第4話 【未来】-繋がる糸-

01 第二の事件

 IDAシティ。広大な敷地に学生寮やショッピングモール、娯楽施設などがひしめくように立ち並び、IDAスクールの学生だけでなく多くの住人やエルジオンから訪れた客などで常に賑わいを見せる巨大学園都市である。


「いつ来てもすごい光景でござるなあ」

 サイラスがその光景に圧倒されたように長い舌を巻く。

「でも、ここで一から手がかりを探すとなると骨が折れそうね……」

「ワタシの骨格フレームの耐久値もオーバーしそうデスノデ!」

「エイミ、アルドが行きそうな場所に心当たりはないでござるか?」

「うーん。アルドがシティで行きそうな場所ね……」


 エイミが腕を組んで考え込む。

 アルドがIDAシティに来た目的がわからない以上、アルドにとって馴染みのある場所から探すのが得策だろう。


「そういえば、アルドって確かIDAスクールの学生でもあったわよね? まず学生寮のあるレゾナポートから探してみるのはどうかしら」

「うむ。では案内をよろしくでござるよ」


 エイミの提案通りレゾナポートへ向かい、入り口をくぐる。

 と、そこに見知った顔が並んでいるのを見つけた。


「あら? あなたたち……」

「おや、君たちか。皆揃ってどうしたんだい?」


 穏やかな笑みと理知的な瞳をエイミたちに向けるのは、IDEA会長のイスカ。

 これまで数々の事件を解決に導いてきた、アルドたちにとってもこの上なく頼れる仲間の一人である。


「そっちも勢揃いね。皆で遊びに来たって感じじゃなさそうだけど、何かあったの?」


 イスカの後ろには、もう二人の白制服、クロードとヒスメナが控えていた。彼らがこうして一緒にいるということはつまり、IDAスクール内で何かしらの事件が起こったということだろう。

 そしてもう一人。

 ヤミリンゴをめぐる一連の事件でアルドたちの仲間に加わった少女、マナが、彼らに囲まれるように立っていた。


「さっきまで皆で楽しく遊んでいたのだけれどね。それどころじゃなくなったのよ」

 険しい表情でヒスメナが答えると、クロードが「ふっ」と肩をすくめる。

「楽しい時間は終わりということだ。このような不穏な報告を聞いてしまっては、我々が動かないわけにはいくまい」

「不穏な報告、デスカ?」


 イスカが「うん、ちょうどいい」と手を叩き、エイミたちに向き直る。


「君たちも一緒に話を聞いてもらえるかな。力を貸してもらえると助かるのだけれど」

「……ごめんなさい。悪いけど今はこっちもそれどころじゃないの」


 イスカの提案をエイミが拒む。普段なら力を貸すところだが、今はアルドを探すことが最優先である。

 だが、イスカが次に口にした言葉は予想外のものだった。


「アルドの身に何か起こったんだろう?」

「えっ!?」「どうしてそれを!?」

 あっさりと言い当てるイスカの察しの良さに全員が息を呑む。

「単純なことさ。君たちが集まっているのにアルドだけがこの場にいない。何よりその報告というのが、どうやらアルドに関係しているようだからね」

「お兄ちゃんが!?」

「ああ。まだ確実な根拠があるわけではないけれど、彼女の話を聞く限りその可能性が高い」

 と、イスカがマナに視線を送る。


「あ、あの……えっと、私……」

「マナ。落ち着いてもう一度、あなたが見たことを教えてくれる?」


 皆の注目を浴びてしどろもどろになるマナにヒスメナが優しく声をかけると、マナはひとつ深呼吸をし、口を開いた。


「……あのね、怪しい人を見たんだ」

「怪しい人?」

「うん。全身を白いフードで覆ってる男の人でね。顔が見えないくらい目深にフードをかぶってたの」

「それは確かに怪しいでござるが……しかしそれとアルドとどういう関係が?」

「いや、まずは最後まで彼女の話を聞いてほしい。マナ、君がその男を見た場所はどこだい?」


 イスカが先を促すと、マナは何故か拗ねたような表情になる。


「シティエントランスだよ。今日はお休みの日って言ってたからヒスメナさんと遊べると思ってたのに、誘ったら断られちゃって、だから一人で散歩してたの」

「う……ごめんなさいマナ。今日はどうしても外せない用事があって……」

「もういいだろうその話は。どのみちこうなっては〝その件〟も諦めるしかないのだからな」

「…………?」


 思わせぶりなヒスメナやクロードの言葉にエイミは引っかかるものを覚えたが、追求はしないことにした。今は無関係の話はしている場合ではない。


「それでマナ、君がその男に引っかかった理由は他にもあるんだろう?」

 イスカが話を本筋に戻すと、マナはこくこくと頷いた。

「そうなの。そのフードの人、大きな剣を腰にぶら下げてたんだけど、それが……アルドさんの剣と似ているような気がしたんだ」

「アルドの!? それって……」

「オーガベインでござるか!?」


 にわかには信じ難い話だった。

 オーガベイン――アルドが腰に佩く、オーガ族の怨念宿りし魔剣。

 紆余曲折を経て現在はアルドが正式な所有者となり、普段は鞘に封印されているが、すべての人間に憎悪を抱くこの魔剣がひとたび封印から解かれた時の脅威は計り知れない。あまりに危険な兵器である。

 その魔剣を「アルド以外の人物が持っていた」と、マナはそう言ったのだ。


「見間違えじゃないの? 見た目が似てるだけとか」

「そう言われると自信が……でもあんなに特徴的な剣、他に見たことないし」

「そのフードの男がアルド本人だった可能性はないのかい?」

 イスカの問いに、マナはきっぱりと首を振る。

「フードをかぶってはいたけど、鼻から下くらいは見えたんだ。あの顔は絶対にアルドさんじゃなかったよ」

「アルドじゃない……ってことは」


 アルドではない人物がオーガベインを持っている。それも、アルドが来たはずのこの街で。

 それが意味するところはひとつしかない。


「その男にオーガベインを奪われたということでござるか……あのアルドが」

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