03 真相
「お、お兄ちゃん!?」
「アルド!?」
「こ、これはどういうことでござるか!?」
「理解不能……ワタシの回路もショート寸前デスノデ!」
あまりのことに混乱した面々が口々に叫ぶ。
「ん? ああ皆……って、ちょっと待て!」
目を覚ましたアルドが慌てて立ち上がり、エイミたちから距離を取る。
「さっきのはいったい何だよ!? 皆していきなり襲いかかってきて!」
「……ほ、本当にお兄ちゃんなの?」
「当たり前だろ。というかフィーネ、さっきの一撃かなり効いたぞ……」
痛そうに頭をさする彼は、どこからどう見ても、皆がよく知るアルドそのものだった。
「ど……どういうこと? フードの男はファントムの手先のはずじゃ……?」
「それにマナ殿も言っていたでござるよ。フードの中の顔はアルドと違っていたと……」
「ファントム? さっきから何を言ってるのか全然わからないぞ。というか、どうしてイスカやソフィアたちまでここに?」
不可解そうに全員の顔を見渡すアルド。
全員が混乱の極みにある中、唯一真相を見抜いていたイスカが口を開いた。
「私から説明しよう。といっても、私も先ほどサキから話を聞くまでは半信半疑だったのだが」
「サキから?」
「ああ。君たちから説明を受けた時、サキだけが不可解そうな反応をしていたのが引っかかってね」
今度は全員の視線がサキに集中する。
サキは俯いて「はい……」と小さく呟いた。
「エイミさんたちから『アルドさんが毒で苦しんでる』って聞いた時、おかしいと思ったんです。だって、数時間前にアルドさんから連絡をもらった時、そんなこと全然言ってなかったから」
「アルドから連絡!? しかも数時間前ですって!?」
「どういうことでござるか、サキ殿?」
「は、はい。実は私とマユちゃんとアルドさんで、〝ある大会〟に出る約束をしていて……今日がその大会の日だったんですけど、直前になってアルドさんから『大会には出られないかもしれない』って連絡があったんです」
「大会? それってまさか」
ヒスメナが何かに気付いたようにはっとする。
「……はい。ロード・オブ・マナの世界大会です」
「…………」
ほぼ全員が呆然とする中、ヒスメナが「やっぱり……」と呟いた。
『ロード・オブ・マナ』とは、あるIDAスクールの学生が開発したMMORPGのタイトルである。
ヤミリンゴ事件の最後の舞台としてIDEAメンバーやマナと共にアルドも参加したのだが、その際にゲームの面白さに嵌まってしまい、事件解決後も彼ら全員(マナを除く)がプレイを続けていた。
「今日の大会はロード・オブ・マナの全プレイヤ―を対象にしたもので、ボスを一番最初に倒したチームが優勝という形式のものよ。そこにサキ、あなたたちも参加しようとしていたってわけね」
「黙っていてすみません。でも、ヒスメナさんたちも参加予定だったんですよね?」
「う……そうね。確かに、私とクロードとイスカの三人でエントリーしていたわ」
後ろめたそうにヒスメナが答え、クロードが「ふむ」と後を続ける。
「そこに本件の報告が入り、今日の大会は諦めざるを得なくなったわけだが……このメンバーならば優勝間違いなしだっただろう」
「は、はい。ヒスメナさんが出るなら私たちじゃどうせ勝てないし、参加するつもりはなかったんです。でもアルドさんが『諦めたらダメだ、自分も参加するから一緒に優勝しよう』って言ってくれて……それから三人で特訓してたんです。マユちゃんあのゲームをやってる時はすごく楽しそうだから、少しでも元気づけられるならって思って」
友人を想うサキの言葉に毒気を抜かれ、エイミたちはただ肩を落とす。
「アルド……私たちに隠れてそんなことしてたのね」
「じゃあ、お兄ちゃんがモベチャに言ってたことって……」
「そのナントカの大会のことだったでござるか……」
「『強大な敵』はIDEAチームのことダッタ……流石にワタシのシミュレートでも予測不可能デスノデ!」
隠していたことを暴露され、アルドは悪戯がばれた少年のようにバツが悪そうに頭を掻く。
「はは……でもオレ、あんまりゲームが得意じゃないみたいでさ。サキたちを焚き付けたオレが二人の足を引っ張るわけにもいかないだろ? だから、王さまとの約束の時間まで少しでも練習したいと思ってさ。夜中に抜け出して、未来に戻って徹夜で練習してたんだ」
「ゲームの練習……」
今にも膝から崩れ落ちそうな仲間たちをよそに、アルドは「うーん」と伸びをする。
「でもやっぱり徹夜はダメだな。未来から戻ってきてユニガンに行ったら、セレナ海岸に魔物が出たって話を聞いてさ。急いで倒しに行ったんだけど、体がまともに動かなくて、魔物の毒を食らっちゃったからな」
