第6話 しつこいVSしぶとい

「えっ。本当に翔なの?」

「ひさしぶり。っていっても俺からしたら朝ぶりなんだよな」

 翔は自分の家に入った。死んだはずの翔が一年という期限付きだが蘇ったことに驚いた翔と奈々の母親。

「奈々なら部屋よ。状況は聞いてるんでしょうけどね」

「あまり歓迎されてないのかな」

 思ったより驚きのインパクトがなく少し困惑した。理想は気絶するくらい喜ぶことだったが、翔の周りの人は反応が薄いようだ。

「何言ってんの。あんたがここにいる時点で信じられない。けどあなたが蘇らないとあの子を救う人はいないと思ってた。だから今は奈々を救ってほしい。記憶がなくてもあんたが兄なんだから」

 奈々は昔から親よりも翔を頼ってきた。それはもう最高のパートナーといってもいいくらいに。だから今回も救うのは翔なんだろうと予想はついていたらしい。

「さすが俺の親だ。もう全て調べは済ませたわけか。記憶がない俺を奈々ってやつが受け入れてくれるかはわからないけどね」

「こいつ来たことだし二人にはしっかり話そうかな。翔が奈々を部屋から出すまであの子の呪いそして翔が来た理由を教えてあげる」

 六花と大翔は大親に連れられてリビングに向かった。翔は階段を上り二階にある奈々の部屋の前に来た。

「奈々起きてるか?」

 扉越しから聞こえた声は翔であった。奈々は何があったかはまったくわかっていない。夢なのかそれともどこかで生きていたのか。この時は完全に蘇る話のことを忘れている。

「そうすれば私が外に出ると思った?馬鹿にしないで」

 これは偽物だということにした。死んだはずの人間が生きているわけがない。

「お前との記憶がねーからなんも言えねーんだよな」

 本人だと確信されられることが何も思い浮かばなかった。

「記憶をなくしたことにすればいいというこんたんなんでしょ?何が目的なの」

 翔と偽っている誰かだと思っている奈々は記憶がないことにすれば知らないことを理由にできると思った。

「お前を呪いから救いに来た」

 この言葉を聞いて思考が一瞬停止した。呪いは親が誰かに話さないと広まるわけがない。誰も思いつかない。近所だけでなく親族の人にもいったことがないのも知っているから。

「誰なの」

「だから!!」

 少し熱くなった。それに合わせて奈々がドアをたたく音がした。

「翔は死んだの!!。私の前で私をかばって。今日で一年がたった。でも私はあの事故を昨日のように覚えてる。だからお願い。翔ってうそをついて私を傷つけないで。私はあなたがいうように呪われている。だから」

 小さな声だが、強い気持ちで言っているのは感じ取れた。

「悪いな。本当につらいのにひどいことしたな。」

 涙を流してることを察することができた。記憶がなくてもなぜか感じる。誰よりも自分の死を悔やんでいる人は妹なんだと。

「私に何をしても外に出る気はないから。でも、心配してくれてありがとう」

 翔はあきらめリビングに戻った。

「どうだった?」

「信じてもらえなかった。それでさ。あいつって部屋から出ることあるの?」

「トイレとか行く時くらいかな。あと私たちがいないときに風呂には入ってるらしい」

 つまりほとんど出ることはないということだ。

「それで六花たちは呪いの話聞いてどう思った?」

「すべてがつながったからよかったかな。でも」

  六花はひどいことをされた。そして、奈々も傷つけた。だけど原因はしっかりあるのを知ってほっとした。それならまた会う可能性はあるから。

「だからこそそばにいたいな。あいつだけに背負わせないために」

 二人は同じ気持ちになっていた。呪いのせいで翔が死んだ。それは事実なのかもしれない。だが、翔以外の人が犠牲になることもできた。体が動かなかった二人はそう感じている。

