第30話 本番の朝
パパパパ!という銃声と頭上のシャンデリラが割れる音で目を覚ました。
「ごめんね♪ びっくりした?」
「なに。昨日股間に濃硫酸をたらされたのに比べればどうということはない」
朝のミーティングに遅刻することは決して許されない。それはドクター・ヘルの狂っていながらも異様なまでに真面目という本質を象徴している。
「じゃー下で待ってるねー。遅れたらニトログリセリンで爆殺だってー♪」
自室の全身鏡を用いてメイクを直すと一階の会議室に向かった。
会議室では朝食も御されるが、なぜかまったく食欲がわかず俺はふんぞり帰って椅子に座っているだけ。
「よし全員集まったな」
リーダーのよく通る声により今日も会議が始まる。
「今日はいよいよ本番だな」
もはや時間の感覚が完全に崩壊して忘れかけていたが、そういえばそうであった。
「いまさら貴様らに言うことなんかねえ。てめえらの腐った脳に溜まったゴミクズをブチまけろ! 私からは以上だ」
そうホザくとテーブルに足を乗せてふんぞりかえった。
「てめーらもなんかひとことずついえ」
そういって左となりにいるマシンガンを指さす。どうやら時計まわりに発言しろということらしい。俺はラストだ。
「はい! えっとね。私の役割は縁の下の力もちだと思ってます。みんながピンチになったりした場合は容赦なく敵を狙撃してサツガイ♪ したり場合によっては身代わりになって自害♪ したいと思います! だからみんな安心してね♪」
なるほどマシンガンらしい。ドクター・ヘルも深くうなづいた。
「次。グロテクス」
「……目標はおじいちゃんとおばあちゃんのお店の売り上げ月一憶。それ以外はどうでもいい。でも三人ともやさしいから好き」
これも彼女らしくある意味微笑ましい。ドクターヘルも笑っている。
「次。モンスターX]
俺はご丁寧に全員に対してしっかり中指を突き立ててから、
「おしゃべりクソ野郎ども安っぽいんだよ。俺はなにも言わねえ」
このようにおホザきお述べになられた。
「ククク。いいたいことは本番で叫ぶということだな。いいだろう!」
バカめ。勝手にいいようにとってくれた。俺は本当になにもいうことがなかっただけなのだ。だって。自分がなんのためにここにいるかわからなかったから。
朝八時にレコーディングスタジオを出た。
マシンガンとグロテクスはTHEヤクザというべき黒塗りのベンツで会場に向かう。
僕とドクターヘルはまたまたバイクで仲良くツーリングだ。
三回目ともなるともう怖いことなんぞない。風を浴びるのを楽しむ余裕さえあった。
ヘルはまったく後先考えずスピードメーターを限界まで左にぶっ倒しながら――
「おい! 左っかわ見てみろよ! 海のほう!」
風を切る音やバイクのエンジン音に負けないくらいの声でそう叫ぶ。
ヤツのいうとおり左側に視線をやると、
「キレイだろ!」
朝日が水平線から上がって波をキラキラと輝かせていた。
「こんなもんがさあ! だれでもキレイだと思えたらいいのにな!」
なんと答えればいいのだろう。なんと答えたいのだろう。
わからないので両腕に思いきり力をこめた。
「ははは! くすぐってえ! 甘ったれんなよ殺すぞ?」
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