第二章
セネト①
四畳半の自宅に戻ると、僕は改めて呪い装備を確認した。
呪い装備のデメリットは、着用した時点でわかるのがこの世界の法則である。
サイードから押し付けられた銃のオーパーツ『マックス』は、リボルバーの形をしていた。
・マックス
弾丸は引金を引いた者の狙った箇所を撃ち抜く。
ただし、六発に一発は自分にも弾丸が飛ぶ。
どのような狙撃手すら凌駕する能力を有しているが、それを差し引いても有り余るデメリットを持っていた。
マックスはハンマーもなければシリンダーを動かすこともできなかった。銃の形をしているが、これはあくまでオーパーツである。装填数は六発で、引金を引く毎にシリンダーに弾丸が自動的に装填されるようになっていた。
ムルジャーナから押し付けられた籠手のオーパーツ『トール』は、黒を基調として金の刺繍が施されていた。
・トール
相手からの物理攻撃と属性攻撃を半減させる。
ただし、相手を攻撃したら自分も傷付く。
前線で戦う冒険者なら致命的なデメリットだが、こちらから攻撃を仕掛けないのであれば無類の防御性能だった。
アサーラから押し付けられた指輪のオーパーツ『アンジェリカ』は、ゴツゴツしたデザインで材質は銀に近い何かである。
・アンジェリカ
毒・精神支配・石化・呪縛・瘴気を無効化する。
ただし、スキル及び薬による治療が無効化される。
状態異常を一つ二つ無効化する装備は聞いたことがあるが、五つは初めてだった。二つ無効化するだけでも、僕が一生働いても手が届かないような金額で取引されていた。
反面、回復手段が制限されるデメリットは致命的といわざるを得なかった。
不測の事態が起きるダンジョン探索において、前線に立つ冒険者が怪我を負うことは日常茶飯事で、荷物持ちの僕でさえ遠征を無傷で帰還したことはなかったからだ。
皮肉なことに呪い装備のトールで格段に防御性能が上がったとはいえ、傷の治療が行えない冒険者は遠征において足手纏いにしかならなかった。
かといって、通常のダンジョン探索では荷物持ちの出番はなかった。
出番があれば、今頃僕はこんな目に遭っていなかっただろう。
(いっそのこと、前線に立ってみるとか)
そう思い立って、僕はすぐさまその馬鹿げた考えを捨て去った。
(違う違う、トールの呪いのせいで前線に立てないのは確認したじゃないか)
ただでさえ絶望的な状況なのに、冷静さを欠いたらいよいよお仕舞だ。
(マックスは引金さえ引かなければ問題ないけど、トールとアンジェリカをどうにかしないと)
僕は全然冒険者を続けることを諦めていなかった。
呪いを解除する方法は三つある。
一つは神官による呪詛解除だが、僕の資産だとどう捻り出しても費用が足りなかった。正直、万年金欠の日雇い冒険者には、呪い装備一つの解呪代すら払えない。
二つは呪い装備を第三者に譲った時である。
第三者に譲るといっても、無理矢理渡しても意味はない。相手が同意して、初めて呪いの譲渡が成立する。
僕のように騙されて受け取った相手にも、呪いの譲渡は成立してしまう。
三つは呪い装備の着用者の死亡時である。
ただのオーパーツではそんなことは起こらないが、呪い装備は着用者の死と同時に消滅する。
これら既存の三つの方法では、呪い装備をどうにかすることはできなかった。
僕は他の誰かを騙して、自分だけ助かろうなんて気もなかった。この苦しみを、他人に押し付けることなんてできなかったからだ。
僕が考えなければいけないのは、四つ目の方法だ。
果たして僕なんかが、ピラミッドが出現してから千年間、誰にも発見されていない四つ目の方法を見付けられるのだろうか。
(ダメだ、ダメだ、弱気になるな。きっと何か方法があるはずだ)
僕は一晩中あれこれと考えたが、結局何も思い浮かばなかった。
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