「だったら今日はもう帰ってくれ。必ずお前らに合わせるから」

 翔には一ついい提案が浮かんでいた。

「何するの?」

「外に出るまで部屋の前にいる。あいつが俺のことを見ればわかるだろうし」

「安心した。あんたは本当に私の息子だ。それなら頑張りな」

 やっていることはごり押しだが、それでこそ翔だと母は思った。

「じゃー俺らは帰るか。何かあったら連絡してくれ」

 六花と大翔は帰っていった。

「夜どうする?」

「死んでるから腹減ってねーしいいや」

「わかった」

 翔はまた奈々の部屋の前に行った。そして今度は何も話さず座って待った。


 そして二時間くらいがたった。反応はない。すごく静かだ。それに腹が減ってきた。

「死んだら腹減らないって言ったのウソかよあの神め」

 死ぬわけではないから最低限食わないくていいのだが、空腹に耐えるのは相当きついことだ。

「奈々ご飯置いておくね。あんたもいったん休憩」

 なぜか空腹なのに気づかれたようだ。リビングに行くと父親がいてそれに翔のぶんの夕食があった。

「マジでナイス」

「やっぱり普段の生活で死なないだけなんだなこいつ」

 翔はもう死んでるからなんだけどね。それに父親も冷静だ。

「それにしても変わらないな」

「変わるわけないだろ俺にはまだひかれて数時間くらいしかたってねーんだから」

「早く食べな」

 親たちは奈々がこの場にいないだけでこれまでのことを聞こうともせず生きていた時のようにふるまっていた。死んだのではないかと思えるくらいに家族は仲が良い。

「それで、一年間どうすんだ」

 一年間の間に目的を達成すればよい、もしそれが明日解決しても一年入れる。ならその一年をどう過ごすかを父親は問いかけた。

「俺にはない奈々との思い出を作るよ。あいつ学校もろくに行ってなさそうだしな」

「そう。なら自由にしてな。私たちもできることがあったら支えるから」

 家からでなくなったのは自分のせいでもあると思っている母親は少しでも助けてやりたい気持ちがある。


「よし食べたことだし戻るか」

 結局普通に食べた翔であった。

「だったら奈々の部屋から食器出てたら持ってきて」

 翔が奈々の部屋に戻るとそこにはさっきと同じ状態で置かれている夕食があった。

「何も食べてねーのか?」

 自分ですら腹が減っているし心配になっている。

「またきたのもう帰って」

 一応本人であるため帰ってくるのは家だから帰っていることにはなるんだが。それとも死んでるから天国が帰るところなのであろうか。

「お前なんで夕食食わねーんだ」

「食欲がないの」

 食欲がないことはしょっちゅうある。基本奈々は週に二食四日ほどしか食べていない。

「少しでも食べろよ」

「いらない」

「俺は記憶がねーけどな心配になるんだよ!!。話聞いてもまたいなくなっても今後いきれるのか不安に思ったし。それに俺が託したんだから頑張って長生きしてほしーな」

 強めに怒鳴ったが話すうちに冷静になっていた。

「やっぱりあなたは翔なんだ。だったら私も言わせて?」

 扉が少しずつ開いていった。そこには痩せて不健康な奈々がいた。そして翔を壁に押し付けた。ほとんど力がないが、やられたとおりに翔はしたがった。

「なんで私を生かしたの。不安に思えるなら殺せばよかったのに。それに私を見殺しにしてれば死神の呪いから解放された。なんでこんなつらい思いを私にさせたの」

「お前これは」

 長袖の隙間から見えたのは何かを刺しているような跡だった。それに気づいたが何も返す言葉がない。記憶がないから。

「呪いの私を抑えれないとき意識が飛ぶ前にペンを腕に刺してた。そうすれば意識が飛ぶこともないし。でもこれ痛いんだよ。なのにね。自殺しようと試みたらただ痛いだけで終わる。そして、その日の夜に事故のニュースがあるの。私の呪いは知らない人にも発生するだよ。」

「それでは長く持たない。いづれ痛みを感じなくなる」

 慣れてきたら意識を戻せるくらいの強い衝撃には感じなくなる。

「わかってるよそんなの。だったらどうしろと?」

「気持ちで勝て」

「無理だよ。強くしても」

 すごく弱気になっている。奈々に対し胸ぐらをつかんだ。

「負けんなよ!俺が死んで生きる意味がないとか関係ないだろ。お前このまま呪いにいいようにされていいと思ってんか!!」

 生きていた時から怒っていたことはあるが、ここまで感情的なことはなかった。

「うるさい!!話は終わりもう消えて。翔ならこんなことしない。記憶のないなら翔だとしても私はあなたを認める気はない」

 さっきまでとは違い完全に凍り付いた眼をしていた。翔なら助けてくれると少しだが希望があったのだがそれすらも完全に砕けた。もう自分を救ってくれる人はいない。もう生きる意味なんてないんだと。


 翔は完全にやっていけないことをした。このままでは奈々から自分の記憶が消える。一刻も早く仲を取り戻さないといけない。といってもあの目をされて仲直りは難しいだろうな。

 しかし扉を閉められた後もずっと待っていた。何か手掛かりを見つけるために。

ふと夕食を思い出してあった場所を見るとそこにはなにもなくなっていた。扉を開けたときに気づかないとか鈍感度と感じた。人としゃべって腹が減ったんだろう。まだ希望は0でないのは少し確信を持った。だからもうしばらく部屋の前にいた。


「お前の親の飯はうまいな」

 奈々のもとに久しぶりに死神がきた。

「何で来たの?というかあれは何なの?」

 約一年ほとんど奈々の前に現れなかった。そして面白いことはまだ何も起こっていない。

「あれはお前をまた元の自分、元の生活に戻れるよう神が仕向けた使い。確かに本人で間違いない」

「つまりあなたとは表裏一体ってことね。あなたならあれを消せる?」

 奈々にとって翔の存在は今では邪魔になっている。存在がなくなればまた普通に部屋にこもれる。

「さすがに無理だ。我といえど神の力を消すのはな」

「あっそ。ならいいわ。なら私が何とかする邪魔しないでね」

「邪魔も何もただ見て楽しんでるだけだから安心せい」

 死神はあえて面白くなくなるから記憶がなくなることについて話さなかった。


 翔が来たことにより時間が進んだしかし今は悪い方向だ。このままでは奈々は本当の死神になるのかもしれない

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