♯14 村人Aと共にかれーを


サクラは私の髪を乾かし終わると、櫛を持って来て髪をとかしてくれた


実に快適であったぞサクラよ


サクラに「ありがとう」と告げると、調理へと戻って行った


調理が気になるので付いて行く



サクラは鍋に火を入れる


着火はその丸い取っ手を回すだけで良いのか


鍋の中を見てみると先ほど洗ったであろう野菜が切って詰め込まれ、湯に浸してある


スープの類だろうか


サクラは鍋が煮立つと、先ほど購入した箱から茶色の固形物を割って鍋の中に入れた


茶色の固形物が溶け、スープの色が茶色に変化しトロみを帯びる


食欲をそそる良い匂いがしてきた


見た目はあれだが、香りがもう美味しそうだ


サクラは小皿にスープを取り、私に渡した


味見をせよと?


よかろう


冷ましてからだな?


分かっておる


たこやきの二の舞にはならぬ


ん~~~~!!


ピリッとした辛さの中に様々な味が混ざり合っている


形容し難い、というより表現する言葉を知らぬ実に複雑な味だ


美味しいぞ!サクラよ!


サクラは私の反応を見ると鍋に蓋をして火を弱めた


煮込むのだな・・・しばらくお預けらしい


この料理、時間がかかる様だ


残念ではあるが先ほどたこやきを食べたばかりだからな



異世界で目覚めて1日経っておらぬが、かなり好待遇を受けているのは感じる


衣類、食事も無償で提供してくれておる


サクラよ、もっと警戒しても良いのではないか?


お人好し過ぎはせぬか?


この恩は必ず返そう




先ほどサクラが髪を乾かす時に座っていた椅子に座って寝転がった


ほど良い弾力、これは皮だろうか?


寝転がったのを見るや、サクラは柔らかい塊を持って来てくれた


枕だろうか?


気が利くではないか・・・


枕に頭を埋める・・・程よく頭が枕に沈む


フカフカで、どこまでも堕ちてゆく感じ・・・たまらん


くぅぅぅぅぅ


なんたる


なんたる怠惰


もう元の世界に帰還しなくても良いのではなかろうか?


王女の責から解放され、一人の女としてこの世界で生きるのも良いのでは?


むしろその方が幸せでは?


・・・・・・・


はっ!


いかん!


怠惰に飲み込まれる所であった


いずれは帰還せねば・・・いずれ・・・な



サクラは作業をしていた机に向かっていた


今朝の作業の続きをするのだろう


邪魔をしては悪いので私はたぶれっとでこの世界を勉強の続きをしよう



どこを触れば映像が流れるのか、押す映像を間違えた場合に元に戻す方法等、たぶれっとの使い方もある程度理解してきた


どの記録映像を観ようか迷っていると、指が予定外の所に触れてしまった


一人の美しい女性が白い空間に佇んでいて、女性の目の前には棒がある


何に使うのだろうか?


