境界内に戻ると、今度ははっきりと呪いがかかったような感覚に囚われた。


「大丈夫、ここまでは想定の範囲内だ」


 境界の外に出ることで呪いから解放されるかも、という淡い期待が虚しく消え去っただけだ。


 次に、辺りに転がっている石材から平らな物を選び、その上にアンジェリカを置いた。


 オーパーツは超常の力を秘めているが、通常の物体と同じように壊れる。僕も遠征の最中さなか、幾度となくオーパーツが壊れる瞬間を目にした。


 しかし、呪い装備はオーパーツの一種にもかかわらず、神官の呪詛解除以外では決して壊れないそうだ。


 オーパーツの中には、あらゆる物を切断することのできる刀というのも存在するそうだが、それで呪い装備を切断したら果たしてどうなるのだろうか。僕はその答えを知らなかった。


 これから行うのは、呪い装備の破壊だ。


 とはいえ、あらゆる物を切断できる刀の実物を持っているわけでもないので、僕にできる最大限で呪い装備を壊すことになる。


 僕はリュックサックから軍手とロックピックハンマーを取り出すと、弓を弾き絞るように振り上げた。


「えいっ!」


 そのまま、僕は力一杯ロックピックハンマーをアンジェリカ目掛けて振り下ろした。


 ガチッと鼓膜に刺さるような音が鳴った。


 軍手越しでも、なかなかの衝撃が腕に伝わってきた。


「まぁ、これで壊れたら苦労しないよね――って、壊れてる!?」


 僕は諦め気味にロックピックハンマーをどけて、思わず二度見した。


 アンジェリカの材質は金属っぽいと思っていたが、叩けば陶磁器のように砕けていた。


「これは、どういうことだ……?」


 予想外すぎて、手が震えた。思わずロックピックハンマーを落としてしまった。


 僕は今、歴史的な偉業を成し遂げたのではないだろうか。


 兎にも角にも、マックスとトールも同じように破壊することができれば、僕は以前の生活に戻ることができる。


 真っ暗だった未来に、不意に一筋の光が差し込んだ感覚だった。全身に鳥肌が立つのを感じた。


「他の呪い装備も壊さないと」


 うかうかしている場合ではなかった。まだ全ての呪い装備を破壊したわけではないのだ。


 喜びに打ち震えるのは全ての呪い装備を破壊した後だ。


 何が呪い装備を破壊する起因になったのか定かではないが、僕は小手の呪い装備トールも同じように石材の上に置こうとする。


「あれ?」


 そこで僕は、石材の上からアンジェリカがなくなっていることに気付いた。


 少し探してみたが、石材の周囲には落ちていなかった。


 指輪の形をしていればころころとどこかへ転がっていく可能性もあるが、打ち砕いた指輪が跡形もなくなることなんてあり得るのだろうか。


「見付からないなぁ」


 アンジェリカの行方は気になるが、捜索は他の呪い装備を破壊してからでもできる。


 僕は気を取り直して、トールを石材の上にセットした。


 そして、ロックピックハンマーを握り締めた時、右手に小さな違和感を覚えた。


 僕は恐る恐る右手を確認して、戦慄した。


「そんな……」


 先程打ち砕いたアンジェリカが、元通りになって僕の人差し指にはまっていた。


 この時、呪い装備は決して壊れないの意味を理解した。

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