第5話【現代】-消えた主人公の行方-

01 覚悟の刻

 次元戦艦でユニガンへと戻ってきた一行は、セレナ海岸へと急ぐ。

 最初に集った時から、その数は倍以上に増えていた。アルドに助けられた者たちが、今度はアルドを助けるために参集したのだ。


 海鳴りと潮の香りが強まってきた辺りでエイミが足を止め、一同を振り返った。


「これからフードの男と対峙することになるだけど……相手はかなり強敵のはずよ。みんな覚悟はいいわね?」


 全員が「当然」と言わんばかりに強く頷く。


「よし。それじゃ行きましょう!」


 エイミの号令で全員がいざ決戦の場へと歩を向けようとした、その時。


「ストップデス! 後方より二体の接近反応アリ!」


 リィカが警告を発するのと同時に、ガチャガチャと金属製の重い足音が近づいてくるのが聞こえてきた。

 見ると、二人の人物が走ってくる。甲冑に身を包んだ二人の女騎士――どちらもよく知っている人物であった。


「アナベル! それにディアドラも!」

「あなたたち、どうしてここに!?」


 互いに驚きの声を上げる。

 ミグランス第一騎士団団長であり『聖騎士』の異名を持つアナベル。背後にはアナベルの副官であるディアドラも控えている。

 二人とも息を切らしているところを見ると、相当の距離を走ってきたようだった。


「ご両人とも急いでいる様子でござるが、何かあったのでござるか?」

「ええ」アナベルが頷く。「どうやらセレナ海岸に魔物が現れたらしいの」

「魔物?」

「ええ。それが誰も見たことのない新種の魔物らしくて、急いで騎士団を編成して討伐に向かおうとしていたのだけれど……ちょうどあなたたちがいてくれて助かったわ」

「む? どういうことでござる?」

「お前たちなら話が早いということだ」

 アナベルの言葉の意味を測れずにサイラスが訊き返すと、ディアドラが代わりに口を開いた。

「その魔物を目撃したという住人からの情報が入ってな。その魔物は空中に突然現れた穴から出てきたらしいのだ」

「穴!?」


 こうなると偶然とは思えない。エイミたちが追っているフードの男と関係していると考えて間違いなさそうだった。


「問題はそれだけじゃない」ディアドラが続ける。

「その穴は、報告によると〝緑色〟だったらしいのだ」

「緑色の穴……? まさかそれって」

「ああ。普通の時空の穴じゃない。あの時と同じ、異時層へと繋がるものだろう」


 〝あの時〟――まだ記憶にも新しい、巡る因果と祈りの物語。

 その物語を決着へと導くきっかけとなったのが、アルドたちの世界とは異なる並行世界、通称『異時層』へと繋がる次元超越の穴であった。


「恐らく、また何かの弾みで開いた穴から異時層の魔物がまぎれ込んできたのだろうが……住人の情報によると、その魔物と戦っていた男がいたらしくてな。特徴を聞くと、明らかに我らの知っている人物に酷似していたのだ」

「それってまさか、アルドのこと!?」

 エイミがとっさに反応すると、ディアドラが意外そうな顔をした。

「む? 正解だが、何故わかった?」

「ちょっと待ってディアドラ」

 アナベルがきょろきょろと一同の顔を見回す。

「エイミさん、アルドの姿が見えないけれど、彼はどこへ?」


 エイミが手短に事情を説明すると、二人の顔色が変わった。


「そう、アルドが……そんなことが起こっていたなんて」

「住人からの情報とも一致するな。魔物と戦った後、男は目撃者にこう伝えたらしい。『その魔物は毒を使う。一時は退けたが倒すことはできなかった。再び現れるかもしれないから誰も近付けるな』――と」

「……つまり、アルドが食らった毒というのはその魔物のものでござるな」


 点と点が繋がって線になり、線と線が繋がって具体的なイメージを成していく。

 アルドはここセレナ海岸でその魔物と対峙し、異世界の毒を受けてしまった。治療法もなく、自らに残された時間が少ないと悟ったアルドは、フードの男を追って未来へ向かったが、戦いに敗れてしまった。そしてアルドからオーガベインを奪ったフードの男は、再びセレナ海岸へと戻ってきた。


「フードの男がこの時代に戻ってきたのは、きっとその魔物をまた異時層から呼び寄せるためね」

「うむ。急ぐ理由がまたひとつ増えたでござるな」

「手分けシテ捜索することを推奨シマス!」

「私たちも行くわよフィーネ!」

「うん!」


 エイミたちが猛然と走り出し、他の仲間たちも後に続く。


「どうやら騎士団を編成している時間はなさそうね。私たちも行くわよ、ディアドラ!」

「ああ姉さん。……久しぶりにひと暴れといくぞ、フェアヴァイレ!」


 アナベルとディアドラも、エイミたちとは違う方向に疾風のように駆けていく。

 最後に残ったのはサキとイスカの二人であった。


「イスカさん、私たちも急ぎましょう!」

「――いや。ちょっといいかい、サキ」


 呼び止められ、今にも走り出そうとしていたサキが慌ててブレーキをかける。


「え? どうかしたんですかイスカさん?」

「いくつか気になることがあってね。すべての決着がつく前に、君に聞いておきたいんだ」

「私に……ですか?」

「ああ。正直に答えて欲しい。君は――」


 イスカが、その鋭く光る双眸でサキを見据える。


「何か隠していることがあるんじゃないかい?」

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