第22話 旅の資金稼ぎ
イリーシャの両親が所属していた冒険者パーティー――《銀狐》が拠点地にしているゼオ地方の中間地点。
ここにある町の近くにはダンジョンがあるらしいので、ドミニクたちは旅の資金稼ぎをするつもりだ。
「じゃあ、俺はギルドへ行ってくるよ」
「なら、私たちは宿を確保しておきますね」
「ああ、頼むよ」
アンジェたちにはまず近辺の宿屋の確保に走る。
とはいえ、ほとんど金欠状態のため、今日これからの活動によっては再び野宿となってしまう。それだけは避けたかった。
「まあ、危険だし、みんなにはベッドで寝てもらいたいし……」
自らに言い聞かせるよう呟くドミニク。
もちろん、それらは嘘ではない。
心からそれを望んでいる――のだが、その一方で、昨日のように四方を女子に囲まれた状態で寝るのはさすがにどうだろうかという思いもあった。イリーシャやシエナくらいの年齢ならギリギリセーフかもしれないが、アンジェくらいの年齢になるとさすがに冗談では済まされなくなってくる。
「お主の好きなようにすればよいではないか」
耳元で囁く霊竜エヴァ。
だが、ドミニクは首を横へ振る。
「その場のテンションに身を任せるとろくなことにならないというのはついこの前に痛いほど実感しましたからね。……まあ、あれは結局偽物だったからよかったですけど」
自分の詰めの甘さで、危うく大損害を被るところだった。
「今後はもっと慎重に物事を運ぶように考えます」
「ワシにはフラグにしか聞こえんがのぅ」
「ぐっ……」
決意は固いが、それを実行できるかは別問題。
しかし、一度失敗をしかけている分、ドミニクはこれまでの行動よりも慎重に物事を運ぶという意気込みだけは上がっている――その心意気だけでも、だいぶ違うだろう。
「うーん……」
「いつまでにらめっこをしているつもりじゃ?」
その慎重さがあらぬ方向で発揮された。
今、ドミニクはギルドにある掲示板の前に立っている。
ここにはさまざまなクエストとその報酬に関する情報が書かれているのだが、ドミニクはそれらをひとつひとつ吟味しており、なかなか決定を下せないでいた。
「こちらは報酬が高いけど、その分危険度も高い。こっちはシエナがいても問題なさそうだけど……いくらなんでも安すぎる」
ブツブツと何事かを呟きながら掲示板を凝視するドミニク。
と、そこへ、
「まだ決めていなかったんですか?」
「! アンジェ!?」
「宿の手配を終えたのになかなか戻って来ないから様子を見にきたんですけど……何をそんなに悩んでいるんですか?」
「ああ、いや……あまり危険じゃなくて稼ぎのいいクエストを――」
「そんなのあるわけないじゃないですか」
「ワシはさっきからずっとそう言っておるのじゃがなぁ」
「い、いや、でも……」
煮え切らないドミニクに対し、アンジェは「はあ」とため息をついてからひとつのクエストを指差す。
「あの討伐クエストにしましょう。あれくらいの報酬があれば、ゼオ地方までの旅費としては十分すぎますし、余った資金で新しい装備を購入することもできます」
「討伐クエスト!? そんな危険な――」
「少しは私たちを信用してください。あなただけじゃなく、イリーシャちゃんもいるし、私だって少しは戦えますよ」
自分たちを信じろと言うアンジェ。
そう言われては、もう何も言えなくなるドミニク。
「さあ、そうと決まったらダンジョンへと向かいましょう」
「あ、ああ、そうだな」
こうなったら覚悟を決めよう。
ドミニクはアンジェが選んだクエスト――《ダブルヘッド・ベア》を討伐するため、ダンジョンへと向かった。
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