第48話 カルネイロ家へ

※本日は夜にもう1話投稿予定!




「い、一週間前に会ったんですか!?」


 ドミニクたちが捜しているイリーシャの両親――ギデオンとヴェロニカ。

 そのふたりに、カルネイロ家のカタリナ令嬢と専属メイドのイザベラはほんの一週間前に顔を合わせたというのだ。


「は、はい」

「「今そのふたりはどこに!」」


 ぐいっと詰め寄るドミニクとアンジェ。

 その迫力に驚きつつも、イザベラは説明をする。


「お、おふたりは昔からカルネイロ家と懇意にしていて、先日も新しい仕事に就くため、しばらく国を離れるからと挨拶にいらしたんです」

「新しい仕事……」

「国を離れる……」


 重要なふたつのワードを噛みしめるように、ドミニクとアンジェは繰り返し口にした。


「その仕事の内容や、どこへ向かうかは言っていませんでしたか?」

「……恐らく、旦那様にはお話になったと思いますが、私たちは聞いていません」

「そうですか……」

「でしたら、お父様に直接聞きに行けばよろしいのでは?」


 大人たちの話し合いに、突如子どもの声が混じる。

 声の主はカタリナであった。


「わたくしがお父様に直接頼めば、あのふたりがどこでどんな仕事をしに行ったのか、すぐに分かりますわ」

「えっ? し、しかし、そううまくいくかな?」

「間違いなく成功すると思いますよ」


 イザベラはそう断言した。


「ず、随分自信があるんですね……?」

「旦那様はカタリナ様に激甘ですからね。お嬢様に上目遣いでお願いをされたら、機密情報さえ漏らしかねません」


 それはそれで問題大アリな気もするが、同時に問題なく事が進みそうではあるという希望が湧いてくる情報でもあった。


「いよいよ、か……」


 そこで無事にギデオンとヴェロニカの現在地が把握できれば、イリーシャと会わせることができる。


「ご安心くださいまし! わたくしが必ずやあなたをご両親に会わせてみせますわ!」


 カタリナは力強くイリーシャにそう語った。

 シエナもエニスも、両親に絶対会えるとイリーシャを励ましている。


「…………」


 その様子を、ドミニクは感慨深く見つめていた。

 ずっと屋敷でひとりぼっちだったイリーシャ。

だが、旅を続けているうちに、気づけばこんなにも友だちができていたのか、と。


「そうと決まったら、すぐに出発いたしましょう!」


 今にも宿屋を飛び出していかん勢いで、カタリナがそう提案する。

 その申し出に、まったく異論はない。


「そうだな。よし、行くか」

 

 こうして、ドミニクたちの次の目的地はカルネイロ家の屋敷に決定したのだった。


  ◇◇◇


 翌日。

 温泉街イヴァンを出たフォルトたちは、カルネイロ家の屋敷を目指して進路を西にとっていた。


 イザベラが御者を務める馬車で先行し、その後ろをドミニクたちがついていく。

 ちなみに、今回の件はお忍びということになっているが、実際はカルネイロ家当主の意向がふんだんに盛り込まれているため、はたから見るとドミニク一行+カタリナとイザベラという組み合わせだが、周囲はがっちりと護衛に守られていた。


 厳重な警戒の中、国境を越えて入国をするのに数時間ほど時間を費やしたが、それ以外は特に問題は起きずに屋敷へ到着。

 守りが堅かったおかげもあるのか、道中でモンスターや山賊などに襲われることはなく、いたって平和に目的地へとたどり着けた。


「ただいま戻りましたわ!」


 意気揚々と屋敷へ入るカタリナ。

 その後ろから、ドミニクたちもついていった。


「「おぉ……」」


 ドミニクとアンジェは同時に感嘆の声を漏らす。

 ダンジョンで見た青い流星も素晴らしく美しかったが、屋敷内の華美な装飾の数々はそれとはまた異質ながらも美しかった。


 その時、周りにいたメイドや執事たちがザッと一斉に頭を下げる。

 何事かと困惑していると、


「戻ったか、カタリナ」


 現れたのはこの屋敷の主であり、カタリナの父親であるフロイデン・カルネイロであった。


「ただいまですわ、お父様!」

「おかえり、カタリナ」

「……?」

「? どうかしたかい?」

「随分と落ち着いていらっしゃいますのね」

「!?」


 そりゃそうだろうな、とドミニクは思った。

 娘の夢を叶えたい――が、健康になったとはいえ、もとは病弱な子だった娘を大っぴらに外へ出すわけにはいかない。そのため、イザベラを通して「お忍びである」とカタリナに告げ、青い流星を見るための冒険へ出させたのだ――周辺を腕の立つメイドや執事で固めた厳戒態勢を敷いて。


 信頼できる者たちに任せていたので、父フロイデンはまったく心配していなかったのだが、逆にその安心感が娘に不信感を抱かせた。


 予期せぬ窮地に陥ったフロイデンは咄嗟に、


「お前を信頼していたからだよ、カタリナ」

「お父様……」


 少々強引な手に打って出たフロイデンであったが、カタリナはすっかり信じ込んでしまったようだ。


 気を取り直して、フロイデンはドミニクたちへと視線を移す。


「君がドミニクくんか。イザベラから使い魔を通してすでに連絡をもらっている。娘のためにいろいろと協力をしてくれたようだね」


「は、はい」

「来なさい。君たちの知りたいことを教えよう。他の者たちは――イザベラ、おまえに任せるぞ。……見たところ、カタリナの大事な友人のようだ。くれぐれも丁重にもてなすように」

「! かしこまりました」

「お父様……!」

 

 カタリナにとっては、ドミニクたちを友人として扱ってくれることが嬉しかった。

 当主フロイデンの命を受けた使用人たちはアンジェや子どもたちを別室へと案内する。その一方で、ドミニクは応接室へと通した。

 ちなみに、霊竜エヴァはドミニク側についている。




 通された応接室もまた豪華な造りであった。


「まあ、ゆっくりしてくれ」

「は、はい」


 緊張した面持ちで、ドミニクはソファへと腰を下ろした。


「使い魔からの情報によれば、君たちのパーティーにいるイリーシャという少女が……ギデオンとヴェロニカの娘らしいね」

「そうです」

「……確かに、自分たちにはイリーシャという名の娘がいると語っていた。――とはいえ、最初は疑っていたのだが……まさか、あの子の外見があそこまでふたりにそっくりだとは思わなかったよ」


 フロイデンは笑いながらそう言った。


「そ、それで、ふたりは今どこに?」


 ドミニクはいきなり核心をつく。

 無作法かもしれないが、はやる気持ちを抑えきれなかったのだ。

 しかし、フロイデンは不快に思うどころか優しく微笑んだ――が、すぐにその表情が曇ってしまう。


「私は……君にとってはあまり歓迎できない報告をしなくてはならない」

「!?」


 いきなり暗雲が立ち込めた。


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