第2話 【古代】-凶兆-

01 ラチェットの証言

 AD300年からBC2万年の古代へ跳んだ一行は、その足でパルシファル宮殿へと急行した。


「そう、そんなことが……」


 事情を聞いたラチェットが神妙な面持ちで腕を組む。

 折よく仕事が終わったばかりらしく、ラチェットはいつもの酒場ですぐに見つかった……が、そこにアルドの姿はなかった。


「それで私たち、お兄ちゃんを追ってるんです。ラチェットさん、お兄ちゃんがここに来ませんでしたか?」

「ええ、来たわよ」

「そう……やっぱりそう上手くはいかないわよね……え?」

「だから、来たわよ。その毒の治療法を知らないかって」


 あまりに呆気ないその答えに、一同は逆に驚いてしまう。


「本当に当たってた……」

「思ったより簡単に足取りが掴めたでござるな」

「これでアルドさんは袋のキャットデス!」

「ラチェットさん、お兄ちゃんはどこに!? それに毒を治す方法はわかったんですか!? お兄ちゃんどんな様子でした!?」

「お、落ち着いてフィーネ」

 矢継ぎ早に質問を繰り出すフィーネをアルテナが制止する。


 ラチェットは力なく首を振った。


「アルドはもう行ってしまったわ。それと毒の方だけど……結論から言うと、残念ながら私にも治療法はわからなかった。見たことのない症状だったし、この時代に存在しない毒となると、さすがに私にもどうしようもないわ」

「そう……ですか……」

「あなたにこれを伝えるのは酷かもしれないけど……あの毒、かなり強いものじゃないかしら。アルドはかなり辛そうにしていたし、それにこう言っていたわ。『自分にはもう時間がない、だから急がなきゃならない』—―と。きっと彼も、自分の身体のことをわかっていたんじゃないかしら」

「そんな、お兄ちゃん……」

 フィーネが顔色を蒼白にさせ唇を震わせる。


 期待していた分、ラチェットの言葉は全員の胸に重くのしかかっていた。

 信じられない。信じたくない――そう強く思う一方で、「もしかしたら」の不安が否応なしに膨らんでいく。

 ラチェットの判断はいつも的確だ。そんな彼女が口にした〝最悪の可能性〟はどうしても真実味を帯びて聞こえてしまう。


「本当にアルドの毒を治す方法はないのでござるか?」

 一縷の望みをかけてサイラスが問うと、ラチェットは少し考えた後、

「……可能性がゼロってわけじゃないわ」と答えた。

「本当ですか!?」フィーネが縋るように叫ぶ。

「アルドが言うには、その毒は植物系の魔物のものらしいの。調合された毒ではなかったのがせめてもの救いね。自然界の遅効性の毒なら、逆に解毒作用を持つ植物があれば中和できるかもしれない。ただ……仮にあったとしても、心当たりもなく見つけるのは難しいでしょうね」

「……アルドにもそれを伝えたでござるか?」

「ええ。だから、次にアルドがどこに向かったのかはわからないわ」


 役に立てずにごめんなさい、と頭を下げるラチェットに礼を言い、エイミたちはその場を後にした。

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