第35話 エピローグ

 季節は過ぎて春。

 僕は無事高校を卒業し大学生になっていた。

 入学したのは第一志望であった日吉大学の文学部。

 大学生=ヒマジン・オールザピープルというイメージもあるけれど、まあそれなりに忙しく充実した日々を過ごしている。

 なおこの頃の僕は中二病が悪化したのか、コスプレが癖になってしまったのか、制服でなくなったのをいいことに学校に通うにも常に和服を着ていた。そのため当時ブームだった将棋の棋士であるとよく間違えられたものだ。

 まァイタイのもここまで来ると微笑ましく思い出すことができる。

「あっおーい竜王! このあとヒマだろ? 飲みに行こうぜ」

 それなりに人気者だったしね。ほとんど面白がった男にだけど。

「あ、悪い。今日はダメなんだ」

「小説のサークル? バンド? 彼氏とデート?」

「だからあいつは彼氏じゃないって」

 本日の行先は――


「グロちゃんとこのお店。久しぶりに来るな」

 看板には『臓物の小林』とおどろおどろしい字で書かれていた。あまりおいしいものが食べられるお店という感じはしない。苦笑しながら入り口のドアを開いた瞬間。


 ――パン! ――パン! ――パン! ――パン! ――パン! ――パン!


 いっせいにクラッカーが鳴った。そして。

「せーの!」

「「「「「「「「「「モンスターX先生! 一次審査突破おめでとう!」」」」」」」」」」

「おおげさすぎない!?」

 本日は僕の小説が初めて新人賞の一次審査を突破したことを祝っての宴ということである。ガソミソのメンバーにイオちゃんに英二、ZAZEN、グロちゃんのおじいちゃんとおばあちゃん。雁首を揃えていた。

 みんなスーツやらドレスやら着物やらを着て完全装備状態。部屋にもやりすぎってくらいの飾りつけがほどこされていた。

「うぐぐぐぅぅぅ……びええええええ……!」

 イオちゃんは綺麗なドレスの胸辺りがびちゃびちゃになるくらい号泣していた。

「おめでとう……おめでとう……よかったね……よかったね……」

「あのねぇ……」

 小説を新人賞に投稿したという経験がない人からしたらけっこうすごいと思うかもしれないけど、一次審査くらいなら初めて投稿した作品が通過したという人がごろごろいる。一次審査を突破するのに十年近くもかかるやつなんてそっちのほうが希少だ。

「まあとにかく! 宴の開催じゃあ!」

 ドクター・ヘル特製の合法ジュースで乾杯。

 部屋に置かれた巨大な七輪にグロテクスな臓物たちが次々と投入されていく。店内には僕がグロちゃんのために作った言牙【レッド・アシッド・ドラゴニュート】の音源がありえないくらいの大音量で流れていた。

「なあ今回の小説って私らガソミソのことをモデルに書いたんだろう?」

「うんまあ」

「もし賞金取ったら九割を私に寄越せよ?」

「ちょっとかわいげなさすぎない!? その割合」

「いいだろ。あとは一緒にフランスまでスイーツを食いに――」

「ちょっと愛ちゃん! 距離感近くない! 私の恋人に対して!」

「近くねえし、てめえの恋人でもねえよ!」

「そうですよ! 文星さまはこの私を犯すのですから」

「是。愁子殿がそういうのならばそうだ。そう以外のなにものでもない」

「グロテスクちゃんだっけ……? そのネックレスなんだ?」

「大腸ネックレス」

「やば」

「大丈夫。ホンモノじゃないから」

「いやあ。ありがとうのお。キミの曲のおかげでワシの店も大繁盛じゃよ。これからもよろしく頼む」

「見てこれ新作なの! H&K MP5! 原子力発電所の警備にも使われる優れものだよ!」

「もうあったまきた! イオ! ロシアンルーレットで勝負だ!」

「のぞむところだよ!」

 わけがわからないけどとにかくみんな楽しそうだ。

 たかが一次審査でこの騒ぎ――と思ったけど、みんなで遊ぶきっかけになったならよしとしよう。

「おいモンスター」

 すでに酔っ払ったらしいヘルが僕に後ろから抱き着き肩に嚙み付く。

「小説もいいがガソミソもおろそかにするんじゃねえぞ」

「しちゃいないよ! 今日だって新作を作ってきたんだ」

「おお! マジか!」

「披露してよぉ♪」

「超ききたい。腸ききたい」

「もちろんだ!」

 僕は懐からマイクを取り出した。

「いくぞクソ野郎ども! 曲目は――――――」


【呪・ワ・セ・ロ! ~みんな大好き! 愛してる!~】


 ありがとう

 みんながいてくれたから今の僕がある

 こんな僕だけど少しは成長できたんだ

 愛してるよ

 いくら感謝をしてもし足りない

 禁断のラムネっていうお菓子よりキミが好きだよ


 キミになにか恩返しがしたい

 でも貴様みたいな蛆虫には触れるのもイヤだから

 僕は丑の刻

 藁人形と五寸釘をもって神社にヒアウィーゴ―するのさ

 キミから引きちぎった髪の毛をポケットにいれてさ


 呪・ワ・セ・ロ! 貴様の顔に五寸釘

 呪・ワ・セ・ロ! 貴様のセリーをフォークで混ぜる

 呪・ワ・セ・ロ! 貴様の胴体象で踏む

 呪・ワ・セ・ロ! 貴様の手足に濃硫酸

 呪・ワ・セ・ロ! 貴様の局部にレミントン870

 呪・ワ・セ・ロ! 貴様貴様貴様貴様貴様貴様


 ヒカないでBabyこれはツンデレだから

 ってゆーか究極の愛だから




 オーディエンスからは大喝采が送られた。

 人生ってこんな感じでいいんだっけ? とたまに思う。

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ジゴク・ファイヤー・ガソミソガールズ しゃけ @syake663300

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