♯15.6 村人Aにメイド長を

かれー、美味かった


サクラが片づけをしているのを手伝おう・・・とはした


したが睡魔には勝てぬ+


サクラが私を抱きかかえるのが分かった



このまま寝たふりをして惰眠をむさぼろう


この恩は返す・・・かなら・・・ず


ベッドに寝かされそのまま眠りに落ちた




『・・・様!』


遠くから聞きなれた声が聞こえる


『姫様』


ズビシッ!



額に衝撃が・・・


『ん、ん~、なんじゃ・・・』


『姫様!』


『なんじゃ、まだ腹は減っておらぬぞ、サクラ』


 気持ち良く寝ておるのにうるさいのぉ


バシッ!


いたたっ!頬が・・・


バシッ!バシッ!


!?


バシッ!バシッ!バシッ!


『痛いわー!たわけっ!!』


目覚めると目の前には見慣れた顔がある


母上の直轄部隊ワルキューレ部隊長兼メイド長、ブリュンヒルデだ


幼い頃から私の世話係として、姉の様に思っておる


メイド長と言う事で、真面目で融通が利かない所が難点だ


ちっ


『舌打ちが聞こえたぞ、ブリュンヒルデよ』


『姫様、ご無事で何よりです


一刻も早く元の世界へ戻りましょう 』


白々しい奴め、舌打ちは華麗にスルーか


私を迎えに来たのだろうな


『私は、もう少しこの世界にいる事にした


 そなた一人で帰るが良い』


そう言ってシーツを頭から被る


せっかくの異世界生活一日だけなどもったいない


何より帰還方法も不明だ


『お待ちなさい』


ブリュンヒルデはシーツを私から剥ぎ取る


『ダメですよ、姫様、わがままを申されては』


『わがままではない!私のオリハルコンの意思だ!』


言ってやったぞ!


鋼より硬い私の意思を!


会心の比喩だ!




逆効果だった様だ


ブリュンヒルデは鬼の形相でこちらを見ている





扉の向こうで物音がした


扉の隙間?から光が漏れる


サクラを起こしてしまったか


「×××××××?」


サクラが扉を開けると同時にブリュンヒルデが殺気を纏った手刀で首を狙う


いかん!


私が割って入り、ブリュンヒルデの手刀を止める


『姫様、何を!?』


『待て!こやつに手を出してはならぬ!』


何者か確認もせずに、殺しに来るとは・・・優秀ではあるが判断が早すぎる


ある意味正しい判断ではあるが、色々と可能性を摘む判断でもある


『私の世話をしてもらっておる、こちらの世界の人間じゃ


 無礼はゆるさぬ!』


『この様な村人風情が姫様の世話を!?』


『お主なぞより、よっぽど私を大切にしてくれるぞ!』


間違った事は言っていない、まだ出会ったばかりで客人扱いじゃからの


『なななななななっ!』


動揺しておるな


先程よりも大きな殺気と魔力の収束


『待てと言うに!』


封魔拘束の術式にてブリュンヒルデを拘束する


私のオリジナルの術式だ


この世界で魔力を消費するのは避けたかったが、サクラの命の危機とあっては使わざるを得まい


「ソフィア?だいじょうぶ?」


サクラよ、自分の心配より私の心配か


「サクラ、だいじょうぶ」


問題ないとサクラに伝える


『姫様の名を!村人ごときが!』


ここは異世界、我らのルールなど通用せぬぞ、サクラに私が王女だと伝える術もないからの


パチッ


サクラが壁を触ると、寝室が急に明るくなった


閃光魔法か!


『くっ!何をした!』


ブリュンヒルデよ、油断したな・・・しかし


「うぅあぁぁぁぁぁぁぁ」


やめよ、サクラよ


それは私にも効く




光に目も慣れて来た


ブリュンヒルデよ、そなたも全裸であったか


やはり衣服は世界を超えられぬか


『さて、ブリュンヒルデよ


 あの男に手を出さぬと約束出来るな?』


『何故です?』


『第一に、あれは私の恩人である


 第二に、この世界は言語が異なる為、現状意思の疎通もままならぬ


 この者の世話になるのが最善である


 第三に、この世界の魔力の薄さには気付いておろう?


 この世界は独自の発展を遂げておる

 

 そもそも魔法という概念すらないという可能性もあると考えておる


 異界の門の代替品が存在しない可能性があるという事だ』


順を追って説明する


言語化する事で私自身も改めて状況を整理した


『それでは・・・』


『元の世界には戻れぬかもしれぬという事だ』


『・・・なるほど』


冷静に現状を私の言葉から把握しようとしている様だ


頭の回転は速いからな、優先順位は自分の中で再定義出来よう


『あきらめた訳ではないぞ


 帰還方法が分かるまで、この者に世話になろうという事だ』


私とブリュンヒルデの話を聞いていたサクラが席を外す


『現状は理解したな?あの男の世話になる事に異論は?』


『・・・ありません』


ブリュンヒルデも思考がまとまったらしい、封魔拘束の術式を解く


胴に巻き付いていた鎖が光となって消える


『サクラは寛容な男だ、特に気にはすまい』


『・・・だと、良いのですが』


早まった事をしたと、反省はしている様だ


サクラが飲み物を持って戻って来た


寝起きで喉も乾いておったぞ


気が利くではないか!


