第31話 真夜中の出会い

 旧道で遭遇した謎の光。

 その正体を知るべく、ドミニクは音を立てないようゆっくりと近づいていく。

 凶悪なモンスターはいないという情報だったが、それを鵜呑みにして無防備でいるわけにもいかない。昨日まではいなくても、今日、ついさっき、よその土地から移って来た可能性だってあるのだ。


 そんなことを頭に入れながら近づいていく。

 不思議と、嫌な気配というものは感じない。


 むしろ暖かい――居心地の良ささえ感じてしまうのだ。


「本当に……なんなんだ?」


 一歩、また一歩と光りに近づいていくドミニク。

 すると、何やら声のような音が聞こえてきた。


「~~♪」


 耳を澄まして聞いていると、それは、


「……歌?」


 それはただの声ではない。

 楽しげに歌う子どもの歌声だった。

 こんな夜の森に子どもの歌声――エヴァのこともあるので、もしかしたら幽霊の類かと体が強張る。

 だが、幽霊の歌声にしてはとても明るい。

 イメージ的に、現世へ未練を残した者による悲壮感たっぷりの歌声なのではと思っていたのだが、聞こえてくる子どもの歌は、歌うこと自体を楽しんでいるような、明るさを感じるものだった。

 ますます謎が深まったドミニクは、意を決してさらに接近。

 すると、ついに歌っていた声の主たちの姿を確認する。



「「「「「ランランラ~ン♪」」」」」


 

 やはり、歌っていたのは子どもたちだった。

 人数は五、六人で、見たところ全員女の子のようだ。

 ――が、その背丈はかなり小さい。

 どう見ても十センチ前後しかないのだ。

 草花で作ったと思われる服に、透明な羽を有する少女たち。


「まさか……妖精?」


 噂に聞いたことはある。

 ひと気のない森に住むと言われる妖精たちの話。


 かつてはゼオ地方への通り道として多くの旅人や行商が行き交っていたこの旧道。その頃は目撃されなかったが、渓谷側に新しいルートが開拓されたことで、人がほとんど利用しなくなったことがきっかけで住みついたのかもしれない。


 と、その時、


「あ」


 妖精のひとりと目が合った。

 途端に、妖精たちは歌を止めてジッとドミニクを見つめる。


「あ、え、えっと、こんばんは……」


 バツが悪そうに挨拶するドミニク。

 しかし、妖精たちからはなんの反応も返ってこない。

 気まずい時間が流れる中、おもむろにひとりの妖精が口を開く。


「この人かな?」

「違うと思うよ」

「でも、とっても近い」


 口々によく分からないことを言い合う妖精たち。

 ドミニクが困惑していると、最初に口を開いた妖精が小さな羽で浮かび上がり、ドミニクの眼前まで迫る。


 そして、こんなことを話し始めた。


「あなたはエルフ?」

「は?」


 あまりに突拍子もない質問だったので、思わずフリーズ。

 しかし、どう考えても自分がエルフなわけがないと思考が回復したドミニクは妖精たちにそれを告げる。


「俺はエルフ族じゃないよ。……ただ、この近くにエルフと竜人のハーフならいる」

「「「「「エルフと竜人のハーフ!?」」」」」


 妖精たちの声が綺麗に揃った。

 

「そういうことだったのか」

「だからちょっと変な感じだったんだね」


 驚いた様子を見せたあとは、何やら納得いっているような話をする妖精たち。

 そういえば、とドミニクは昔聞いた話を思い出した。

 エルフ族と妖精族はとても懇意にしており、エルフ族の住む森には必ず妖精族も住みついているのだという。

 ただ、エルフ族が住む森はごく限られた地域なので、人間の間でも知る者はごくわずかだという。


 だから、イリーシャの母ヴェロニカのように、人間社会へ溶け込んでいるエルフというのは非常に稀な存在なのだ。


「お兄さん」


 妖精とエルフの関係性を思い出していると、金髪に青い瞳の可愛らしい妖精がドミニクに話しかけてきた。


「お願いがあるのですが」

「な、なんだい?」

「そのエルフと竜人のハーフに合わせてもらいたいのです」


 妖精はドミニクにそう願いでた。

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