第32話 新たな情報

 真夜中の妖精族との出会い。


 彼女たちは懇意にしているエルフ族――つまりイリーシャの気配を察知したようだが、実際は純血のエルフ族ではなく、竜人とのハーフである。


 それでも、「会ってみたい」という妖精たちの願いを聞き入れたドミニクは、妖精たちを連れて帰還。まず驚いたのは帰りを待っていたアンジェだ。


「えっ!? えぇっ!?」


 初めて見るという妖精族に戸惑うアンジェ。

 その愛らしい容姿に目を輝かせていたが、彼女たちのお目当てがイリーシャであると知るとハッと我に返る。


「イリーシャならぐっすり寝ているけど……起こす? 起きるかなぁ?」


 そう。

 イリーシャは寝つきがいい反面、一度寝るとなかなか起きない。

 朝方ならまだしも今は深夜。

 難易度としてはかなり高いと言えた。


「あぁ……ちょっと待っていてくれるか? すぐに起こしてみるから」

「大丈夫ですよ」


 イリーシャへの面会を最初に希望した金髪碧眼の妖精が、荷台で寝ているイリーシャの近くまで飛んでいく。

 それからしばらく目を閉じていたが、


「……うん。間違いない」


 何かを察したらしく、納得いった様子で荷台から戻って来た。


「あの子からはヴェロニカの匂いがするよ」

「!? ヴェ、ヴェロニカって……イリーシャの母親を知っているのか!?」

「うん。だって、この森はそのヴェロニカに紹介してもらったんだもの」

「なっ!?」


 意外なところからつながりが出てきた。


「そ、それはいつの話だ!?」

「それほど前じゃないよ。ほんの二、三年くらい前」

「じゃ、じゃあ、この森を紹介した後、そのヴェロニカってエルフの方はどこへ行ったか知りませんか?」


 今度はアンジェが前のめりになって妖精に迫る。


「どこへ行ったかまではちょっと……あ、でも、住処を探していた私たちみたいに、困っている種族を助けるのが仕事って言っていたわ」


 そこで情報は途絶えた。

 しかし、同時に新たな情報も手に入る。


「国絡みの仕事って、そういうものだったのか」

「確かにそういった内容なら、世界中を飛び回りますからね」


 以前、冒険者アントニオから聞いた情報は間違いないようだ。


「となると、どの国のどういった機関で働いていたか特定できれば……」

「!? そこへ問い合わせて、現在地を把握することができる!」

「そして、その情報は……そういった仕事をする前まで所属していた銀狐のメンバーが知っている可能性が高い!」


 これはいよいよ両親との再会が近くなってきた。

 

「ありがとう、妖精たち。何かお礼をしたいんだけど……」

「お礼?」


 イリーシャに会いたいと言いだした金髪碧眼の妖精がニヤリと笑ってドミニクの眼前まで飛んでくる。


「なら、私を一緒に連れて行って」

「「えっ!?」」


 これにはドミニクだけでなくアンジェも驚いた。


「ど、どうしてまた……」

「前々から興味があったの。でも、人間の中には私たちを売買の対象と見ている連中もいるから……」


 それは紛れもない事実だ。 

 特に妖精の歌声というのは人間にとってさまざまなプラス効果をもたらす。ドミニクはそれを体験済みなので、あの効果を人々が欲する理由はよく分かった。とはいえ、もちろん自分がそういった輩と同じく、妖精たちを捕らえてどうこうしようとは思わない。


 しかし、そうなるとひとつ疑問が残る。


「でも、俺を見た時は特に慌てた様子もなかったけど……」

「あなたはヴェロニカと同じ感じがしたもの」

「ねぇ~」


 妖精たちは顔を見合わせて「ねぇ~」と笑い合う。

 どうやら、「ドミニクは安全」というのが、妖精たちの間でいつの間にか共通認識になっているようだ。


「まあ、確かにドミニクは安全ですけどね」

「それは誇っていいことなんだよな?」

「妖精族のお墨付きですからね」

「えぇ。ドミニクは本当に安全ですよ。……全然手を出しませんから」

「えっ? 何か言った?」

「いいえ、別に」


 突然機嫌が悪くなったアンジェに首をひねりつつ、ドミニクは妖精族の少女をパーティーへ引き入れることに合意。


 こうして、新たな仲間が加わったのだった。

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