サクラが持って来た飲み物に飛びつく


これは昼間の飲み物だな!


良く冷えておる


ぐびっぐびっ


飲み物を飲んでいるとサクラの視線に気付く


サクラはブリュンヒルデとこちらをちらちらと見ている


そうであった、紹介せねばな


ブリュンヒルデを指差しサクラに名を教える


何やら楽しそうだ


もしやサクラ、ブリュンヒルデが気に入ったか?


何を鼻の下を伸ばしておる


ブリュンヒルデは裸だったな


「サクラ!」


サクラに声をかけ、服を所望する


気付いてくれた様だ


サクラは部屋の中からいくつか着る物を見繕って私に渡した


『ブリュンヒルデよ、サクラが衣服を用意してくれた


 これを着るが良い』


『かしこまりました、姫様の今着ている服も?』


『サクラが用意してくれた物だ!


 なかなか良かろう?着心地も良いぞ


 私が教授してやろう』


サクラはいつの間にか部屋から退出していた


肌着の履き方から、上着の着方を説明する


肌着を履いたブリュンヒルデが感想を述べる


『伸縮性もあり、肌触りも良いですね・・・素材はなんでしょうか?』


『私たちの世界では存在していなかった素材よの』


ブリュンヒルデも異世界の物に興味深々だ


そうであろう、そうであろう


気持ちはよくわかるぞ


次にズボンだ


便利結びをして驚かせてやろう


驚愕せよ、ブリュンヒルデよ


む・・・このズボン、紐がないタイプの様だ・・・


それでは上着だ


頭と腕をここに通すのだ、そうそう・・・胸が邪魔だな


『身体にフィットするタイプの衣服ですね』


私はすっぽり入ったのだが・・・


まぁ、それは良い



羽織るタイプの衣服に袖を通す


『ブリュンヒルデよ、紐を結んでやろう』


『紐ですか?』


ほれ、ほれ、はよぅ紐をよこさんか


『ありませんが?』


『何ぃぃぃ?』


ブリュンヒルデに用意された物には紐は付いていなかった


正面がぱっくり割れているので、ただ羽織るだけの物の様だ



しかし正面に付いている装飾は明らかに怪しい・・・動くし


これをどうにかして閉めるのだろうが・・・


色々試してはみるが・・・えぇい!閉め方が分からぬ!


『姫様、あの者に聞いてはいかがですか?』


そうする!


「サクラ!」


サクラに声を掛ける


サクラが部屋に入ると、閉め方が分からない旨を身振り手振りで教える


サクラはブリュンヒルデの前に跪き、衣服の正面下部を手にして、中央に取り付けられている装飾をかみ合わせ、引き上げた


!?


どういう仕組みかさっぱり分からんが、そうする事により服が閉じた


形状を見ても理解出来ない


一体どうなっているのだろうか


後日調べるとしよう




ブリュンヒルデが赤面している


普段、自分が着せる側だからな、逆に着せてもらうとなると気恥ずかしいのだろう


ブリュンヒルデはメイド長という立場もあり、身分が上の男性意外と付き合うという機会がなかったらしい


男性に対する耐性があまりないというのもあるだろう


『何を恥ずかしがっておる』


『は、恥ずかしがってなど・・・』


『これから面倒を見てもらうのだぞ、慣れておけ』


『自分の面倒は自分で見れます!』


ブリュンヒルデをからかうのは楽しい、煽り耐性0だからの


『サクラという名だ、覚えておけよ、お主の夫になるやもしれぬ』


冗談交じりに言う


『ななな、何をバカな事を!』


冗談じゃぞ




サクラがブリュンヒルデに飲み物を渡しながら声かける


「よろしく、ブリュンヒルデ」


『衣服の件は感謝いたしますが勘違いなどしませぬよう、サクラ』


ブリュンヒルデは飲み物を受け取りながらサクラに告げる


言葉は通じぬと言ったであろうに


飲み物はおれんじじゅーすの様だ


『ブリュンヒルデよ、受け取った飲み物はすぐに飲み干すのがこちらの流儀らしい』


『かしこまりました』


バカめ


キューー!


『これは!?』


『しゅわしゅわで美味しかろう?』


『初めての感覚ですね・・・これは美味し・・・うっ』


ブリュンヒルデが胸を押さえ苦しそうにする


そうであろう、そうであろう


『ヴァぁぁぁぁ』


くぅ、思ったよりも小規模だったな


あの恥辱を味合わせたかったのだが・・・


しかし、効果はバツグンだ


ブリュンヒルデは恥ずかしそうにサクラを見ている


サクラは気まずそうに苦笑いで応える


『実に重々しい獣の咆哮の様であったぞ』


『姫様・・・わざとですね!?』


『少しくらい、緩い所を見られた方が距離も近くなろう』


『距離を近くする必要がないのですが!』


ブリュンヒルデをからかうのも飽きた


眠いのでベッドに入りシーツを被る


『今日はもう寝るとしよう、明日からこの世界の情報収集を行う』


『かしこまりました』


明日の予定を伝え、寝る事にする


正直2人になったのは心強い


ブリュンヒルデの寝床はサクラが用意してくれるであろう


明日からの事を考えると胸が弾む


期待に胸を膨らませ眠りに付いた

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