♯15 村人Aごときが姫様を

燃え盛る炎の中に2つの影


禍々しい鎧を纏った中年の男と、メイド服を着た20代のボブカットの黒髪の女性だ


男の方は怪我を負っており、満身創痍である


『姫は・・・【異界の門】にて逃がした・・・勇者はどうした?』


『王よ、此度の火元は王の部屋・・・おそらく王の寝たばこが原因かと思われます』


『なん・・・だと!?』


『今しばらくすれば、鎮火しましょう


 姫は何処とおっしゃられましたか?』


『魔族の秘宝である【異界の門】にて異世界へと・・・』


『王よ・・・』


女性は溜息を付き、手を叩いた


メイド服の女性達が彼女の前に数人集合する


『私が姫を迎えに上がります


 あなた達は、城の消化を頼みます


 ゲルヒルデ』


集まったメイドの中の一人が一歩前へ出る


『はっ』


髪を結った赤髪の女性だ


『王妃様にご連絡を』


『分かりました』


ゲルヒルデと呼ばれた女性は闇の中へと消えて行った


王は焦った様子でまとめ役の黒髪の女性に声を掛ける


『待て!ブリュンヒルデよ』


『王よ、【異界の門】をお開きください


 私が姫を連れ戻します


 王妃様が戻るまでに姫が戻れば、怒りも多少緩和されるでしょう』


『う・・・うむ、そうだな・・・頼むぞ』


ブリュンヒルデと呼ばれた女性は呆れ顔で


『まったく世話の焼ける・・・』


それは王へ向けられたものなのか、異界の門で異世界へと飛ばされた姫に対するものなのか


王が【異界の門】を開くとブリュンヒルデと呼ばれた女性は光の中へと足を踏み入れた







ブリュンヒルデは光に包まれ、視界が晴れると見知らぬ小屋の中にいた





『ここは・・・異世界なのでしょうか?』


ブリュンヒルデは暗闇の中に放り出された




ゲートを通過中は光の奔流の中にいたのですぐには目が慣れません


自分が全裸だという事に気付きました


どうやら衣服は異界の門を超えられなかった様です


異界の門を超える際に魔力と体力を随分と消耗した様で身体に疲れを感じます


光の魔法で周囲を照らそうとしますが魔法が発動しませんでした


おかしいですね、世界に漂う魔力を感じません


この世界はどうやら、魔力がかなり希薄なようです


干渉魔法は使えないと思った方が良いでしょう


内魔法により、指先から光の玉を出現させる


見慣れぬ家具、用途の知れぬ道具・・・本当に異世界の様です


目の前にあるのは・・・ベッドでしょうか


!!


誰かいます!?


ブリュンヒルデは戦闘になるかもしれないとは身構えた


ベッドからは、寝息が聞こえるのでおそらく寝ているのではないでしょうか


光魔法で寝ている者を照らしてみます


『姫様!』


思っていたよりもかなり早く見つかりました


良かった


異世界という事でしばらく探す羽目になるのだろうと覚悟していましたが僥倖です


しかしこの部屋の狭さ、もしや牢屋では?


異世界人という事で監禁されてしまったのかもしれません


ざまぁ・・・いえ、おいたわしや


であれば、一刻も早く脱出せねばなりませんね


姫様を起こそうと肩を掴み大きく揺らしますが微動だにせず、アホ面で寝ています


こんのバカ王女!


失礼しました


取り乱しました


この姫様、何を隠そう頭は良いがバカなのです


その頭脳を使うベクトルが人の斜め下を行くのです


そこは残念ながら王に似たのだろうと思います




王妃様は容姿端麗、才色兼備、実質魔族国家パッヘルベルを取りまとめておられるお方なのです


そんな王妃様に仕えるのが私の誉です


ワルキューレと呼ばれる王妃様直属の部隊長にまで上り詰めました


愛ゆえに


王妃様の為に働けるはずが、王と姫様の尻拭いをする日々


ついには異世界にまで来る羽目になってしまいました


『姫様』


ズビシッ!


腹立たしいのでアホ面で寝ている姫様の額をドツきます


日頃のうら・・・いえ、これくらいは許されるでしょう


『ん、ん~、なんじゃ・・・』


『姫様!』


『なんじゃ、まだ腹は減っておらぬぞ、サクラ』


姫様はまだ寝ぼけている様ですね


いつも通り寝起きはポンコツです


「サクラ」とはなんでしょう?


後回しにしましょう、とっとと叩き起こして脱出せねばなりません


胸ぐらを掴み、やむを得ず頬を掌で叩きます


バシッ!


これは、やむを得ずです


バシッ!バシッ!


決してここぞとばかりに叩いている訳ではないですよ


・・・出来ればもう少し起きないでいただけると


バシッ!バシッ!バシッ!


『痛いわー!たわけっ!!』


姫様は目覚めてしま・・・いや、目覚めてくれました


願っていたより随分早く起きましたね


ちっ


『舌打ちが聞こえたぞ、ブリュンヒルデよ』


『姫様、ご無事で何よりです


 一刻も早く元の世界へ戻りましょう』


華麗にスルーいたします


『私は、もう少しこの世界にいる事にした


 そなた一人で帰るが良い』


そう言って姫様はシーツを再び被ってしまいました


『お待ちなさい』


シーツをすぐに引っぺがします


『ダメですよ、姫様、わがままを申されては』


『わがままではない!私のオリハルコンの意思だ!』


鋼の意思と言いたいのでしょう


実に腹の立つ言い回しです


この姫様、私の嫌がる事を率先してやる節があります


力ずくでも・・・


扉の向こうで物音がしました


扉の隙間?から光が漏れます


「×××××××?」


誰かいる様です


看守でしょうか?もし見られる様であれば迅速に処理します


扉が開いたので、首を飛ばすつもりで手を薙ぎ払います・・・が


姫様に止められてしまいました


立っているのは男の様です


『姫様、何を!?』


『待て!こやつに手を出してはならぬ!』


男は・・・呆けている様ですね


私の手刀にも反応出来ていませんでしたし、大した事はなさそうです


この世界の一般人、村人レベルでしょうか


『私の世話をしてもらっておる こちらの世界の人間じゃ


 無礼はゆるさぬ!』


『この様な村人風情が姫様の世話を!?』


『お主なぞより、よっぽど私を大切にしてくれるぞ!』


『なななななななっ!』


聞き捨てなりませんね


姫様が生まれてからというもの、姫様の成長を見守って来た私を差しおいて


姫様にこれ程取り入るとは・・・


許せません


やはり殺しましょう


『待てと言うに!』


姫様に緊縛魔法で抑えられてしまいました


「ソフィア?×××××」


「サクラ、だいじょうぶ」


無礼な!姫様を名で呼ぶだと!?


村人ごときが姫様を!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る