第9話 ランチ

 昼休み。自作の弁当を持って教室を出て、馬込青春高校ご自慢の中庭テラステーブルに腰を下ろした。

 だいぶん日差しが強く暑い。けれど夏らしさを感じることができて悪くはない。

 そんなことを考えながら待っていると英二が学食のサンドイッチを持ってやってきた。

 やつは僕のとなりの席につくやいなや前振りもなんにもなしに本題を切り出して来る。

「で、どうなった?」

 私見だが彼の小説もそういったシンプルでわかりやすい良さに溢れている。

「歌詞は送ったの?」

「送っちゃった」

「マジか。見たい見たい」

 あまり気は進まなかったがここまで巻きこんでしまった以上見せないわけにもいかない。

「あんまり期待しないで欲しいんだけど……」

 やつは真剣な瞳で僕のスマートホンを見つめる。

「これ本当におまえが書いたの?」

「そうだけど……」

 まさかその真意を読み取られるとは思わないが、あまりの陰鬱かつ低劣な言葉にヒかれるのではないかと不安になった――が。

「俺は嫌いじゃない。むしろ好きだよ。なんとなくだけど」

 意外な反応であった。僕は腕を組んで首をかしげる。

「まあそれはともかく。昨日気になって稲村さんがやってるっていう『ジゴク・ファイヤー・ガソミソガールズ』というやつを検索してみたんだけどさ――」

「あー。そういえばネットで検索するという発想はなかったな」

「どうも結構人気あるらしいぜ。インターネットでいっぱい記事でてくるし、ほら見ろよこのYoutubeチャンネル」

 英二が画面に表示したチャンネル『ジゴク・ファイヤー・ガソミソガールズ』はチャンネル登録者一〇〇〇〇人超、動画の再生回数も軒並み五桁を超えていた。怖いモノみたさで動画をクリックしてみると、

「わっ!」

 すさまじい爆音が中庭に響いてしまった。じろっと睨まれてあわてて音量をさげるが、最小に調整してもなおうるさかったのでしかたなくミュートにする。

 動画はどうやらLIVE映像らしかった。場所はたぶんどこかのライブハウス。薄暗くて画質も荒くほとんどなにも見えないが、ドクター・ヘル以外に二人のメンバーがいることはかろうじてわかる。

 コメント欄を見ると、なにかしゃぶシャブ食べ過ぎたみたいな支離滅裂・意味不明な文章がたくさんで目眩がしたので、動画の再生をそっと停止した。

「で? 彼女はなんて? おまえの歌詞だか言牙だかに対して」

「返信はない。既読スルー。でもまたラブレターもらっちゃった」

 そういってポケットからレモンイエローの可愛らしい便箋を取り出す。

「なんて?」

「また放課後に理科室来いってさ」

「愛されてるなー」

 などとのんきに笑う。どうもやはり心配してくれていると同時に面白がっているという側面もあるようだ。

「そういえば。この件ってイオちゃんにはナイショなの?」

「うん。なんかああいうやかましいの嫌いみたいだから」。

「はは。生粋のドルオタだからな。とはいえ別に大丈夫だと思うけど。話としちゃあおもしろいし」

「うーん……いちおう黙っておくよ」

 最初、隠してしまった理由は彼女が好まなそうという理由だったが、今となってはあんな『コトバ』を書いたことを知られたくないというのが理由の大半を占める。

「でも稲村さん、ってゆうかドクター・ヘルと付き合うことになったらそのときはちゃんと言っておけよ」

「な、なにいってんだよ!」

「じょーーーだん」

 僕の肩に腕を回してガハハと笑う。

 通り過ぎる女子たちがその様子をなんか嬉しそうに見ていた。

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