第10話 ヤクルは本気
「反省会じゃ。」
湯浴みをして汗と泥を綺麗にし、夕飯を食べた後は反省会となった。
因みに、ソラリスとヤクルがタクミの湯浴みに突撃しようとしてメリルに雷を喰らったことがタクミの耳に入る事はなかった。そしてソラリスとヤクルの友情が深まったこともどうでも良いことであった。
反省会は師匠とレオとタクミとグレイの四人で行われた。まずは師匠から良かったところが発表され、次いで場面ごとにどうしてその選択をしたのかを延々と問い詰められた。タクミは師匠に圧倒されてタジタジになり、レオはもはや喧嘩腰である。
「”グレイさんが足してくれる紅茶とお菓子だけが救いだった・・・。あれが有名な圧迫研修かぁ・・・。昨日のは反省会じゃなかったんだよゼルさん。”」
反省会が終わった後、タクミはそう呟いた。
「今日も泊まりだね。また昨日みたいに話そうよ。」
レオは慣れたもので元気だった。
「”塚原卜伝の話だっけか。伊藤一刀斎だっけか。”」
「剣豪の話も良いけど、女の子の話とかどう?アイドルグループでさ、いたでしょ、名前を思い出せないけど歌と踊りに一生懸命でさ、タケルも応援してた五人組の。」
「(タケルも応援してた・・・)”木曜日の娘?”」
「そうそう!略して”木娘”。”テレビの番組”でお化けと同じ名前に略されてますけど、どう思いました?とか聞かれて、リーダーの娘がこっちが本家と言われるように頑張りたいです!って言ってて、タケルはそれを観て頑張れ!って思ったんだよね。」
「”あー、そうだな、いや、ちょっと待って、えーと、今日はこの星の歴史を教えてくれないか。国の成り立ちとか人種や宗教の対立とか国の力関係とか把握しておきたいんだよ。”」
「いいよ。じゃあ女の子の話はまた今度だね。部屋に戻って準備してて、またラピルを迎えにやるから。」
「わかった、待ってる。」
タクミは部屋に戻ってすぐに寝巻きに着替えてベッドに転がった。
(”タケルも応援してた、か。やっぱりタケルでは無いんだな。帰れるならタケルも一緒にと思ったけど、一人になりそうだ。帰れるなら・・・か。”)
—
トントン。
(”ん、あれ?寝ちゃってた?”)
「はい、ちょっと待って。」
ラピルが迎えに来たと思って目を擦りながらドアを開けると、そこにはラピルではなくヤクルがいた。しかもメイド服ではなく戦闘服である。
「タクミさんお迎えに参りました。当主がお会いしますのでこちらにどうぞ。」
「えっ?あれ、ラピルが来るはずだったけど、どういうこと。」
ラピルが来るはずだったと聞いたヤクルは少し動揺した。
「・・・詳しくは当主から話します。レオ様もいらっしゃいます。そのままの格好で構いませんので私に付いてきて下さいませ。」
言われるがままに付いていくと、昨日の夜にレオと話をした部屋にたどり着いた。ヤクルがドアを開けると、師匠とレオ、そして壮年の男性が椅子に座っていた。レオの後ろにはラピルが、壮年の男性の後ろにはグレイと見知らぬ女性が戦闘服で立っている。二人とも武装していた。
「来たな、座りなさい。」
タクミは促されるままに席についた。
「私はこの家の当主、ユリウス=フォン=クロスバッハだ。レオの父親で、そこの爺様の次男にあたる。君のことは聞いているし、少し急がなければならないのでこれ以上の挨拶は省かせてもらう。まず、ここに呼んだ件だが、孤児院が再度襲撃されたと報が入った。」
「・・・・・・えっ?」
「院の建物が崩壊したらしい。死者はいないが、怪我人が多数と行方不明が二人いる。院長とミナという女性だ。」
「・・・拐われた?」
「院長はそうだ。他の者たちの命と引き換えに連れ去られていったそうだ。しかしミナという女性のほうは分からない、何せ彼女は今日はまだこの街にいたのだから。彼女は帰還の先発隊には含まれていなかった。」
「一昨日は白い髪の女性を探してた。院ではミナだけだ。」
「そう報告を受けている。そして彼女がギルドの部屋から消えていた、それは無関係ではあるまい。しかしまだ情報が少なくてな、一昨日の襲撃と今日の襲撃が同じ相手か断定できないのと、ミナという女性が拐われたのか自発的に行動しているのかもわからないのだ。分かっているのは、一昨日も今日も魔物による襲撃だということだけ、それも知能のある魔物だ。」
