第7話 戦闘訓練

「さて、今日は連携の訓練をするぞよ。聞けばお主は国防でレオとチームを組みたいと言っているそうじゃの。レオはクロスバッハから未来の兵士の纏め役として国防に行くでの、尊厳を勝ち得るために首席で卒業せねばならん。そこでチームメンバーは色々な意味で厳選せねばならんのじゃ。すでに一名は決まっておるし、別の一名は入学してからレオ自身で選ぶように指示しておる。国防のチームは連携重視で三人から五人が基本じゃから、お主が加われるかはここでの訓練とレオの意思次第となる。」


「僕はもう決めてるよ。あと必要なのは師匠の承認だけだよ。」


師匠の説明にレオがそう割り込んできた。その言葉にタクミは嬉しくなった。


「必要なのは信頼に足るかどうかじゃ。」


「はい。」


「では始めようかの。お主のスタイルは近接格闘じゃな。ではお主が前衛でレオが後衛じゃ。2対1から始めて2対2、2対3と相手を増やしていくぞい。2対4、つまり2倍の戦力まで捌けるようになったら次は魔装装備が相手じゃ。それもまた2対1から始めて相手を増やしていくぞい。お主かレオのどちらかが戦闘不能と判断されたらその戦闘はやり直しじゃ。今日はどこまでいけるかの。」


そこまで説明を受けてタクミは手を挙げた。


「どうすれば倒したことになる?」


「ふっふっふ、そこは我が家の自慢の魔術具があるのじゃ。お主が着ているのはゴースト斬撃を光に変える服じゃが、相手にも同じものを着させる。そしてお主にはこのグローブとブーツを身につけてもらうのじゃ。これは拘束具を改造したものでの、物理衝撃を和らげる機能がついておる。その際に放出するゴーストで服が光るという寸法じゃ。ただ内蔵ゴーストが切れると効果が無くなるでの、念のために一戦毎に交換してもらうぞよ。」


タクミは渡されたグローブとブーツを装着してみた。ブーツの方は違和感なく使えそうだが、グローブの方はボクシングのグローブに近く、相手を掴むことが難しそうであった。


「わかった。やってみる。」


「ではまずレオと戦術の確認をするのじゃ。時間は5分。戦闘後にも5分で話し合いじゃ。戦闘と確認を繰り返していくぞよ。」


タクミはレオと固まって相談を始めた。タクミにとって二人で地面に絵を書いて戦術を確認するのは、タケルと二人でアリの巣を突いたり棒倒しをしたり釘差しをしたり、そんな日常を思い出すことになってしまい少し潤んでしまっていた。


「タクミ聞いてる?」


とレオに尋ねられて我に返り、試されてる最中だと思い直して戦術に集中した。


「・・・・・・とまあ、最初はこれで行ってみようよ。」


「”タイミングはどうする?”」


「タクミに合わせるよ。」


「”了解。”」


戦闘訓練は索敵から始まる。訓練場にはゲートがいくつかあり、大木や岩もあって身を隠すところには困らない。進入ルートは第三者が指定し、互いに非開示のため相手を見つけるところから始めるのだ。師匠は非戦闘地区と定められた高台で訓練を見守っている。


「いたよ、東門側の木のかげ、たぶんあれはメイド長だ。武器は矛。形状は”薙刀”に近い。強いよ、気をつけて。」


「”この家のメイドは武闘派なんだな。”」


「警護でもあるからね。」


「”了解、北から近づく。”」


そうしてレオと別れて北からメイド長に近づいていった。タクミはゴーストの放出ができないため相手の索敵には引っ掛からない。反面魔術具による索敵ができない故に距離がある場合には相手の移動を検知しにくい。出会い頭に気をつけながら更に近づく。


(”ソナーが欲しいな。この内蔵ゴーストの技術が有れば俺でも使えるソナーが作れそうだけど、ブフリに頼んでみようかな。”)


予定位置に着いたのでレオに合図を送った。すると南門の方角、やや高台から矢が放たれた。と同時にタクミは矢の着弾点に向かって駆け出し、相手を視界に捉えた。


相手の位置が分からないために初撃はレオに任せたのだ。矢を陽動にして逆方向からのタクミの攻撃が当たれば良し、当たらずともタクミがメイド長と相対している間にレオが移動してステルス状態になれば良しという思惑だった。


