♯16.6 村人Aと共に外出を(2日目)

燃え盛る炎の中に2つの影


禍々しい鎧を纏った中年の男・・・父上と、ドレスを着た・・・私だ


父上は怪我を負っており、満身創痍である


『すまぬ・・・娘よ・・・生きよ』


『父上嫌です!私は父上と!!』


ユサッユサッ


『姫様起きてください、朝です』


『んー、そうか』


夢だった様だ・・・内容はこちらへ来る前の出来事だろう


ブリュンヒルデはこちらへ来る前の記憶はしっかりとしているだろうか


『ブリュンヒルデよ、私はこちらへ来る前の記憶が転移の障害か曖昧だ


 先ほど夢で朧気に見たのだが・・・勇者が攻め入って来たと父上は言っていた様な気がするのだが・・・』


『問題ありません、火事の原因は王の寝たばこです


 勇者来訪ではございません』


『・・・そうか・・・それならば問題ないな』


ブリュンヒルデに記憶障害はないらしい


父上も無事な様だ


勇者襲来でなくて何より、ただ母上の怒り狂う姿が目に浮かぶ


父上・・・ご冥福を


部屋の外で気配がする


『サクラも起きている様だな


 我々も行こうか』


『かしこまりました』


ブリュンヒルデが私が寝ていたベッドの片づけをする


異世界である以上、姫とメイド長という立場は一旦解消したい所だ


正直、世話を焼かれるのは面倒だし


異世界をもっと堪能したい


勇者襲来という事でなければ、急いで帰る必要もないしの


ブリュンヒルデがベッドを片付けるのを確認し、寝室を出る


『厠へ行こう、こちらの世界では「といれ」と言うそうだ』


『「といれ」ですか』


私が得た情報は、共有しておく


ブリュンヒルデから別方向からの視点での発見もあるかもしれないからな


ベースとなる知識は共有しておく


しかし、まだ眠いな・・・結構寝たはずなのに


寝室を出るとサクラはやはり起床済みだった


「ソフィア、ブリュンヒルデ、おはよう」


サクラが朝のあいさつをして来たので返す


『「おはよう」とはこちらの世界の朝のあいさつらしいぞ』


ブリュンヒルデへ教える


『おはよう』


ブリュンヒルデもサクラへ丁寧にあいさつを返した


よろしい



「といれ」にはまず私から入らせてもらう


用を足すのは、もう問題ない


一連の流れはしっかりと掴んだ


綺麗好きの民のレベルで使いこなしていると言えよう


多少、位置調整が必要だが


この尻を洗う装置を発動させる箱には、いくつか起動させる為に押す所があるのだが、どうやらこちらの文字で用途が書かれているらしい


文字を理解出来る様になるまで迂闊に触らない方が良いだろう


どんな効果が付与されているか分からないからな


怪我をしては元も子もない


このワームが氷魔法でのたうち回っている様な文字・・・学ばねばなるまい


しっかりと手を洗い、といれを後にする




ブリュンヒルデは、といれは初めてだな


私の使ったといれを使うのは恐れ多いと?


『ここは、異世界じゃぞ?


 それにサクラの家にトイレはひとつしかないのだから気にするな』


ブリュンヒルデを説き伏せる


メイド長という立場、母上を崇拝しているだけに主従関係には厳しい


急に慣れろとは酷な話か


ゆっくりと慣らして行けば良かろう


『かしこまりました』


といれの使い方をブリュンヒルデへと教える


魔法は極力温存する様に、代わりに尻を洗う魔道具がある事を伝える


ただ、どの様に尻を洗う魔道具なのか詳細はあえて伝えない


反応が見たい・・・というより、私だけ尻を凌辱されるのは許されない


道連れというヤツだ・・・すまぬな


私の我儘だ



!!??


