第33話 妖精の森
新しく加わった妖精族の少女はエニスと名乗った。
この森をいたく気に入ったらしく、紹介してくれたヴェロニカに是非ともお礼を言いたいのだという。他の妖精の話では、誰よりも一番ヴェロニカに懐いていたようなので、単純にまた会いたいという気持ちも強いのだろう。
ドミニクは妖精たちに渓谷の件について教えておいた。
土砂崩れが起きてしまい、しばらくの間はこの森に多くの人間が行き来する。そこを利用するすべての人が善人とは限らないので、注意してほしいと告げたのだ。
妖精たちは忠告に感謝し、お礼だとあるアイテムをドミニクへ渡した。
「これは?」
「妖精印の首飾りよ。厄除けの効果があるわ」
「なるほど。宝箱のドロップ率アップってところか」
ドミニクは早速それを装着すると、妖精たちに礼を述べた。
その場はそれで一度お開きとなり、夜が明けてから改めて話をすることとなった。
◇◇◇
翌日。
「「おお~」」
目覚めたイリーシャとシエナは初めて見る妖精族に興味津々。
特に人間であるシエナはこういった他種族と縁遠い生活を送ってきたため、その瞳の輝きはイリーシャよりもずっと強かった。
ドミニクは妖精たちによってイリーシャの両親に関する新たな情報を得たと告げる。
妖精たちも、恩人であるヴェロニカの娘の姿を一目見ようと大勢集まって来た。
その数は百以上。
「こんなにいるとは……」
「それだけここが生活しやすい森というわけですね」
きっと、妖精たちにとって良好な生活環境であることを見越し、ヴェロニカはここを勧めたのだろう。未だに妖精たちが彼女を慕っているところを見るに、心優しい人物であることが窺えた。
ちなみに、妖精たちには霊竜エヴァの姿が見えるらしく、また、とても珍しい存在ということで注目を集めていた。
「幽霊になるドラゴンくらい他にもおるわ」
と、うんざりしたように語るエヴァだが、それは絶対にないと思うドミニクとアンジェであった。
旅支度が整うと、
「いってらっしゃ~い」
「気をつけてね~」
多くの妖精たちに見送られながら、ドミニクたちはゼオ地方へ向けて出発した。
妖精たちはアイテムだけでなく、人に知られていない短縮ルートを「誰にも言わない」という制約付きで教えてもらうことができた。そのおかげで、速ければ昼過ぎには森を抜けられるらしい。
「人間の世界……楽しみ♪」
その妖精たちの中から、特にイリーシャの母ヴェロニカと仲の良かったエニスが旅に同行することとなった。
妖精たちからもたらされた情報により、少なくとも母ヴェロニカは国絡みの仕事として困っている希少種族を支援する活動を行っていることは分かった。
ゼオ地方を拠点する冒険者パーティーで、かつてメンバーに名を連ねていた銀狐ならば、その国について何か知っているかもしれない。
新たにもたらされた情報から、今後の行動について考えているうちに、妖精たちの言った通り、森を抜け出ることに成功した。
「あそこが……ゼオ地方最大の都市コルドーか」
抜け出た先は小高い丘の上。
そこから見下ろすと、これまでに見たことがないほど大きな都市が広がっていた。
「さすがは大陸でも屈指の商業都市……私たちが暮らしていたジョネスとはまるで規模が違いますね」
「ああ……聞くところによると、あの都市へ入るのにも手続きや何やらで時間を食うらしいからな」
「なら、早く行きましょう。夜になる前に入って、せめて寝床を確保しておかないと」
「そうだな。――ランド」
「めぇ~」
ドミニクたちは急いで街へ向け再出発したのだった。
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