気になったのでそのまま観ることにする


女性がこちらの世界の言葉で何か囁くとその後



寝転がっていたが、思わず起き上がる


それは、「歌」だった


鳥肌が立つ程、美しい声だった


楽器はひとつだけの様な気がする


とても美しい音色が彼女の声に重なる


歌の内容は理解出来ないが、この女性が感情を込めて歌っているのは伝わってくる


ただその歌に聞き入っていた


魂が震えると言えばいいのか・・・初めて感じる


そう、これは感動だ・・・


震える声に心が揺さぶられる


自然と涙が溢れてくる


理由は分からない


よもや歌で、この様に感情を揺さぶられ感動する事があろうとは


しばらく呆けていると、サクラが布を持って来た


き、気が利くではないか


涙を拭う


ふーっ


落ち着いた・・・





たぶれっとに目を落とすと似た様な絵がいくつかある


次はこれにしてみよう


青い髪の女性の絵に触れる


これも先ほどと同様女性が囁いて歌が始まる






想像だにしない声で意表を突かれる


この歌も先ほど同様鳥肌が立つ


人間とはこんな声が出せるものなのか


こちらの世界の歌い手のなんとレベルの高い事か


元居た世界の歌とは比較にならない


なんと素晴らしい文化であろうか


我が国の民にも是非とも聞かせたいものだ


流れ出る涙を布でふき取る



なんとも言えぬ想いが感情を支配する


元の世界では感じ得なかった、体験したことのない感動だ



「ららら~ら~ららら、らら~ら~ら~ららら」



思わず先ほどの旋律を口ずさむ


もう一度聞きたい


サクラにたぶれっとを持って行く


わたしが再度旋律を口ずさむとサクラが先ほどの記録映像を表示してくれた


「ありがとう」とサクラに伝え、再び椅子に座る


もう一度聞く・・・やはり良い


歌が終わると、再び同じ記録映像が流れた


サクラがそうなる様に操作してくれたのだろう


気が利くではないか!


目を閉じ、椅子に寝転がりながら、飽きる事なく食事の時間まで歌を聞き続けた




食事の時間になったらしく、サクラが呼びに来た


気付けば外は暗い


夜になった様だ



時間を忘れる程、歌に聞き入っていた


この歌はなんという歌なのだろう


覚えておきたい


サクラにたぶれっとを指差し、歌を歌ってみせる


サクラが「あにむす」と教えてくれた


それが「歌」自体の事を指すのか、この「歌の名前」を差すのか、「歌っている女性」を差すのかは分からないが今後「あにむす」とサクラに伝えれば聞かせてくれるだろう


歌の余韻に浸りつつ、サクラの元へ向かう



椅子を引いて、待っていてくれた


目の前には先ほどの煮詰めていた茶色のスープ


箱の絵では分からなかったが、これは小麦か?


白い粒は豆ではなく麦の様に見える


その麦らしき物にスープをかけた料理の様だ


「かれー」というらしい


スプーンでいただく、飲み物は氷が入った水の様だ・・・


おれんじじゅーすではないのか


贅沢は言うまい


いただこうではないか!



サクラが手を合わせて「いただきます」と呟いた


そうであった


食前の祈りであったか、昼間「たこやき」を食べる時に言うのを忘れていたな


「いただきます」とサクラと同じように手を合わせてから、かれーのスープを口に運ぶ


先程食べた通り複雑な味だが美味しい


結構辛いな・・・


用意された氷の入った水を飲む


野菜や肉も火がしっかりと通っていて柔らかく、スープに良く合う


サクラの方を見ると、麦とかれーを一緒に口に運んでいた


一緒に食べるのか


サクラを真似てスプーンで麦とかれーを一緒に口に運ぶ




!!



一緒に食べる事により、かれーの辛味が程よく中和される


この組み合わせも神掛かっているな


麦と思われた、この白い物は麦とは食感と味が微妙に異なる


麦の亜種なのだろう


麦亜種だけを食べてみたがほんのり甘味があり、粘り気がある


サクラに尋ねると「こめ」という名だと教えてくれた


こめとかれー


これもまた組み合わせる事によってお互いを引き立てている


この世界の食文化には脱帽だ


あっという間に目の前の皿が空になってしまった・・・


くぅぅぅぅ


もう無くなってしまった


サクラが皿を指差して問いかけて来た


「かれー たべる?」


まだ食べさせてくれるのだろうか


そうであれば是非お願いしたい


「かれー たべる」


「たべる」の言葉の意味は分からないがおかわりの事だろう予想しサクラに答えた


サクラは微笑むと、私の皿を手に取りこめとかれーをよそってくれた


こっぷに水も注いでくれる


サクラもおかわりするらしい


美味しいものな!分かるぞ!サクラよ!


かれーとこめを全て食べ終える


・・・


食べ過ぎた


これでは朝食と同じだ


食事が美味しすぎる故、つい食べ過ぎてしまう


ここでは口うるさいメイド長もおらぬし、仕事に追われる事もない、王女の責もない・・・


なんと良い世界だろう・・・


サクラが食器を片付け洗い始める


いかん・・・満腹で・・・眠気が・・・


またしても・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る