『ひぁっ!!』


ふはははははははは


恥辱にまみれるが良い


『くくく・・・どうじゃ、ブリュンヒルデよ


 驚いたであろう?』


『っ失礼しました・・・これであれば魔法は不要な様です』


元いた世界では魔法で済む話なので、この魔道具は不要と言えば不要だが


魔法の不得手な種族であれば需要があるかもしれぬな


といれから出て来た、ブリュンヒルデはサクラと目が合ったらしく


『先ほどの声は忘れなさい!良いですね!』


『通じぬと言っておろうに・・・くはははは』


ブリュンヒルデもサクラにはどう接して良いのか、まだ掴みかねている様だの


「×××、×××」


謝罪しているサクラに許さないといった様子だったが、飲み物で機嫌が直った様だ


意外な一面を見た


私の隣に座るブリュンヒルデを見て声をかける


『何度も言うが、ここは異世界じゃ


 そなたはは私を妹と思って接するが良い』


実際、姉の様に感じているし、無礼を働いたとして罰しようなどと思った事なないのだがな


『はっ


 かしこまりました』


ブリュンヒルデが隣に座ったので「おれんじじゅーす」という飲み物の名と、音を出さずに飲むコツを伝授した


最初に教えておけと言わんばかりの顔で見ているが仕方がない


わざとだからな



姿勢を正し、おれんじじゅーすを飲む姿はいつものメイド長のそれだ


仕事が体に染みついておるのだろうな


それでこそメイド長という所ではあるが


せっかくの異世界、休暇と思ってのんびりさせてやりたい




「ソフィア、こんびに××××××」


こんびにに買い物に行くという事だろうか


外出は・・・「でかける」だったか


サクラに「でかける?」と問うとサクラは少し驚いた様だが、頷いて答える


ふふふ、私の頭脳に驚いておるようじゃの


『姫様、今サクラはなんと?』


『「こんびに」という所に買い物へ行く様だ


「でかける」は外出という意味らしいな


 こんびにとは・・・』


なんと説明すれば良いか、あんなに多種多様な商品を揃えた店となると元の世界では形容し難い・・・うむ


『店だ!』


間違ってはおらぬ、見た方が早かろう


外出の機会はありがたいな、まだまだ色々教えて貰わねば


急いで寝室へ、昨日借りた帽子を取りに行く・・・あった


耳を収納し、サクラのもとへ


準備は良いぞ!サクラよ!


サクラも寝室へ行き、帽子を持って来た


そして持って来た帽子をブリュンヒルデに被せた


そうか、耳を隠さねばならぬからな・・・説明しておこう


しかし、驚き過ぎではないか?


『ブリュンヒルデよ、こちらの世界・・・というかこの国は人間族の国らしくてな


 耳を隠さねば目立ってしまう様なのだ』


耳をサクラが帽子に収納する


私の帽子とは形状の異なる帽子だ


ツバが前方にのみあり、大きい


視界を遮ってしまうのではなかろうか



サクラが顔を覗き込んだ事により、ブリュンヒルデが赤面する


ここからでも分かる程に


お、戻った


こんなブリュンヒルデは今まで見た事がない


職務から離れた事により、一人の女としての自分を持て余している・・・そんな感じだろうか


これは本当にサクラとくっつけてしまうのも良いかもしれぬ


異世界人と子が作れるのか良いサンプル・・・いや、妹として応援しようではないか



それはさておき、買い物へ行こう


一足先に昨日履いた靴をそのまま履き、外へと出る


サクラとブリュンヒルデが入口へと向かって来る


サクラが立ち止まると振り返り、ブリュンヒルデに話しかけながら跪いた


ブリュンヒルデの履いているズボンの丈の調整らしい


そのまま靴も履かせてくれる様だ


しかし、肝心のブリュンヒルデが顔を真っ赤にしている


『何を照れておる、ブリュンヒルデよ、耳まで真っ赤だぞ』


『ばばばばばばば、バカなことを!そんな事あり得ません!』


今の姿、母上やワルキューレ達へ見せてやりたいものだ


また変わった作りの靴の様だ


止め、外しが簡単かつ、固定する力も兼ね備えている


あれも魔道具の類だろうか?


返って来たら良く調べさせてもらおう


ブリュンヒルデも気になるらしく、止め外しを繰り返し構造を理解している様だ


後程あやつの見解を聞いてみるとしよう



3人でこんびにへと向かう


道中ブリュンヒルデと語り合う


『姫様はすでに外出された事があるのですか?』


『昨日、外出したぞ


 店と食堂に連れて行ってもらったな』


『・・・昨日?』


『昨日じゃな』


『私がこちらへ【異界の門】を使ってこちらへ飛んだのは、姫様がこちらへ飛んでおよそ1時間程後の事です』


『ほぅ・・・時間のズレが発生する様だな


 単純計算だとこちらの1日がむこうの世界で1時間という事になるが


 一定とは限らないからな』


『そうですね・・・』


時間の流れがこちらの世界とあちらの世界で異なるのか


いや、単純に時間の流れが事なるのであれば、こちらの1日が私の体感時間で一時間程度となるはずだ


昨日1日過ごしてみて、1日の時間は元の世界とあまり変わらない様に思う


仮説としては2本の時間軸がを線で例えると平行ではなく、×(クロス)しているという事ではなかろうか・・・


今の状況を単純に考えるのであれば、元の世界での1時間がこちらでの1日という事になるだろう


サンプルが現状2件のみではなんとも言えぬな・・・


一旦保留としよう




『それと、ブリュンヒルデよ


 冗談で言ったんじゃが、サクラを意識し過ぎではないか?』


『意識などしておりません、姫様が変な事を言うから』


ふむ、自覚していないと見える、はたまたそれを分かった上で見て見ぬふりか・・・


ここはもっと直接的に


『処女のサキュバスなど笑えんぞ』


『ななななな!何故それを!?』


こうかはバツグンだ!