タクミはレオを見た。レオは黙って頷いた。
「同一犯にしろ複数犯にしろ無関係にしろ、そんな状況は捨て置けない。そして君にはその知能ある魔物と渡り合ったという実績があり、ゴーストの残滓を掬い取る能力が高いと聞く。そこでレオと共に追跡小隊の一つに参加してもらいたい。隊長はギルドから出す。メンバーに希望があれば考慮する。」
ユリウスはタクミの顔色を探りながら依頼を伝えた。もちろん命令である。
「わかった。是非やらせてくれ。」
タクミは真剣な目で答えた。
「準備は後ろの警備長が行う。希望があれば伝えなさい。あとこれは今日の襲撃のレポートだ。読んでおきなさい。ひとつだけ、睡眠は大事だ。それを読んだら今日はしっかり寝なさい。」
ユリウスがそう伝え、タクミが「はい。」と答えた。
「では警備長、後は頼んだぞ。」
ユリウスはグレイに声をかけて退室した。後ろにいた女性も、おそらくユリウス付きのメイドなのだろう、後を付いて出て行く。部屋ではラピルとヤクルが皆に白湯を出してくれた。
「ではレオ様、タクミくん、希望を仰ってください。」
レオと顔を見合わせて先を促されたので、タクミから希望を伝える。
「離れてても会話ができる魔術具があると嬉しい。小隊の中でいつも連絡し合えると危険が減るから。あと内蔵ゴーストで動く”ソナー”が欲しい。”ソナー”というのは・・・」
「ゴーストに反応する波を球状に飛ばす装置だよ。このスコープの機能を改造すればできないかな。飛ばす波は微量でいいから、省エネ設計で。」
説明が難しそうだったので、レオが代わりに伝えてあげた。
「そう、それ。メンバーはレオに任せる。」
何故かヤクルが「えっ?」と驚き悲しそうにしている。まさかタクミが小隊に誘ってくれると期待していたのだろうか。
「わかりました。レオ様は?」
「隊長はゼルさんがいいな。タクミと連携が取りやすいだろうから。あと、レイブン家のアンジュに参加してもらえないかな。」
今度はラピルが悲しそうにしていた。どうもこの家のメイド達は私情が強い。
「わかりました、手配しておきます。ただゼルは手負いとの報告なので、怪我の程度を確認してからとなります。」
「うん、わかった。」
「他に必要なものは私の方で準備しておきますので、今日のところは部屋に戻り休まれてください。」
「ありがとう。」
そうしてレオとタクミは一緒に部屋を出た。
「タクミ、寝てたんでしょ?ラピルが迎えに行ったら返事が無かったって言ってたよ。」
前を歩くヤクルが嬉しそうにしている。
「やっぱり?誰か来たからラピルと思って開けたらヤクルでびっくりした。悪いな。どのくらい寝てた?」
「3時間くらいじゃないかな。”日本語”で話さないの?」
「急に話すことが増えたから”日本語”じゃダメだ。直接説明できるようにならないと。もう“日本語”は使わない。」
「それなら私が練習相手になって差し上げますよ。いつでもお申し付け下さいませ。もちろんこれからでも。」
ヤクルが前を向いたまま言ってきた。その顔はタクミから見えないが、赤い。
「えっ、もしかしてヤクルって本気なの?」
反応したのはレオだった。
「はい・・・あんなに力強く優しく抱き抱えられる殿方はこの国には居りませんので、そのー、素敵な筋肉でした。」
「ああ、そうだね。」
そう言ってレオはタクミの二の腕を触る。この星の人間とは明らかに異なる筋肉の質であった。
「タクミどうする?ヤクルと一緒に寝る?」
タクミの心中をしっかりそのまま書くと、”こいつら何を言ってるんだ?”だった。
「レオさ、もしかしてこの家って性に緩い?」
「うーん、タケルの基準からするとそうだね。タケルは経験なかったから。」
「・・・・・・それはお前はあるってこと?」
これまたタクミからは見えないが、ヤクルと共に前を歩くラピルの顔が真っ赤だった。
「うん、あるよ。」
「”・・・・・・聞きたくなかったー!”」
もう日本語を使わないと決めた直後なのに、タクミは日本語で叫んでしまった。
ちなみにラピルがタクミに殺気を放っていたのは、タクミが来たことでレオとの時間が減ったからであった。ただのやっかみである。
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