セネト②
翌日、僕は冒険者ギルドへ足を運んだ。
仕事をしなければ、今月の家賃すら払えなくなってしまう。
それに、一人で家に引き籠もっていると、どうしても思考が嫌な方へ嫌な方へと引っ張られてしまうのだ。
求人掲示板には、遠征メンバーの募集が一つあった。荷物持ちはまだ埋まっていないようだった。
治療が受けられない遠征は、これまでとは比にならないほど過酷なものとなるだろう。
「お、おう、ファハド、元気にしてるか?」
僕が求人掲示板の前で渋面を浮かべていると、ハリールから声をかけられた。
「元気、ではないかな」
「そ、そうか」
ハリールの様子はどこかよそよそしかった。
「僕のこと、何か聞いてる?」
「ただの噂話なんだが、お前さんがだまくらかされて呪い装備を三つも押し付けられたとか何とか。そんなわけないよな?」
「噂話じゃないよ」
「そうか。この町じゃよくある話だが、酷いことをするやつも居たもんだ」
ハリールは恨めし気にいった。
「確かに酷いけど、この町じゃ騙される方も悪いんだよね。それに、僕はこれくらいじゃ挫けないよ」
「おお、その意気だぜ。あんまし力になれないかも知れないが、愚痴くらいなら聞いてやるぜ」
「ありがとう。でも、迷惑じゃない?」
「迷惑なもんか。困っていたら力になる、それが友達ってもんだろ?」
ハリールは親指を立てて白い歯を光らせた。
「僕たちって友達なの?」
「おいおい、少なくとも俺はずっとお前さんのことを――」
「――ファハド君、会いたかったよ!」
ハリールの台詞を遮り、シャザーが一直線にこちらへ駆け寄ってきた。
「あ、シャザーさん、こんぶふぉ」
シャザーは迷わず僕を抱き締めた。
押し当てられた柔らかい感触と甘い匂いで僕の思考はくらくらした。
「おいシャザー、俺とファハドとの友情が深まりそうだったのに、邪魔したな!?」
「私のファハド君にちょっかい出さないでくれる?」
「ファハドはお前のもんじゃねえだろ!」
「ねえ、呪い装備を持っているっていうのは本当なの?」
シャザーはハリールを無視して
「本当です」
「そう。だけどここに居るってことは、冒険者を辞めるつもりはないのよね」
「はい。今の僕の状態を話すので、できそうな仕事があれば教えてもらえませんか?」
「わかった。ファハド君の条件に合う求人があったら、積極的に声をかけさせてもらうわね。と言いたいところだけど、残念ながら呪い装備の着用者は基本的に拒絶されるのよ」
「呪い装備は不幸を引き寄せるっていうのは、冒険者の間では有名な話ですからね。長くダンジョンに籠る遠征ならなおさら」
僕はがっくりと肩を落とした。
「そう気を落とすなって、呪い装備を持っているかどうかなんて自己申告だろ? 黙ってりゃバレねぇって」
「じゃあ、どうしてあなたはファハド君が呪い装備を持っているって知っていたのよ」
「そりゃあ、みんなが噂してたからよ。嫌でも耳に入ってくるさ」
「誰々が呪い装備を持っていると噂になることはあるけど、この広がり方はちょっと異常ね。意図的に広げられている感じがする」
シャザーは冒険者ギルド内を見回しながらいった。
「そんなの僕に呪い装備を押し付けた三人に決まっているよ。自分たちを恨んでいる冒険者には消えて欲しいんだと思う。呪い装備の解呪代が払えなければ、僕は冒険者を辞めてこの町を去るしかないからね」
「くそっ、腹立ってきた。ファハド、そいつらの名前を教えろ。俺がとっちめてきてやるからよ!」
「あなたが行っても返り討ちに遭うだけでしょ。ファハド君、ガリグ取引委員会には報告したの?」
「いいえ、まだしていません」
「あんな形だけの組織にいったところで無駄だぜ」
「あなたはどうしてそんな要らないことをいうの!?」
シャザーは目を吊り上げた。
「いや、だって、本当のことだろ?」
「空気を読めっていってるの!」
「くう、空気を読む能力だけは俺が持ち合わせていないものだからな」
「そうだ。良ければ私のつてで仕事を探しましょうか。ファハド君は真面目だから三年も働けば冒険者に復帰できると思うわ」
「三年……、少し考えさせてください。できるだけ早く返事するので」
「そうだよね。いきなりいわれても困るもんね」
「今度一緒に飯行こうぜ。もちろん、俺の奢りだ」
「え、奢ってくれるの?」
シャザーは声を弾ませた。
「どうしてお前に奢らなくちゃいけねえんだ!? 自腹に決まってんだろ!」
「たまには奢ってくれても罰は当たらないと思うわよ?」
「ははは……」
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