第47話 流星の正体
ダンジョンの奥へ進む途中、モンスターの襲撃は何度かあった。
そのたびに、霊竜エヴァの憑依したドミニクとイリーシャ、さらにアンジェと武術の心得があるイザベラが大活躍。
「つ、強いですね、イザベラさん」
「メイドとしての嗜みですよ」
ニコッと微笑むイザベラ。
その背後には格闘術でボコボコにされたゴブリン(×3)の姿があった。
「なんていうか……華麗な戦い方でしたね……」
「ああ……まるでダンスをしているようだった……」
見た目からはまったく想像できない戦闘スタイルに、ドミニクとアンジェは思わず見入ってしまっていた。
そんなことがありながら進むこと三十分。
たどり着いたのはダンジョンの最奥部だった。
そこは、これまで来た場所と雰囲気がだいぶ異なっていた。
「な、なんだここは……」
開けた空間に高い天井。
岩壁に付着した発光する藻により、淡い青の光に包まれたその空間は神秘的なオーラを放っていた。
「凄い……」
「綺麗ですわ……」
イザベラとカタリナはその空間に魅了されていた。
ダンジョンには潜り慣れているドミニクやアンジェも、この光景は初めて見た。それはイリーシャやシエナ、エニスも同じだった。
――唯一、違う反応を見せたのはエヴァだった。
「ここは昔と変わらんのぅ」
「えっ!? エヴァさん、ここに来たことがあるんですか!?」
「来たも何も、ここは元々ワシがねぐらにしていた場所じゃ」
「なっ!?」
つまり、エヴァは生前、このダンジョンで暮らしていたのだ。
「じゃ、じゃあ、青い流星というのは……」
「こんな奥地までやってきた暇な人間をからかうために魔力をちょちょっといじって驚かせていたじゃが……まさかそっちの世界でそのような取り上げられ方をしているとは夢にも思わんかったわ」
「かっかっかっ!」と笑い飛ばすエヴァ。
だが、その笑い声はピタリと止まった。
「おっと、笑っておる場合じゃない。青い流星はこれでまだ完成ではないのじゃ」
「そ、そうなんですか?」
「これはただの自然現象じゃろう? 本番はここからじゃ――それっ!」
エヴァの掛け声とともに、強力な魔力が一瞬にして空間全体へと広がる。
すると、洞窟の壁面にポツポツと小さな光球が現れ始めた。
「な、なんですの?」
「わ、分かりません……」
困惑するカタリナとイザベラ。
荷台から下りて辺りを見回しているアンジェやイリーシャたちも、変化する状況に驚きを隠せない様子。
――次の瞬間、光球が流星のように地面へと落ちていく。
それはひとつふたつではなく、数えきれない量になり、次々と流れ落ちていくその様子はまさに流星群と呼ぶに相応しかった。
「なるほど! 淡いブルーのダンジョン内を夜空に見立てることで、光球が流れ星のように見える――これが青い流星の正体だったんですね」
「そういうことじゃ」
発端は霊竜エヴァのイタズラ心だったが、それがひとりの少女の人生をガラッと変えてしまった。
その少女は、
「あぁ……凄いですわ……挿絵とまったく一緒……」
目に涙を浮かべながら、ダンジョンに降る流星を見つめ続けていた。
◇◇◇
青い流星観測ダンジョンツアーは大成功を収めた。
カタリナは感動のあまり、終わってからもしばらく呆然としていたが、イザベラが声をかけて荷台へと戻った。
事前に仕掛けておいた転移魔法アイテムの《天使の羽》を利用し、帰りは一瞬で外へと戻って来た一行。その日はそのまま宿屋へと帰還した。
宿屋では、カタリナをはじめ、子どもたちがワイワイと今日一日の出来事を興奮気味に振り返っていた。
その様子を見守る大人三人は、報酬についての話を始める。
「本当にありがとうございました。なんとお礼を言っていいやら」
「いえいえ、気にしないでください」
「私たちにとってもいい経験になりましたから」
優雅にお茶を飲みながら、話しを進める。
「ラドム王国への紹介状についてですが……入国の目的について、伺ってもよろしいでしょうか」
「ああ、それなら問題ないよ」
それも当然だろうと思ったドミニクは、イザベラへラドム王国へ向かう理由について説明する。
「あそこにいるイリーシャという子の両親が、ラドム王国で働いているらしいんです。名前はギデオンとヴェロニカというんですけど」
「!?」
ドミニクが何気なく両親の名前を出すと、イザベラの表情が変わった。
「? どうかしましたか?」
「い、いえ……そのふたりを捜しているのですか?」
「えぇ。イリーシャに会わせてあげたいと思って」
「そうですか……」
イザベラはしばらく思い悩み、とうとう真実を口にする。
「あの、ドミニクさん」
「なんですか?」
「そのふたりなんですが……私とカタリナお嬢様は、一週間ほど前にお会いしています」
「「えぇっ!?」」
思わぬ情報に、ドミニクとアンジェの驚く声が重なった。
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