セネト④
呪い装備の特性を嫌というほど理解した僕はとぼとぼと帰路に着いた。
あんまりお腹も空かないし、今日は夕食抜きで床に就こうかななどと考えていると、ちょうど初めてサイードに声をかけられた路地へと差し掛かった。
別にただの普通の路地だが、嫌な思い出のせいで薄気味悪い感じがした。
この路地を通るか迂回するかと迷っていると、不意に声をかけられた。
「そこの君、今時間あるかいな?」
驚いて振り返ると、そこには顔色の悪い中年の男が佇んでいた。
「あなたは?」
サイードの件があったので、僕は警戒心たっぷりに聞いた。
「わいはウスマーンや。あんた、呪い装備で困っとるんやろ?」
「ええ、まあ」
一瞬冷やかしかと思ったが、ウスマーンは切羽詰まっている様子だった。
「実はわいも呪い装備で困っとるんや。ここじゃ人目もあれやし、場所を移して話さへんか?」
「人に聞かれたらまずい話なんですか?」
「せや」
「僕をどこへ連れて行こうとしているんですか?」
「町外れにある空き家や」
「どうしてそこなんですか? 理由があるんですか?」
人目に付かず話したいだけなら、小路地に入れば済む話である。
「付いてくればわかる。呪い装備を捨てられるかも知れへんで」
「呪い装備をどうにかできるんですか……?」
僕の問いに、ウスマーンは口元で人差し指を立てた。
「それ以上はここでは話せへん。興味があるなら付いてきい」
ウスマーンは濁った瞳でこちらを試すようなな感情を浮かべた。
「わかりました、付いて行きます」
悩みに悩み、僕は噛み締めるように頷いた。
ウスマーンに案内されたのは、町外れに建つ長らく人の使った形跡のない空き家だった。
空き家には机と皿、それと脚の折れた椅子以外に家具は置かれていなかった。
「あんた、まだ冒険者を諦めてへんやろ。目ぇ見ればわかる」
ウスマーンは徐に口を開いた。
「ウスマーンさんもそうなんですか?」
「ああ、もちろんや。けれど、わいにはこつこつ働いて解呪代を稼ぐ時間も若さもあらへん」
「僕の場合少し理由が違うんですけど、ダンジョンから離れるとダンジョンに置いて行かれるような気がして。変ですよね、ダンジョンがなくなるはずないのに」
「そりゃ、あんたが生粋の冒険者だからやろ」
ウスマーンは口端を吊り上げながらいった。
「僕が生粋の冒険者……」
「さて、そろそろ本題に移ろか」
「はい」
僕は気を引き締め直した。
「わいは信頼していた仲間に騙されて、二つの呪い装備を渡されたんや」
「そうですか」
その気持ちは痛いほどわかった。
きっとウスマーンも心臓に枷がかかったように、眠れない夜を過ごしたに違いない。
「あんたは騙されて三つの揃い装備を受け取った、で合ってるか?」
「はい」
「呪い装備をどうにかする当てはあるんかいな?」
「いえ、今のところは……」
「そうか。現状のままやと、二人共この町から去るしかあらへん。けど、一方がもう一方の呪い装備を引き受けたら、一人は助かる」
「……そういうことですか」
ウスマーンの様相から、その可能性については薄々勘付いていた。
「悪い話ではないやろ?」
「どうやって呪い装備を受け取る方を決めるんですか?」
僕はせっかちに訊ねた。
「『セネト』って知ってるかいな?」
「オーパーツの一種で、勝敗を決するゲームに特化している物のことですよね」
「知ってるなら話は早いな。わいらが何らかの勝負で決着をつけても、そこには一切拘束力が存在せえへん。呪い装備を受け取る段階になって、嫌やと拒否されたら渡せへんようになってしまう。しかし、セネトでルールを定めていれば、たとえ呪い装備でも相手の意思に関係なく渡すことができるんや」
「つまり、僕とセネトで勝負しようってことですか?」
「どないする? あんたが勝てば、三つの呪い装備とはおさらばや」
「負ければ五つ……」
「別に強制はせえへん。受けるか受けへんかはあんた次第や。断られたら、その時は別の対戦者を探すだけや。何人か目星は付けとる」
「勝負の方法を聞かせてもらってもいいですか?」
負ければ今度こそ間違いなく破滅だが、僕はこれを千載一遇の好機だと考えた。
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