5. 第一回・勇者パーティ更生計画!

(これですべてが上手く収まれば良いんだけど、そう上手くはいかないわよね)


 ミントとのやり取りを終え、アンリエッタは静かにため息をつく。


 後ろから突き刺さる物言いたげな視線。

 振り返ると勇者パーティの面々と視線が合った。何がそんなに気に喰わないのか、彼らはアンリエッタのことを睨みつけていた。



「アンリエッタ、パーティのリーダーとして貴様に話がある。少しだけ時間を貰えるかな?」

「ええ。私も同じことを思ってましたわ」


 そしてエドワードからの誘いである。


(面倒ごとの臭いしかしない。めっちゃ放置したい――放置したいけれど)


 アンリエッタという少女、ざまぁに繋がる事象には非常に敏感であった。

 彼女の直感が告げている。

 このまま勇者パーティを放置するのは、危険であると。



「アンリエッタ様。どうなさるのですか?」

「ミントさんは、何も気にしないで良いわ」


(ミントちゃん優しい!)

(小首を傾げる仕草も可愛い!)


 ほわほわ〜っとした仕草は、見ているだけで癒やされる。見ているだけでHPが回復しそうだ。

 これも聖女のなせる技か!?


 少し気に喰わないだけで、ガンを飛ばしてくる勇者パーティとは大違いだ。



「エドワードさん達と、パーティの今後について話してきます。ミントさんは先に休んでいて下さいね?」


 アンリエッタはそう言い残し、勇者パーティらのもとに向かうのだった。




◆◇◆◇◆


(油断は死を招くわ!)


 ミントちゃん土下座事件は、どうにか無事に乗り越えた。

 しかし事件の元凶――勇者パーティをどうにかしないと、何度だって同じことを繰り返すだろう。



 連帯責任という言葉がある。

 いじめられた者にとっては、何もせずに止めなかった者も、積極的に加担した者も同罪。

 同じだけ恨めしいものなのだ。


「勇者パーティは、私を虐めて来たじゃないですか。今さら助けを求められても知りません!!」


(――なんてならないためにも!)


 ミントちゃんは天使だ。

 あの笑顔を曇らせるようなことをしてはいけない!



(勇者パーティには、ミントちゃんを大切にするようガツンと言わないと!)


 名付けて勇者パーティ更生計画!

 完遂した暁には破滅フラグなんて木っ端微塵よ、とアンリエッタは上機嫌だった。

 



◆◇◆◇◆


 かくしてアンリエッタは、勇者パーティの面々と向き合っていた。


「何の用ですか。言いたいことがあるなら聞きますよ?」

「我々は結成したばかりのパーティだ。足並みを揃えるために、勝手な行動は慎んでもらいたい」


 開口一番そう言うエドワード。

 アンリエッタは、思わず鼻で笑ってしまう。



「寄ってたかってひとりの女の子を虐め抜くのが、このパーティのルールだとでも?」


(ふざけんな。私まで「ざまぁ!」されちゃうでしょう!?)


「勇者パーティに選ばれちゃったくせに、卑怯者の見習い聖女に、ペコペコ頭を下げるなんて。馬鹿じゃないの?」

「あなたがそう思うのは勝手だけどね」


(……選ばれちゃった?)


 ルーティの言い方が引っかかったが、気にせず徹底抗戦の構えを見せる。


 

「ルーティの言うとおりだ。常識外れの振る舞い、貴様は貴族の権威を落とすつもりか?」

「そんな下らない常識は、目的のためには邪魔なだけだわ!」


 アンリエッタの思考回路は、「ざまぁ回避!」と「可愛いものを愛でたい!」という煩悩だけで成り立っている。

 貴族のプライドなどとう、破滅を呼び込む危険物に用はないのだ。



「何よ、あなたの目的って?」

「そ、それは――。……勇者パーティの目的なんて、最初からひとつしか無いでしょう?」


(ここがウェブ小説の世界と言っても、理解されないものね……)


 そうして咄嗟に出てきたのは、勇者パーティの目的を達成することだった。

 無難なところだろう。

 

 ミントの純真無垢な笑みを思いだしたのだ。アンリエッタが魔王を倒すために活動していると、信じきった天使の微笑み。


(どうせならミントちゃんに、良いところを見せたいもの!)


 アンリエッタというサブキャラ、一応魔道の天才という設定があったはずだ。勇者の後ろに隠れて、魔法をぶっ放しながら応援していよう。



「あんたは本気で魔王を倒すつもりなの?」


 なぜかおののく魔女っ子・ルーティ。

 

(え? 勇者パーティって、そのために結成されたんだよね?)

(なんでそんなに驚かれるの?)


 不思議に思ってエドワードに視線を向けると、


「そんなことが可能だと思っているのか?」


 こちらも似たような反応。



(可能かって――そりゃあ可能でしょう)

(魔王の役割は勇者に討たれること。ミントちゃんが瞬殺してたし……)



「当たり前じゃないですか」


 だからアンリエッタは、自信満々で言い切る。

 その様子を見て、勇者パーティの面々はあんぐりと口を開けるのだった。

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