対峙する戦線豊富なメイド長メリルは大柄な女性で、背が高く筋骨隆々、その割に矛の繊細な扱いが上手い技能派であった。メイドの長なだけあって、その実力はメイドの中でも上位に位置していた。


そうなれば矢一本の陽動にかかるような相手ではない。当然背後からのタクミの接近には気付いていた。


「プロテクト:スフィア」


レオの曲がる矢を警戒して、メリルは避けずに球状のシールドで防御する。これにはタクミの飛び道具を警戒する意味もあった。


そして振り向き様に矛で横撫でし、タクミを牽制した。


タクミはそれを地面に沈んで掻い潜り、外して手に持っていたグローブを至近距離からメリルに投げつけた。


シールドは内側から攻撃すると解除される仕様であるため、矛を振るったメリルにシールドの防御は無いことになる。


メリルは迫るグローブを矛の回転で叩き落とし、その勢いのまま右下から切り上げた。が、グローブを叩き落とした分だけ一手遅れて、タクミに懐まで入り込まれていた。


(”持ち手を狙う。”)


とタクミが考えたとき、メリルの矛が急に消えた。その一瞬の動揺に有利は消え去り、次いでメリルの振り下ろしの左ストレートが迫ってきた。


タクミはそれをギリギリでいなし、いなした勢いを利用して回転しながら放った回し蹴りをメリルの脇腹にヒットさせた。


衝撃無効とはいかないようで、少し吹き飛んだメリルのその脇腹が光り輝いている。が、まだ無力化判定とはならない。


「プロテクト:キューブダブル」


飛ばされながらも狙撃に備えて全方位の堅いシールドを張るメリル。そしてすぐに追撃をしたタクミ。そのタクミの背後、メリルの死角からレオが六本の矢を放っていた。次いでメリルのシールドを貫くための力を込めた一撃を準備して待つ。


六本の矢は順にタクミの背中に迫り、直前で四方に散ってメリルに襲いかかった。メリルはタクミの背後から現れた多角的に襲ってくる攻撃を防ぐために、燃費の悪い堅いシールドを維持しなければならなかった。


「あら、まずいわね。」


そう呟いたのはメリルだった。タクミにシールドを割られたら負けると判断したメリルは、一瞬の光と共にその手に矛を出現させた。


そして、一本目の矢がシールドに着弾したところでタクミに向かって踏み込んで矛を振るった。タクミを牽制しつつ、二本目と四本目の矢を一振りで撃ち落とすのが目的である。三本目は諦めて、それ以外は前に出ることで直撃を避ける狙いがあった。


しかしそれをタクミが許さない。既に間合いを詰めていたタクミは、メリルの持ち手を掴んで斬撃を止めた。と、同時に前進も止められたメリルに四本の矢が襲いかかり、メリルの体を眩しく発光させた。


「やったねタクミ、メイド長を倒したよ。」


レオが駆け寄ってくる。


「”2対1だからな、ここで躓いてちゃまずいだろ。”」


「そんなことないよ、メリルは乱戦も得意だからね、最初の衝突でタクミがメリルに優位を取ったのが大きかったね。そのまま畳み込めた。」


「”それを言ったらお前の狙撃だろ。あれ打ち合わせに無かったけど狙ってたのか?”」


「一番死角になるからね。相手の背中からでも良かったけど、移動途中でちょうど良い角度になりそうだったからやってみた。上手くいったね。」


「”そうだな、でも次は2対2だ。同じようにはいかないだろう?どうしようか。”」


「基本はさっきと同じで良いんじゃないかな。相手が1対1を作るなら・・・・・・。」


タクミはグローブとブーツを交換しながらレオの戦術に耳を傾けた。こうやって戦闘のことを当たり前に話すレオを見て、もうタケルのままでは無いんだなと実感してしまい、少し寂しくなった。と、同時に少しの違和感を感じた。


(”タケルの転生者にしてはタケルの色が薄いんだよな。転生がそういうものって言われればそれまでだけど、人格は遺伝子によってリセットされてしまうのかな。もしかしてレオって人間にタケルの記憶のみが定着した状態ってこと?となると転生ではないのか・・・?”)


「タクミ聞いてる?」


「・・・ごめん、考え事してた。」


「ったく、もう時間だから行くよ。基本は1対2だからね。任せたよ。」

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