「ざまぁ」されてサクリと殺される悪役令嬢に転生してしまった ~破滅回避に奔走していただけなのに、何故かものすごい聖人だと勘違いされて、未来の大聖女に崇拝されているようです~
6. 辺境スローライフ大作戦、あっさりと見破られる!
6. 辺境スローライフ大作戦、あっさりと見破られる!
勇者パーティが浮かべた複雑な表情。
(え、何その反応?)
きな臭さを感じる。
何か見落としがありそうで不安になるアンリエッタ。
答えはすぐもたらされた。
「貴様も当然知っているのだろう? 俺たちが勇者パーティとは名ばかりの捨て駒に過ぎないということは」
そう口にしたのはエドワードだった。
(え、なにを言ってるの?)
勘弁してほしい。
そんなヘビーな設定いらないんだけど。
「我々は第六七世代の勇者パーティだ。教会では既に次世代の勇者がスタンバイして、俺たちの訃報を待っているのだろうな」
エドワードは自嘲気味に笑う。
(そんなに多くの勇者パーティがやられたってこと? ちょっとバランスおかしすぎないかしら……)
アンリエッタは困惑した。
勇者パーティという言葉。そこから連想したのは、世界中の希望を一心に背負う英雄的存在だった。
しかし彼らの口から語られるのは、そんな想像とはかけ離れたもの。
(……勝手なことをした私を脅すために、口から出まかせを言ってるだけよね?)
そう思いたかったが、勇者パーティの表情は演技とは思えぬほどに陰鬱なもの。
魔王に挑んで殺される――彼らにとって、逃れようのない役割であり宿命なのだ。
(小説でそんな設定は無かったはず。裏設定ってやつかしら?)
小説では端折られた彼らの事情。
今、目の前にいるのはキャラクターではない。喜び・悲しみ・さまざまな感情を持つ、生きている人間なのだ。
「人間が魔族に勝てる訳がない。人間は魔族に屈していない――そうアピール出来れば、俺たちは十分に役割を果たしたと言えるだろうさ」
「ほんっとうに馬鹿らしい見栄だよね」
「だからこそ最後ぐらいは、思うがままに生きようと。少し羽目を外しても互いに不干渉でいようと――そう決めたではないか?」
苛立ったように言うエドワード。
怒りをぶつけられる形になったアンリエッタは――
(ミントちゃん助けて! 空気めちゃくちゃ重たいんだけど!!)
癒しを求めて現実逃避していた。
アンリエッタは直感した。
彼らの嘆きは本物であると。
(ざまぁを回避しても結局死ぬの?)
なにそのクソゲー。
「アカン」
アンリエッタは死んだ目になった。
せっかく少しミントちゃんと仲良くなったのに。
――もうミントちゃんを連れて逃げちゃおうか。設定を後出しされても「もう遅い!」って。
「……やるしかない」
考えれば考えるほど、それしかない気がしてきた。
(逃げよう。こんな世界なんて知らない! 私はミントちゃんと隠居する!)
(目指せ、辺境スローライフ!!)
「私とミントだけでも――やってやるわ!」
何故、気づかなかったのか。
運命と真っ向から殴り合う必要なんてない。逃げるが勝ちなのだ!
こうしてアンリエッタが良からぬ決意を固める間、勇者パーティーは静まり返っていた。
ぽつりとエドワードが呟く。
「ま、まさか。貴様は、ひとりで魔王に挑むと言っているのか? 聖女の育成を請け負うだけでなく、すべてを投げうって強大な敵に挑もうと……」
(ん?)
彼は感動に打ち震えていた。
困惑するアンリエッタを置いていきぼりに、彼の言葉は止まらない。
「俺だって仮にも勇者に選ばれたんだ。年下の女の子が、これだけ頑張っているんだ。これで奮起しなかったら貴族――いいや、ひとりの男として失格だ」
「ちょ、ちょっとエドワード。あんたもこいつの口車に乗るの!?」
(んんんんんん?)
「最後ぐらい夢を見ても良いじゃないか。世界を救う英雄か。目指してみるのも良いかもな――」
(あなたの決意は良くわかりました)
(素晴らしいです。どうぞ私の知らないところで魔王を倒して、平和な世界をつくってください!)
「アンリエッタのおかげで決断できたんだ」
「それは良かったですわ!」
「貴様をひとりで行かせるつもりはない。この旅がどんな結末になったとしても――アンリエッタには、どうか最後まで身届けて欲しい」
「……え?」
(え、嫌ですけど? 私、辺境でスローライフに勤しむ計画があるんですけど?)
アンリエッタの戸惑いの声を、エドワードは「着いていく」と告げたことに対する驚きだと解釈した。
「何を驚いている? 勝手に出ていこうとしたら、勇者のプライドにかけて追いかける。最期の時まで一緒だ」
(ノー!? 絶対に逃がさない宣言だよねこれ!?)
(なんでバレたの? 辺境スローライフ大作戦は、さっき考えついたばかりの計画なのに!?)
つ、詰んだ!
どうしてかは分からないが、企みは勇者に筒抜けだったらしい。
「勇者のプライドにかけて追いかける」なんて――そうまでして道連れにしたいのか!
アンリエッタは絶望した。
「ありがとうございます! どこにも行きませんわ。私は勇者パーティの一員ですから」
(これで満足か。こんちくしょう)
逃走は不可能だと悟り、思わず涙目になるアンリエッタ。
内心で毒づきながらも、穏やかな微笑みを浮かべて、彼女はそう答えるのだった。
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