ブリュンヒルデはサキュバスの系譜に連なる者だ


270歳程だったか、男性経験はないらしい


母上が育てた様なものだと言っておったしな


サキュバスの血は4分の1で能力は発現していないらしい


普段の行動を見ていると、どちらかと言うとサキュバスというよりバーサーカーと言ったイメージだがの


『姫様、この事はくれぐれも内密に』


『誰にどうこう言うつもりはないが、母上も心配しておったぞ』


『お、お、王妃様が!?』


実際、母上も本当に心配していた


母上が知っていた事がショックだったらしく、気落ちしてしまった


こちらで伴侶を見つけて、凱旋するのも面白いかもしれぬ


母上も喜ぶだろう



歩いていると赤い大きな箱を見つけた


気になる


ガラス張りの箱の中に飲み物が並んでいる


『サクラ?これはなんだ?』


サクラに声をかけてみる


ブリュンヒルデが警戒する


『姫様、危険です


 ミミックでは?』


『いや、魔力は感じぬし、この中の物は飲み物だ』


『飲み物・・・?』


サクラはこちらを見ると箱に硬貨を投入した


硬貨を投入する事で、飲み物下部の黒い突起部分が赤く点灯する


『この光った部分を押せば良いのか?』


硬貨の投入と飲み物の陳列、導き出される答えは・・・飲み物を購入する為の魔道具!


サクラは頷く


やはりな


しかし、これでは昨日のこんびにと同じ状態!


選択肢があり過ぎる


どれにしよう・・・


昨日は安全に中身の見えている商品を選んだ・・・


しかし今回は3人もいる


口に合わなければブリュンヒルデが買った物と交換してもらえば良い


中身の見えぬ・・・これだ!!


赤い入れ物の飲み物に決めた


ガシャン!


!?


何の音だ!?トラップだったか!?


サクラが箱の下部へ手を突っ込むと、中から先ほど姫様が選んだ飲み物を取り出した


『おぉぉぉ』


購入するとそこから出てくる訳か


どういった仕組みなのか気になる


サクラから飲み物を受け取り感謝を告げる「ありがとう」


『姫様、この様な魔道具道端に置いていては、盗賊共の恰好の的では?』


『そうだな、恐らくトラップが仕掛けてあるのであろう


 この魔道具を動かそうとすると爆発する・・・といったな』


『さすがですね・・・』


防犯上それくらいのトラップはあってもおかしくはない


でなければあっという間に破壊、略奪されてしまうだろう


見張りもいない様だしな



サクラは再び箱に硬貨を入れ、今度はブリュンヒルデに飲み物を選択する様に促す


「だいじょうぶ××、××××××」


ブリュンヒルデは自分も購入してもらえるとは思っていなかったらしい


私が王女という事を知らない訳だからサクラから見たら私とお前は平等なのだぞ


『「だいじょうぶ」とは問題ないという意味だ、貰っておけ』


『かしこまりました』


飲み物を受け取りブリュンヒルデはサクラに感謝を伝える


『ありがとう、サクラ』


ブリュンヒルデが選んだのは昨日サクラに購入してもらったタイプの飲み物だ


開け方を教えてやろうではないか


『この筒はこうやって、上部を捻って開けるのだ


 さらに逆に回す事で閉める事も出来て、保存も出来るという代物だぞ』


やはり蓋の仕組みに感心している様だ


分かるぞ


ブリュンヒルデの選んだ飲み物は泥水の様な色をしている


見た目は不味そうだが、私は知っている


きっと美味しいと


ブリュンヒルデは匂いを確認し、問題ない事を確認し口に含む


『美味しい!この気品漂う風味はなんでしょう


 お茶の様ですが甘いです』


やはり美味しいらしい


『ぐぬぬっ』


私の方の飲み物は形状が異なっておりどうやって開けるのか分からない


見かねたサクラが開け方を教えてくれた


なるほどこのツメを使うのだな、テコの様に・・・


プシッ!


良し!しゅわしゅわの飲み物だ!


・・・しかし


『見よ、ブリュンヒルデ


 黒い液体だ』


黒い液体とは・・・しゅわしゅわの飲み物とは言え、口に含むのに躊躇するな


一口に含んでみる


甘い!


やはり美味しい!


ゴッゴッゴッゴッゴッゴッ!


いかんつい、一気に飲んでしまった


『これも美味しいぞ!ブリュンゲフゥ』


失礼


『人の名前を変な風に呼ばないでください


 はしたないですよ、姫様』


『気にするな!ここは異世界だ!』


『姫様、それに慣れてしまうと帰った時に大変ですよ』


こちらにいる間に緩めてしまうと、元の世界に戻った時に大変です


確かに、こんな姿を母上に見られたと思うとゾッとする


この飲み物は名前は「こーら」と言うらしい


しゅわしゅわの飲み物にハズレなし!

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