第21話 旅の途中で

 両親を亡くし、ひとりで放浪を続けていた少女――シエナを新たに仲間として加えたドミニクたちは、旅の資金稼ぎのためにダンジョンを目指して出発。


「わあ、もふもふですね」

「ランドっていうんだ」

「よろしくね、ランド」

「めぇ~」


 当初は大人であるドミニクやアンジェを怖がっている感じだったが、それも徐々に薄らいでいき、今では普通に会話ができる。

 その要因の一端を担うのが、


「シエナ」

「ん?」

「ランドはここを撫でると喜ぶ」

「そうなんだ! あ、ホントだ!」


 外見上は同年代に見えるイリーシャの存在だった。

 ふたりは顔を合わせるなりすぐに打ち解け、今もお互いべったりと寄り添っている。


「仲良くなってくれたみたいでよかったですね」

「ああ。ひと安心だよ」

「ワシとしても孫娘に友人ができて喜ばしい限りじゃ」


 ランドと戯れるイリーシャとシエナを見て、ドミニクたち大人組はホッと胸を撫で下ろしていた。


  ◇◇◇


 旅支度を終えたドミニクたちは、次なる目的地を目指して町を出る。

 

「次はダンジョンに潜ることになるけど……シエナは大丈夫かな?」

「わ、私! これまでダンジョンに潜ったことはないですけど、みなさんのお手伝いをしたいです!」


 真剣な顔つきで訴えるシエナ。

 その意気込みは買いたいところだが、さすがに危険なのではと考えるドミニク。しかし、そうなるとダンジョンの外でひとり待つこととなってしまう。それはそれで可哀想に思えてきたので、


「分かった。でも、戦闘中は危険だからランドの引っ張る荷台で大人しくしていること。いいね?」

「は、はい!」


 一緒に連れて行ってもらえるという決定が嬉しいのだろう。

 それからシエナはしばらくの間、ニコニコと笑みを絶やさなかった。




 次の目的地に着く前に夜がやってきた。


「今日はここらで夜を過ごすことになりそうだな」

「とりあえず、焚火の準備をしますね」

「なら、俺はテントの設営を――」


 いつものように手際よく準備をしようとすると、イリーシャとシエナがキラキラした瞳でドミニクを見上げている。言葉にしていないが、きっと「私たちもお手伝いする!」と言いたいのだろう。


「イリーシャとシエナは焚火に使えそうな木を探してきてくれないか?」

「! は、はい!」

「分かった」

「くれぐれも遠くへは行かないようにな」


 ドミニクの忠告を受けて、ふたりは「はーい」と元気よく返事をすると仲良く肩を並べながら走っていった。ドミニクは「転ぶなよー」と声をかけ、テント設営の仕事へ戻る。


「ほれ~、頑張れ~、ドミニク~」


 エヴァの脱力しそうな応援を受けて、なんとかテントは完成――も、


「うーん……ちょっと小さいかな?」


 人数が増えたことで、もっと大きなテントに買い替える必要があった。


「さすがに四人は無理か……」


 テントを設営し終えると同時に、焚火も完成。

 早速、全員で一緒に夕食をいただく。

 シエナは久しぶりに大勢で食べる食事ということで、終始テンションが高く、それに合わせてイリーシャも元気いっぱいだった。

 

 そして、就寝時間になると、ドミニクはリュックから毛布を取り出した。


「テントはみんなが使ってくれていいよ。俺は外でランドにもたれかかりながら寝るから」


 ドミニクなりの配慮であったが、イリーシャとシエナはドミニクだけが仲間外れになると大反対。その結果、


「なら、みんなで寝ましょうか」


 アンジェからの提案に大喜びの少女ふたり。

 だが、「さすがにそれはまずいのでは」と思ったドミニクがアンジェに視線を送ると――ニコッと優しく微笑んで、


「この子たちがこれだけ期待しているのですから、裏切ったら可哀想ですよ?」

「…………」


 子どもふたりはともかく、アンジェは若いとはいえもう女性として扱うべき年齢。そういったわけで、ドミニクはためらっていたので、まさかのアンジェ側からの提案に驚きを隠せないでいた。


 ――が、結局この日はひとつのテントに四人で寝ることとなり、ドミニクはなかなか眠りにつくことができなかったのであった。

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