「毒……そうよ! アルド、体は大丈夫なの!?」
経緯はどうあれ、アルドが毒に侵されたことは事実だった。
ラチェットやミグランス王はアルドの苦しむ様子を証言していたし、ラディカの占いでも『混沌』『死神』という不吉な結果が出ていた。
しかし、今のアルドは普段通り、健康体そのものに見える。
「ああ、その毒ならもう治ったよ」
「……は?」
あっけらかんと答えるアルドに、一同が再び口をぽかんと空ける。
「ピピ――アルドさんの健康レベルをチェック」
リィカがアルドの全身をスキャンする。
「結果は……オールグリーン。マッタクもって健康そのものデス!」
「…………」
本来喜ばしいはずのその結果に、エイミは何故か「殴りたい」という衝動にかられた。
「でも、どうして皆がそのことを?」
「皆、君を追ってここまできたんだよ」
不思議そうに首を傾げるアルドに、絶句しているメンバーの代わりにイスカが口を開く。
「俺を追ってきた?」
「ああ。ただ色々と行き違いがあってね。大体のことは理解できたけれど、まだいくつか疑問が残っている。アルド、そのフードを被っていたのはどうしてだい?」
そう。それこそがこの一大騒動へと繋がった最大の要因であった。
マナ、それにソフィアとシンシアが見かけたという、大剣を腰に佩いた怪しいフードの男。その正体がアルドであったことははっきりしたが、しかしフードなど被っていなければその時点で誤解は解けていたのだ。
「ああ、それは……」
「くちっ!」
突然割り込んできた妙な音。
皆が視線を向けると、フィーネが両手で口を押えていた。
「ご、ごめんなさ……くちっ!」
「フィーネ、大丈夫……へくしっ!」
「いやいや、エイミまでどうしたでござぶしゅっ! ござぶしゅっ!?」
キノコの胞子を受けた三人が、示し合わせたように同じタイミングでくしゃみを連発し始める。
「コレは……マサカ毒の症状が出始めたノデハ!?」
「えっ! まさか皆もあの魔物の毒を食らったのか!?」
アンドロイド故に胞子の影響を受けていないリィカの言葉に、アルドが目を丸くする。
「アルドさんが目覚める前に、次元の穴カラ出てきた魔物のキノコと戦ったノデス!」
「ああ、そうだったのか。こうならないようにオレ一人で倒そうとしてたんだけど……」
「ちょっと、何なのこれ!? 鼻がムズムズしてくしゃみが止まらな……へくしっ!」
「鼻だけじゃなく、目も痒くてたまらんでござぶしゅっ!」
「くちっ! くちっ!」
三人はいまだくしゃみが収まらず、目は充血して真っ赤に染まっている。
「そうそう、こうなるんだよな……」
「……これが毒の症状だと言うのかい?」
しみじみと呟くアルドにイスカが問う。
「ああ。でもこれだけじゃなくて、そのうち顔が真っ赤に腫れてくるんだよ。ツルツルのパンパンで、それこそアイザックみたいに……」
「なるほどね」と、イスカが納得したように言う。
「それがアルドが顔をフードで隠していた理由かい?」
「ああ。魔物に間違われても嫌だし、さすがにあの顔で歩くのは、その……恥ずかしかったからな……」
「じゃあ、IDAシティで私が見たのは……」
「ツルツルでパンパンのアルドだったってわけね。それじゃ別人と見間違えるのも無理ないわ」
マナとヒスメナが納得したように言う。
アルドたちのあまりに淡々とした様子を見かねてか、「ちょ、ちょっとあなたたち」とアナベルが割って入ってくる。
「話してないで、早く三人の毒をなんとかしないといけないのではないの?」
「心配は無用だ、レディ・アナベル。何故なら、あれは毒ではないからな」
クロードが自信たっぷりに断言する。
「あの症状、覚えがある。我々の時代のそれより多少症状が強いようだが、間違いないだろう」
「ええ」とヒスメナが同意する。
「あれはただのアレルギー反応ね」
「あれるぎぃ?」アルドが訊き返す。
「簡単に言えば、微細な物質が目や鼻の粘膜に付着して、拒絶反応を起こしたってこと」
「ふうん……よくわからないけど、毒じゃなかったってことか。確かに毒にしちゃ変な症状だと思ったけど」
得心したように頷くアルドに、イスカがやれやれという風に首を振る。
「すまないがアルド、順を追って説明してくれるかい? 未来から戻った後の君の行動を」
「ああ、わかったよ。さっき話した通り、セレナ海岸に魔物が出たって聞いて駆けつけたんだけど――」
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